キヤノン「完全自動化工場」で見えた日本経済の明るい未来
という記事があります。
カメラレンズなどは今でも手作業で作られる部分があるのを、完全自動化するというお話で、でも雇用は配置転換で守るということで、「日本経済の明るい未来」なんてタイトルが付いているわけですが、そういう話は20世紀的な考え方です。
キヤノンが競争力を維持するためには、完全自動化で製造コストのさらなるカットをしていかなければなりません。しかし、それはもう日本の経済とは直接関係がありません。
ここに一枚のグラフがあります。エネルギー白書2015の中の一つです。
これによると1975年頃からは、エネルギー消費を増やすことなく製造業の生産をあげるようになります。いわゆる省エネの幕開けです。そして、1990年頃から製造業の生産は横ばいになります。それでも日本のGDPは成長します。成長率は低いながらも。そこから日本は低成長時代であり、その原動力は製造業ではないのです。
経済学の教科書では、経済活動が潤滑になれば利益はほとんどなくなると言われますが、グローバル化の進んだ製造業では、まさにそれが起こっています。
アップル、スマホ業界の利益シェア92%に拡大
では、競争の激しい Android では利益がほとんどなく、iPhone などのアップルだけが利益を上げている様子が紹介されています。
キヤノンは競争のため完全自動化に突き進みますが、他との競争がありますから、利益が上がるわけではありません。しかもその工場で働く人の賃金も生活できる程度にぎりぎりに抑えられます。そういう人たちは給料のほとんどをまたそういう利益のほとんどないような汎用品に費やさざるを得ません。
しかし、利益というのは摩擦のあるところに生まれます。コスパから言えば絶対 Android なのに、どうしても iPhone がいいと言って買う人がいるからそこに利益が生まれます。社員にも多めに給料払えますし、その人たちは、他の人から見たら「なんでそんなもの」と思うようなこだわりの買い物ができます。そうやって経済が発展します。
製造業は iPhone のような例外を除いて、利益を生んで経済を発展させる産業ではなくなってしまったのです。
今回の完全自動化にしても、完全自動化ということは、もういつでも海外に持っていけるということです。いままではレンズの組み立てなど、熟練工でなければできなかった作業がなくなるわけです。