先日のエントリ

 工学部の学生へ。「人工学」でなく「自然工学」を目指せ。
 
で、「ばらつきのない原料からばらつきのないモノを作る」「人工学」ではなく、「ばらついた原料からモノを生み出す」「自然工学」に注目しました。

 たとえば木村秋則さんの無農薬りんごをご存知でしょうか。無農薬ではぜったい育てられないと信じられていたりんごで無農薬を実践されたのです。何年もかかり、変人と言われ、収入もなくどん底生活の中、ようやくできあがります。その味は奇跡と言われています。

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録  

 この木村さんの無農薬リンゴ、「コロンブスの卵」ではありません。無農薬リンゴはできると分かりましたが、そして、他にも木村さんの指導を仰ぎながら無農薬リンゴに取り組んでいる方がいるとテレビなどで見ましたが、あまりうまくいっていないようです。
 無農薬農法は、それぞれの土や気候に左右されるため、レシピがありません。マニュアル化できません。方針はありますが、それぞれの場所に合わせて変えていかなければなりません。

 ですから、無農薬でリンゴができるとわかったのに、誰にでもできるわけではないのです。

 このような問題に「人工学」、つまり古典的な工学的なアプローチでは、太刀打ちできません。

 かつて「人工学」では、次のように対応しました。つまり、ばらつきのある有機肥料ではなく、ばらつきのない化学肥料を使って、確実に病気・虫を抑制する農薬を使いました。それによって、農場を仮想的な「工場」に作り替えたのです。

 しかし、今そのようなアプローチではなく、なるべく自然本来の力に寄り添った農法が求められているのです。
 したがって、このような問題に対応するための工学的なアプローチが必要です。言い換えれば、各農家が、過度な勘や根性に頼ることなく、注意深い観察とそれに対する適切な対応を考えるためのツールが必要です。
 それが「自然工学」が取り組むべき課題です。
 そのツールを使って、各農地で少しずつ違うやり方で無農薬リンゴが出来たとしたら、それぞれがとてもおいしく、でも、同じ品種であっても、それぞれ違う味わいを持つことでしょう。早くそんな状況になってほしいものです!

 さて、この話をしていたら、人間工学を専攻する学生さんに人間工学にも通じるところがあるかもと教えてもらいました。

 確かに、たとえば誰にとっても最適なユーザーインターフェイスなど存在するのかということです。
 若い人は覚えもよく、素早く動けますから、かったるいインターフェスにはストレスがたまります。
 一方高齢者は、タッチパネルのタップなどは苦手で、長く押すとブルブルっと震えることで確実に入力が確認できるインターフェイスが好評です。
 子どもも独特の特性を持っています。小学校のパソコン教室にボランティアで参加していますが、たとえば、マウスの右クリック・左クリックがいい加減です。教えようとしても、「右、左」と言い方でもピンとこないし、「人差し指、中指」という言い方でもいまいちです。適当に押して当たったらそれをするって感じです。
 高齢者も子どももドラッグが苦手です。
 子どもは、やたら「余計なこと」をします。意味もなくカチカチクリックしたり。マウス動かしてるときにやるともうわけわからないことに(笑 

 こんなバラエティに富んだ対象相手誰にとっても快適なユーザーインターフェイスをどう構築するか。 
 人間工学では、相手は「ひとそれぞれ」が前提ですから、「人工学」、つまり古典的な工学的なアプローチでは、太刀打ちできません。

 また実験をするにも、大勢にテストを受けてもらえばそれだけ信頼できる結果がでますが、相手の負担もあり、やりたいだけというわけにはなかなかいかないでしょう。また何度もやれば被験者が学習してしまう問題もあります。より少ないテストでより信頼の高い結果を得る、そういった取り組みが続いているはずです。

 「自然工学」として考えたものの答えは「人間工学」の分野にあるのかもしれません。「人間工学」を「自然工学」に拡張し、農学とコラボする。なにが飛び出すか考えるだけでワクワクしてきます。

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