以前、

 [S]昔より空気を読む日本人  

 という記事で、統計数理研究所の国民性調査という資料を紹介しました。「自分の正しいと思うことをしきたりに反して押し通すべきか」という問いに対して、戦後は「押し通せ」が多かったのに、今では「場合による」がとって変わっているという内容でした。

 日本人は昔より空気を読むようです。

 さて、今回も、統計数理研究所の国民性調査から、面白い統計推移を紹介しようと思います。

 今回取り上げる設問はくらし方です。国民性そのものはなかなか変わらないので、調査の結果の変化で、社会がどう変わっているかを推測することができます。
#2.4 くらし方
人のくらし方には、いろいろあるでしょうが、つぎにあげるもののうちで、どれが一番、あなた自身の気持に近いものですか?

1 一生けんめい働き、金持ちになること
2 まじめに勉強して、名をあげること
3 金や名誉を考えずに、自分の趣味にあったくらし方をすること
4 その日その日を、のんきにクヨクヨしないでくらすこと
5 世の中の正しくないことを押しのけて、どこまでも清く正しくくらすこと
6 自分の一身のことを考えずに、社会のためにすべてを捧げてくらすこと
7 その他[記入]
8 D.K.(分からない)
 結果はこちら。
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 まず印象的なのは、「金や名誉を考えずに、自分の趣味にあったくらし方をすること」と「その日その日を、のんきにクヨクヨしないでくらすこと」が戦後から1973年にかけて急速に増え、その後は安定しているということです。1973年というと45歳の私が4歳で大阪万博の頃です。日本は物質的にどんどん豊かになり、中流でも豊かな生活を実感出来るようになった頃でしょうか。
 ですから、もっと豊かにもっと豊かにというがっついた野心は一段落し、中流は中流なりの身の丈にあった暮らしや、いわゆる「一日暮らし」と言われるその日を大切に生きるより精神的に豊かな暮らしを大切に考えるようになったのです。

 象徴的なのは、その変化が戦後から1973年頃までに完了したことです。その後も社会は大きく成長し、バブルも崩壊しとさまざまなことがありましたが、人々の暮らしに対する姿勢を質的に変えるわけではなかったようです。

 一方、大きく減ったものがあります。それは「世の中の正しくないことを押しのけて、どこまでも清く正しくくらすこと」です。なんというか、それと次の「自分の一身のことを考えずに、社会のためにすべてを捧げてくらすこと」の二つは、設問の文章がすでにおかしな感じで選びにくいと感じます。1953年頃はそんなことはなかったのでしょうから、随分時代が変わったと言えるのではないでしょうか。

 その「世の中の正しくないことを押しのけて、どこまでも清く正しくくらすこと」、1953年では3割もの人が選んでいましたが、そのあと1973年にむけて『趣味』『のんき』が伸びる代わりに大いに減り1割になりました。しかも、そこからさらに2008年に向けて、半減し5%になっています。

 この2段階の変化がとても興味深いです。

 第1段階の1953年から1973年に向けての変化は、簡単に想像できます。

 昔の暮らしは質素で、その生活を支えるための行動規範がきちんと決まっており、それに従って行動することが自分の暮らしと社会秩序を守るためにとても大切なことでした。「世の中の正しくないことを押しのけて、どこまでも清く正しくくら」していれば、悪いようにはならなかったのです。

 しかし高度成長期で社会は急激に成長し始め、昔の行動規範そのものが通用しなくなりました。「清く正しく」生きようにも、「清く正しく」って何?というわけです。拠り所とするものがぼやけてしまい、代わりに身の丈生活や一日暮らしに関心が移っていったのでしょう。

 そこまでが第一段階。しかし、「趣味」「のんき」がそこで安定した一方、「清く正しく」はその後もじりじりと下がり続けることになります。これはどういうことでしょうか。日本人がどんどん「清く正しく」なくなっているのでしょうか。

 というわけではなく、多様性が広がったことの現れではないでしょうか