■TRT(テストステロン補充療法)の新局面
医者の言うことが信じられない……ソネン、ビッグフット、相次ぐ被害者!
「医師の指導の下で行うTRTであっても失敗してしまうことがあることを恐れてか、医師の指導に従わず、必要な量のテストステロンを取らない選手も出てきた」
「最近、運動力が衰えたとは思いませんか。性生活が減っていませんか。エネルギーが足りないと思いませんか。こんな症状はお医者さんへ。『Low T』のせいかもしれません」――米国のテレビでは、Low T、つまりT値が低い症状の人向けへの塗り薬やパッチ、錠剤のCMが頻繁に流されているという。T値とは、MMAでも薬物検査で失格する人があとを絶たない男性ホルモン「テストステロン」のことである。アメリカではLow T関連製品の広告費は2012年には34億ドルも投入されており、Abbott Laboratories社のAndroGel、Eli Lilly社のAxironといったヒット商品も登場している。かつては内分泌腫瘍などによるホルモン異常の治療など、ごく限定的に使われていたにすぎなかった治療薬が、いまやライフスタイル向上薬として広く宣伝されているのである。価格は月500ドル程度とけして安くないが、保険が適用されるため利用が広がっている。
こうしてテストステロンが一般市民にも気軽に利用される風潮がある反面、アメリカの多くのスポーツでは、テストステロンをはじめとするパフォーマンス増強剤(Performance Enhancing Drugs, PED)は禁止されており、いったんPEDの利用が発覚すると、きわめて厳しい処分がくだされることも多い。昨年は自転車レース界の英雄、ランス・アームストロングのPED利用が明らかになり、一夜にして評判が暴落、メディアはアームストロングを大嘘つきのペテン師扱いした。メジャーリーグ・ベースボールの世界でも昨年、アレックス・ロドリゲスを始め、出場停止処分を受ける選手が続出。数年前には陸上のスター、マリオン・ジョーンズのPED仕様が発覚し、これまで打ち立ててきたレコードが無効とされたほか、裁判での偽証罪により収監されるという出来事もあった。
そんな中、MMA業界で最近盛んに言及されているのは「TRT」である。