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本誌編集長・宇野常寛による連載『京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録』。今回は、ゼロ年代末に社会現象となっていったAKB48の軌跡を振り返ります。〈ライブアイドル〉として出発したAKBが、やがてぶつかることとなった「壁」とは?(この原稿は、京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 2016年7月8日の講義を再構成したものです)

ブレイク期のAKBを象徴する「大声ダイヤモンド」「RIVER」

 AKBは大手レコード会社「キングレコード」に移籍し、やがてメジャーな存在になっていくのですが、同時に地方展開も始めています。その時期を象徴する曲が、2008年の「大声ダイヤモンド」です。

(AKB48「大声ダイヤモンド」映像上映開始)


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 MVの最初のシーンで階段を駆け上がっているのが、新しく名古屋にできた「SKE48」のセンター、当時小学5年生の松井珠理奈ですね。「これからAKBはマスメディアに打って出ていくぞ」「地方展開もしていくぞ」ということが象徴的に表現されています。MVの内容は、普通の女子高校生たちが様々な障害を乗り越えて学園祭での出し物を成功させていくというストーリーで、まさにAKBの売りである「親しみやすさ」という立ち位置が表現されています。

 このあたりから、秋元康の書くAKB48のシングル曲の歌詞には「僕」という一人称が増えていきます。アイドルソングとしては「私」という女の子の目線から相手の男の子のことを想う歌詞が王道なのですが、これはその逆になっている。これはどういうことかというと、要するに参加型のアイドルであるAKB48では、アイドルは疑似恋愛の対象であると同時に自己同一化の対象なんですね。アイドルとファンが一丸になってこの社会をのし上がっていく、そんな構造を歌詞で表現しているわけです。

 そしてこの時期AKB48は現場+インターネットで培った勢いをベースに、2009年くらいからテレビに出ていき、一気にメジャー化していきます。そのときに秋元康が勝負曲として彼女たちに与えたのが、「RIVER」という曲です。

(AKB48「RIVER」映像上映開始)


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 かつて1989年に秋元康は、美空ひばりの生前最後の曲である「川の流れのように」を作詞しています。ここでいう「川」は戦後日本の比喩なんです。美空ひばりは「昭和」を象徴する歌姫で、この曲の歌詞には「戦後っていろいろあったけれど、トータルに見れば経済発展したし平和になったし、良かったよね」という感慨が込められている。戦後日本という「川」に、「おだやかに身をまかせ」ることを肯定する曲なんですね。

 そして「RIVER」は、20年前の「川の流れのように」へのアンサーソングなんです。川=戦後日本を若者たちに立ちはだかる障壁に見立て、その古い時代を乗り越えていこう、という歌詞になっています。秋元康は、そういう歌詞の曲を、自分の勝負企画であるAKBに歌わせた。「この先、AKBは古いものを終わらせてどんどん拡大していくぞ」と宣言しているわけです。


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