【馬車目線】2013年1月第2号

 ある論文のデータを可視化したら、日本の教育がすごくうまくいっているように見えたので、ご報告。

 ちょっと記憶が定かではありませんが、最近次の論文を拾いました。確かツイッターです。前回前々回と給与のこと調べてたところに流れて来たんだと思います。

 貧困の世代間連鎖の実証研究─所得移動の観点から

というもので、労働政策研究・研修機構 から2007年に発行されています。

 この研究では、ある人の所得とその父親の所得を比較しています。親の所得が少ない時、子の所得はやはり少なくなるのか、そうでないのかという調査です。

 その調査の生データのグラフがこちらです。
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 まず、本人と父の所得はz得点というものに変換されています。細かいところまではわかりませんが、0が平均所得と考えていいでしょう。そして各○はそれぞれのサンプルです。たとえば左上の方の人は、父の所得は少なかったが本人は高所得になった人です。

 このグラフをじーーーっと見てても面白いのですが、もちょっと分かりやすくするために、このグラフを格子状に区切って、その中にある○の数を数えます。
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 密集しているところは正確には数えられないので、多少間違っているかもしれません。
 これを等高線グラフにしたものが次です。
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 詳しくは後半に譲りますが、このグラフの左側は、稜線部分が水平になっていて、たとえ父の所得が少なくてもその子の所得は平均所得あたりを中心に分布していることを示しています。低い所得は連鎖してません!! 少しは連鎖するのかと思っていましたが、このグラフをみる限り連鎖しているとはとても言えません。

 一方打って変わって、父所得得点が0.25以上の右半分では稜線は45度曲がり、所得が連鎖している様子が伺えます。

 また元の○の散らばったグラフでもわかりますが、○は広く分布していて、つまり、子の所得は父の所得に関わらず、多いこともあれば少ないこともあります。左側については、子の所得は父の所得に関係ないと言っていいと思います。誰にでもチャンスがあるのです。

 元論文にも書いてありますが、こういう調査は調査自体が非常に難しいそうです。自分の親の収入なんてみんな漠然としか知りませんからね。したがってこのデータそのものの信頼性にも慎重にならなくてはいけないし、海外との比較も難しそうです。

 とはいうものの、このグラフの傾向だけでも信じるとすれば、これは日本という社会の仕組み、特に教育が均等な機会を与えるという点ではすごくうまく行っていたと言っていいのではないでしょうか。父の所得が少なくても、学校で学ぶことで、父の所得が普通の人と同じように稼げる可能性があるということです。

 これは2007年の調査ですから、当時働いている人の子どもの頃の社会や教育がうまく機会を与えていたということです。今もうまくいっているのか大いに気になるところですが、調べる方法はあるのでしょうか。

 この等高線グラフ、見慣れないとちょっと難しいかもしれないので、後半ではいろんなグラフも出しながら、もう少しいろいろ考えてみます。

・併せてどうぞ
リチャード・ウィルキンソン「いかに経済格差が社会に支障をきたすか」に見る利他的行動の合理性】 経済格差をなくすことも住み良い社会に良いというお話