那須川天心と梅野源治が立て続けにムエタイの強豪と対戦したが、「ムエタイの凄さがイマイチわからん」という読者にお送りするムエタイ対談。元MAキック王者にしてREBELS代表の
山口元気氏と、現役時代はムエタイランカーと幾多の名勝負を繰り広げた
鈴木秀明氏に登場してもらいました〜!!
山口元気が代表を務めるキックボクシングジム「クロスポイント」
山口 自分は現役のときにムエタイのビデオを歌舞伎町のタイストアで買ったり、現地に行って見ていて、その時代のムエタイに関してはメチャメチャ詳しい自信あるですけど。いまのムエタイに関しては秀明くんほど詳しいわけじゃないんですよね。秀明くんはいまでも見続けてるでしょ?
鈴木 全部ではないですけど、見れるものは見てるようにしてますね。ムエタイも時代によって技術やポイントの取り方も変わってきてるし、ギャンブルとしてのあり方も変わってきてるんですけど。
山口 格闘技ファンでも、いまのムエタイがどうなってるのかわからないよね。ありがちなのは「ムエタイの最強チャンピオンがやってきた!」と煽るんだけど、負けたら「アイツは最強じゃなかった!!」とか必ずケチがついたり(笑)。
――「ムエタイあるある」ですね(笑)。
山口 ムエタイの歴史が長いですし、どこから話せばいいのか難しいんですけど。まず天心vsスアキムのことをいえば、この試合はキックボクシングであるということが一番ですね。ムエタイとは採点基準が違うというのがポイントかなと。とはいえ、やはり天心はハンパなく凄かったです。
――天心vsスアキムのKNOCKOUTルールはヒジありヒザありでしたよね?
山口 ルールはムエタイルールと同じなんだけど、違う採点基準、違う競技なんです。
――違う競技だけど、ルールは同じ。さっそく難しいです!(笑)。
山口 タイ人はムエタイのつもりで戦うんだけど、ムエタイではない。梅野vsクラップダムは完全なムエタイ。KNOCKOUTはヒジありヒザありだけど、ボクの中ではK−1と同じなんですね。
鈴木 K−1ルールで活躍しているタイ人は、ムエタイのトップというよりは、そのルールに順応できているということなんですね。例えるとソフトボールと野球、サッカーとフットサル……。
――日本の野球とメジャーリーグみたいなもんですかね。メジャーリーガーが日本の野球で必ずしも活躍できるとは限らないですし。
鈴木 メジャーリーグの投手はストレートで勝負するみたいなところはありますしね。ムエタイも「相手の正面を向いて戦いなさい」という独特の基準があるんですよ。
山口 だからスアキムが控え室に帰ってきたときに言った言葉が「ニーヤンリョオ」。タイ語で「逃げてばっかり」。でも天心くんは全く逃げてるつもりはないんですよね。自分の間合いを作ってるだけだから。パンチもあんなに当ててるしね。だから、ボクは控室でその言葉を聞いたときに、日本人とタイ人の意識の違いってあるんだなぁと思いました。
鈴木 ルールに中においてスアキムは対応ができなかったということですよね。そこは競技の違いであって、ムエタイでは後ろに下がったり、極端にアウトボクシングをすると「逃げた」とみなされるんです。パンチ、ヒジ、ヒザ、蹴りの技術を駆使して向かい合って戦う。ボクは「ボックス」と呼んでるんですけど、ムエタイはこのボックスの中で戦わないといけないんです。
――そのボックスから外れると、どうなるんですか?
鈴木 ボックスから何度も外れると、試合が途中で止められちゃうことがありますね。「キミはムエタイで戦うつもりがないね」と負けを宣告されるんです。
――はっはー!!
山口 ムエタイは首相撲が来たら、首相撲で迎え撃たないといけない。天心くんは首相撲を頭を下げてかわしましたけど、ムエタイであの行為はアウトなんですよ。
鈴木 ムエタイで面白いのは首相撲で崩されてから、相手のヒザを手を下げて受けるのもダメなんです。この人はムエタイの技で防御をしていない、ムエタイの技術を持っていないと。
――そこでも試合を止められちゃう。
鈴木 ムエタイの適応力がないイコール、ムエタイの試合ができない。その瞬間ギャンブルにならないですから。
――あー、賭けの対象にならないんですね。
鈴木 日本のトップ選手がムエタイのルールに慣れてなくて、手でブロックしていたら試合を止められたケースを何度か見たことありますね。
山口 あった。日本だと「倒れなきゃいい」って考えなんだけどね。そこは強さに対する価値観が違うってことだよね。
――ムエタイとキックはまるで違うものだけど、自由に行き来できるからこそハレーションが起きるということですね。
山口 そうそう。見た目は一緒だから。
鈴木 だからスアキムが「逃げてばっかりだ」と言うのは、日本のファンからすれば意味がわからないと思うんですね。
山口 天心くんもちゃんと攻撃してるからね。
鈴木 違いを言えば、ムエタイでは蹴ってから倒れるのはありえないんです。
山口 そうそう、かけ逃げもアウト。
鈴木 ムエタイがあまり回転蹴りをやらないのは、ムエタイは「立って戦う格闘技」という認識があるからなんです。ムエタイは国同士の戦いから発展した戦闘術。足の裏以外がリングに付くのはマイナスポイントになるんですよね。
山口 相手に背中を見せたり、後ろに回られるのもアウトだよね。
――そうやって相容れない競技なのに、絡み合ってるのは面白いですね。
鈴木 柔道と柔術の違いかもしれないですよね。柔道選手も柔術はある程度はできますけど、もう違うものじゃないですか。
――基準が異なる中で今回の那須川天心vsスアキムはどういう予想をしていたんですか?
山口 やっぱり天心くんが勝つんだろうなと。
鈴木 カードは決まった瞬間は7対3でスアキムかなと思ったんですよ。そのうち6対4でスアキムになって、直前では6対4で那須川選手に変わって(笑)。当日は五分五分でしたね。
――目まぐるしく変わったんですね(笑)。
鈴木 それは試合直前の言動や記者会見の雰囲気を感じて。タイ人の本気度を計るうえで、 誰と一緒に来日したかがポイントなんですね。
山口 ああ、そこは大きいね。
鈴木 所属のジムのオーナーが来るのか、いつもミットを持っているトレーナーが来るのか、取り仕切ってるプロモーターが来るのか。この3人が来るのであれば、選手も手が抜けないので、かなりの本気度。
――ムエタイ本気セット!
鈴木 あともう一つ、パンツも注目ポイントですね。ちゃんと自分の名前が入ってるものを穿いていれば本気ですね。本気じゃないヤツは……。
山口 「Muay Thai」とか書いてあったり(笑)。
鈴木 本気じゃないヤツは、日本で誰かが用意した適当なものを穿いてるんですよ。「持ってきてないから、これを穿けよ」ってことで、別のジムの名前が入ったものとか。
――というか、自分のコスチュームを持ってこないってどういうことですか?(笑)。
山口 けっこういるんだよね。
鈴木 基本的に向こうではスタジアムにムエタイ用品店が何店舗もあるんですよ。そこにはワセリンやタイオイル、バンテージなんかも売っていて。パンツも朝の計量のついでにオーダーして、夜までに完成したものを試合で穿くケースが多いんです。その感覚で何も用意しないで来日する選手が多いんですね。
――あー、なるほど。そこから日本の事情を理解してるかどうかで本気度を計るんですね。本気だったら調べてくるだろうと。
鈴木 そういうことです。よくあるのは日本の気候をナメてる選手ですね。こないだのKNOCKOUTに来た「おネエボクサー」も力が発揮できないで負けちゃいましたけども。来日してから「足が寒い」とずっと言っていて、身体が全然動かなかったみたいですね。そこはちゃんと準備して来日してくださいって話ですよね、いまはインターネットで調べられるんですから。
山口 タイ人はFacebookが大好きなんだけどね(笑)。
鈴木 なぜそういった準備不足が起きるかといえば、ムエタイに圧倒的な自信があるんですよね。
山口 スアキムも自信満々だったよね。
鈴木 スアキム側にはPKセンチャイジムの会長、プロモーター、ルンピニースタジアムの責任者も来てましたから本気でしたね。ただKNOCKOUTルールへの対応力がちょっと足りなかったかなという気がします。そこをうまく突いたのが那須川選手だったのかなと。スアキムの出方によっていろいろ変えてたり。
山口 スアキムはいつもどおりに戦えば勝てると思ったんでしょ。ムエタイとは別の競技が出来上がりつつあるのにも関わらずね。ただ、いままでの日本人選手であれば、ルールに対応しなくても普通に勝てたと思うんですよ。
鈴木 スアキムくらいの実力があれば、なんとかとかなっちゃいますよね。
山口 でも、天心くんは、なんとかさせない才能があった。
鈴木 凄い。あれは本当に凄い。
山口 並の選手だったらスアキムにやられちゃってますよ。
――それはつまりK−1系のキックボクシングのレベルが競技として上がってるということでもあるんですね。
鈴木 昔と比べてルールに対応しないとタイ人いえども勝てなくなってきてますね。逆に言えば、そのムエタイルールの中で、向こうのトップと張り合い続けてる梅野選手も相当凄いってことなんですよ。
山口 キックルールの天心くん、ムエタイルールの梅野源治。この2人の天才を日本で同時期に見られるって凄いことなんだよね。梅野源治はルンピニーのタイトルマッチで負けちゃいましたけど、凄いレベルのタイ人をムエタイルールの中で倒しちゃってるから。
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