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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その28
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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その28

2020-06-02 12:34
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    【本号の目次】
    1. ダイオウイカの遊泳力
    2. ポンピング
    3.北海道大学水産学・桜井泰憲教授
    4. 臼尻水産実習所

    ダイオウイカの遊泳力


     スペインの古都ビゴからパリ経由のトランジットとエコノミーフライトで約20時間の空白時間の後、9月13日の夕方やっと成田空港に帰り着いた。8日間におよぶ国際頭足類シンポジウムの出張が無事終わった。拙い英語であるが、期間中に海外の多くの研究者と話が出来てダイオウイカ研究のモチベーションが上がった。頭足類行動学の気鋭ロジャー・ハンロン博士からは、2006年に海面まで釣り上げた時の映像からダイオウイカの推進力(パワー)と速力(スピード)を推定することが出来るのではないかと、サジェッションを受けた。

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    シンポジウム・ポスター会場でロジャー・ハンロン博士とツーショット。第2回のCIACシンポジウムからの長いお付き合いである。触腕の1本切れたイカのT-シャツは、2006年、私が撮影した静止画のダイオウイカをデザインしたもの

     確かにあのとき一番驚いたのは、漏斗から噴出する水の勢いだった。海面が盛り上がるほどの勢いでブシューと長く海水を噴き出す力は想像を絶していた。ロジャーに言われるまでもなく、実はこのビデオ映像を基に、なんとかダイオウイカの遊泳力を求めたいと、2007年の秋に北海道大学水産学部付属の臼尻水産実験所で、ちょっとした実験を行っていた。

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    漏斗の口から海水を噴き出す4フレームごとの連続写真、24/30秒(ビデオ映像より抽出)


    ポンピング

     イカは泳ぐために、外套膜を膨らまして頭部と外套膜の隙間から海水を取り込み、頭部の隙間を襟弁で閉じると外套膜を収縮させて、漏斗の先の細い口から勢いよく海水を噴出することで推進力を得ている。この海水を吸い込み噴出することを繰り返す、いわばポンピングで速力をあげる。ヒレを使って泳ぐ魚類がレシプロ泳法であるなら、イカはポンピング・ロケット泳法である。したがってイカの遊泳力は、漏斗から噴き出す海水の量と噴き出す時間、漏斗口の太さの関係で推進力(パワー)が導き出せるはずである。そしてポンピングによる加速と海水との抵抗により速力(スピード)が決まるものと考えた。
     ビデオ映像は1秒間に30フレーム(静止画)からなる。映像を1フレームごとに詳細に観察して、外套膜が膨張して水を吸水する時間、外套膜が収縮して漏斗から海水が噴き出す時間を推定して平均値を求めることにした。ダイオウイカのビデオ映像から、はっきりと吸水と噴出が観察できたのは5回で、吸水するのに平均1.96秒、噴出するのに平均2.02秒かかることが導き出された。また、漏斗から水を噴き出す際の先端の最大直径は、映像中のイカ角(白いルアー)の大きさ及び標本の測定から16~18㎝と推測された。

    北海道大学水産学部・桜井泰憲教授

     当時、私の母校である北海道大学水産学部では、大学院課程の1年先輩であった桜井泰憲教授がスルメイカの再生産様式・産卵生態を飼育と実験を通じて明らかにする画期的な研究を進めていた。桜井先生は、噴火湾に面した海岸に建つ水産学部付属の臼尻水産実験所に、楕円形の大きな水槽と水温調節装置を組み込んだ実験水槽を設置した。臼尻近辺の定置網にかかるスルメイカを氷温麻酔して状態のよいまま水槽に運び、飼育水温の違いによる成熟過程と自然産卵の可能性を追求していた。同じ北洋水産研究施設の大学院生室で5年間も机を並べ、ソフトボールにテニス、渓流釣りに山菜採りと遊び歩いた間柄である。どんな無理難題でも聞いてくれる兄貴のような存在である。
     実は2007年のイカ類資源研究会議の席上、桜井先生のスルメイカの飼育実験の話を聞いたときに、ダイオウイカの吸水量を直接測ることは出来ないが、スケールダウンしてスルメイカの吸水量であれば実験的に測ることができると閃いた。


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    年は異なるが2011年、横浜で開かれたイカ類資源研究会議で桜井先生とのツーショット。30年越しの交友関係。二人ともこんなスーツを着ていることはめったにない、馬子にも衣裳

    臼尻水産実験所

     2007年9月3日朝早く、羽田空港からANAに乗機して函館空港へ飛んだ。空港でレンタカーを借りて七重浜に立つ母校の北海道大学水産学部へ向かった。桜井先生の研究室に出向いて、今回の実験の概略を説明した。合わせて使わせてもらう機材とスルメイカの手当をお願いした。以心伝心である。桜井先生の研究室の大学院生でスルメイカの氷温麻酔を習熟した高原君が協力してくれることになった。市内のスーパーで食料品や飲み物を調達して、川汲峠を越えて噴火湾に面した臼尻に向かった。臼尻水産実験所では、同じ北洋水産研究施設で学位を取得した後輩にあたる、宗原弘幸所長が出迎えてくれた。北洋研で学んだ仲間の絆は心強い。
     臼尻水産実験所は、私が大学2~3年次にアクアラング部に所属していた時に合宿や訓練でたいへんお世話になった施設である。もう45年近く前のことである。春のゴールデンウイーク合宿は水温5~6°Cの中、片面シャークスキンのウエットスーツにフードをかぶり軍手に台所用のゴム手袋を着けて、実験所前の海でマウスtoマウスやフリー・アッセンドなど安全潜水の訓練をしたことが思い出される。


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    北海道大学水産学部・臼尻水産実験所、大学2~3年次にアクアラング部の活動で大変お世話になった

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    臼尻水産実験所の前浜の海でアクアラング部の訓練ダイビングする私。よく見ると腕にミズダコがくっついている

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