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パンクラスの代表に就任して今年で3年目を迎える酒井正和氏。1993年12月に産声を挙げた老舗格闘技団体は、何度かの崩壊危機を乗り越え、酒井体制の改革路線のもと、他団体との交流や地上波放映の復活などの攻勢で勢いを取り戻している。今回のインタビューではパンクラスが歩む新たな方向性を示していただいた。



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酒井さんはパンクラス以前に『ハッスル』や『スマッシュ』などのプロレスイベントに携わってきましたが、格闘技興行の運営を始められたのはどういう理由があったのでしょうか。

酒井 ボクがパンクラスを始めたのは、2011年の東日本大震災という出来事が大きいんです。あの日以降、いろいろと考える中で、表現の仕方がプロレスより格闘技のほうに惹かれてしまったところがあるんですね。それはプロレスがダメというわけではなくて、あくまでボクの中の価値観の変化なんですけど。いまは新日本プロレスの勢いが凄いじゃないですか。当時はどちらかというと格闘技のほうが衰退気味ではあったんですけど、格闘技でも何かやりようがあるかな、と。そこにちょうどドン・キホーテさんからお話があったんです。

――当時のパンクラスはドン・キホーテさんが親会社でしたね。

酒井 いまではUFCやベラトールがイベントとしてもエンターテインメント性に優れてるじゃないですか。日本の格闘技イベントも、のし上がれる可能性があると思うんです。世界的にはMMAはブームになってましたし、それは日本においても再び盛り上がることも充分ありえる。ただ、海外のMMAイベントを見て回って思うのは、当時は日本だけがガラパゴス的に取り残されていた部分はあるんですけど、そこを一つ一つ整備していけばビジネスになると思ってました。

――ガラパゴスというのは閉鎖的であるということですか?

酒井 閉鎖的なんですかねぇ。もうちょっと世界を見たほうがいいんじゃないかな、と。MMAがブームになってる国が何をやってるのか。日本はMMAという文化が生まれた国でもあるから「このままでいい」という頭の固い考えもあったと思うんですよ。ボクは格闘技村の人間ではないですし、海外の手法をどんどんと取り入れたいと思っていたので、新生パンクラスに「世界標準」という言葉を掲げたんです。そこを謳っていかないかぎりは、やる意味がないと思ったんですよね。

――酒井代表体制になってからのパンクラスはプロモーションに力を入れてますね。 

酒井 いやいや、それは最低限やらなきゃいけないことなんですよ。ウチが最低限。よくプロモーションに「お金を使ってる」と言われるんですけど、かけてないですよ、全然(笑)。アジアのMMA団体のほうがよっぽどお金をかけてますよ。観に行くとビックリしますもん。

――いまの日本のマーケット事情ですと、まず最初に削るのはプロモーション費用ですよね。

酒井 そうなってくると、小じんまりしてくるんですよね。格闘技団体をやってる以上は、強気でいけるときは攻めないと。小じんまりしちゃうとすぐに忘れ去られちゃいますよね。宣伝にしても力を入れることで、団体や選手に新規のスポンサーがついてきたりするから、そこはバランスですよね。これだけのお金を使うから、これだけのものを取ろう、と。そこを高く置くか、低く置くか。

――つまり費用対効果ですね。

酒井 どうしても興行というものはハイリスクハイリターンの部分があるんですけど。ボクはまだ小さいところでやってるので。

――酒井さんとしては、リスクのある仕掛けはやってないわけですね。

酒井 だから「お金を使ってる」と言われると戸惑うんですよ(笑)。格闘技が流行ってた頃のようなお金のかけ方はしてないんですからね。昔はもっと凄かったじゃないですか。

――地上波ゴールデン番組クラスの予算がありましたからね。

酒井 これくらいの収益が見込めるから、このクラスの選手を呼ぼうとか計算しながらやってるので。パンクラスは単月でも黒字ですし。

――パンクラスは外国人選手を頻繁に呼んでいますけど、渡航費や宿泊費がかかることで経費面からすると呼びづらいですよね。

酒井 そこはお金がかかりますね。でも、ボクは格闘技イベントを観に行ったときに「こうなったらいいのにな」と思うことをやっていきたいんですよね。そこは願望でもあり、投資でもあるんです。

――投資ですか?

酒井 はい。それは格闘技団体としてどこかで資金を作ってでもやらないといけないことなんですよ。それは2つあると思います。各階級に実績のある海外選手とランカーを試合させて経験を積ませることの投資。2つ目はボクがパンクラスを引き継いだときは、重い階級の試合が組めないことにガックリしたところはあるんです。やっぱり重いクラスがあって軽いクラスも引き立つ。軽いクラスの魅力を理解してもらいたいから重いクラスの試合を組む。いまは運営も安定してきましたし、今度はヘビーとミドルを厚くしていこうかなと考えてます。ヘビーはね、2選手の外国人選手と複数回契約を結びました。

――UFCですら人材不足の階級なのにチャレンジしますね。

酒井 重いクラスをパンクラスは取り戻していこう!と。単なるデブは試合に出さないですよ(笑)。ファンだってケージがぶっ壊れるかもしれない試合が見たいじゃないですか。

――ただ、外国人選手の試合を組んでも券売にはなかなか結びつかないところはあると思うんです。

酒井 おっしゃるとおりですね。いまはプレイガイドの販売ではなく選手の手売りが主流だなんて言われるじゃないですか。ウチは手売りを強制しないですよ。そのために練習ができなくなるのは本末転倒ですから。強制はしないですけど、プロとして手売りをするのは大事。それはボクシングも同じじゃないですか。そこで気をつけないといけないのは、団体がどこまで後押しするかだと思うんですよ。選手が手売りしやすいようにPRしてるのか。やっぱりイベントの認知度はあると売りやすい。外国人選手を呼ぶこともそうですが、まずはパンクラスが格闘技団体としての価値を高めれば、選手のスポンサー獲得もそうですけど、後押ししやくなるんですね。

――なるほど。格闘技団体としての体裁を整えてるわけですね。

酒井 極端なことを言えば、各階級の半分くらいは外国人でもいいくらいなんですよ。そのほうがレベルは高くなるじゃないですか。そうなったほうがパンクラスにとっては面白いですよね。

――ウィンボーナス制の導入も、プロモーターからすれば、お金がかかるだけに導入したくなかったと思うんですけど。

酒井 そこは選手への還元でもありますね。ただ、海外じゃウィンボーナスはあたりまえのシステムじゃないですか。それにそこまで大きな金額を出してるわけではないので(苦笑)。身の丈にあった中で、なるべく選手に還元する。そういうことができると、魅力的な団体になってくると思うんです。認知度があって、ボーナス等のシステムもあれば、選手も試合がしたくなるじゃないですか。モチベーションが高ければいい試合になりやすいし、口コミで評判が広がってお客さんも集まり、スポンサーもついてくる。そうやって団体の価値へとつながってくるんですよね。