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  • 【春の特別再配信】 『この世界の片隅に』――『シン・ゴジラ』と対にして語るべき”日本の戦後”のプロローグ(中川大地×宇野常寛)

    2017-05-29 07:0018時間前
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    第7弾となりました「2017年春の特別再配信」、話題のコンテンツを取り上げて批評する「月刊カルチャー時評」をお送りします。今回のテーマはアニメ映画『この世界の片隅に』です。戦時下の一人の女性の視点を通して個人と世界の対峙を描き、大好評を博した本作。しかし、その出来の良さゆえに逆説的に明らかになった「戦後日本的メンタリティの限界」とは?(構成:須賀原みち/初出:「サイゾー」2017年1月号/この記事は2017年1月26日に配信した記事の再配信です)

    宇野常寛が出演したニコニコ公式生放送、【「攻殻」実写版公開】今こそ語ろう、「押井守」と「GHOST IN THE SHELL」の視聴はこちらから。
    延長戦はPLANETSチャンネルで!
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    出典
    ▼作品紹介
    『この世界の片隅に』
    監督・脚本/片渕須直 原作/こうの史代 出演(声)/のん、細谷佳正ほか アニメーション制作/MAPPA 配給/東京テアトル 公開/16年11月12日より全国順次
    1944年の広島県呉市。広島市で育ったすずは、知らない青年のもとに嫁いできた。戦争が激化し、呉もたびたび激しい空襲を受ける中で、絵を描くことが好きで得意だったすずが生活を守ろうとする姿と、ある出来事によってふさぎ込んでゆくさまを描く。
    08年に単行本が刊行された、こうの史代の代表作のアニメ化。劇場版製作に至るまでのクラウドファンディングという手法も話題となった。
    中川 本作は、『シン・ゴジラ』と対にして語るのに今年一番適した作品だと思いました。『シン・ゴジラ』は日本のミリタリー的な想像力が持ってきた最良の部分をリサイクルして、従来日本が苦手といわれてきた大局的な目線での状況コントロールに対する夢を描いていた。一方で、『この世界の片隅に』は『シン・ゴジラ』で一切描かれなかった庶民目線での大局との向き合い方を描ききった。この両極のコンテンツが2016年に出てきたことは、非常に重要です。

     すでに多くの人が語っていますが、雑草を使ってご飯を作るような戦時下の生活を“3コマ撮りのフルアニメーション”に近い手法で丹精に描くことにより、絵として表現できる限りの緻密さと正確さで日常描写を追求するという高畑勲の最良の遺産を、見事に現代的にアップデートしていた。そうした虚構の力によって、劣化していく現実へのカウンターを打てていたのは、素晴らしいと思う。

    宇野 片渕さんは高畑勲的な「アニメこそが自然主義的リアリズムを徹底し得る」というテーゼを、一番受け継いでいる人なんだと思う。高畑勲が前提にしていたのは、自然主義とは要するに近代的なパースペクティブに基づいた作り物の空間であるということ。だからこそ、作家がゼロから全てを生み出すアニメこそが自然主義リアリズムを貫徹できるという立場に立つ。対する宮﨑駿は、かつて押井守が批判した「塔から飛び降りてしまうコナン」問題が代表する反自然主義的な表現、彼のいう「漫画映画」的な表現こそがアニメのポテンシャルであるとする。

     片渕さんの軸足は高畑的なものにあるのだけど、『アリーテ姫』【1】や『マイマイ新子と千年の魔法』【2】がそうであったように「アニメだからこそ獲得できる自然主義リアリズム」をストレートに再現するのではなく、常に別の基準のリアリズムと衝突させることでアニメを作ってきた。比喩的に言うと、本作はその集大成で、“高畑的なもの”と“宮﨑的なもの”がひとつの作品の中でぶつかっていて、しかもそれがコンセプトとして非常に有効に機能している。そういう意味で、戦後アニメーションの集大成と言ってもいいんじゃないかと思いますね。
    【1】『アリーテ姫』:01年公開の、片渕監督の出世作。制作はSTUDIO 4℃。
    【2】『マイマイ新子と千年の魔法』:09年公開。片渕監督の代表作。制作はマッドハウス。
    中川 そうした大前提の上で、原作が持っていたコンセプトとのズレや違和を語るなら、こうの史代の幻想文学性とでもいうべきものが、映画では児童文学性に置き換えられて失われてしまった部分もある。片渕さんは「子どもだから見ることのできる世界」といった児童文学的なものへのこだわりが非常に強く、これはむしろ“宮崎的なもの”に近い。

     『この世界の片隅に』は、周りから大人になることを押し付けられて嫁に行ったすずさんの日常の鬱憤が、最終的に戦争という理不尽さの受け止め方につながる構造になっている。映画では周作と水原哲に対するすずさんの目線は、子どもでいたかった人が大人の性愛関係を拒絶するように描かれている。それは、片渕さんがすず役の声優として、『あまちゃん』以来ユニセックスなイノセンスを持ち続けているのんという女優にこだわったことにも表れています。でも、こうのさんはミニマムな人間関係の中で表出する世界の残酷さに対する感性が非常に高い人で、『長い道』【3】でも描かれたように、こうの作品のヒロインは大人の性愛関係を前提に織り込んだ上で、男性との間の丁々発止のバーター関係を築いている。その違いが、片渕さんによるこうの史代解釈の限界とも感じました。
    【3】『長い道』:訳ありで結婚した夫・壮介と妻・道の、穏やかだが奇妙な生活を描いた短編連作集。01~04年連載。

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  • 神話構造論を揺り動かすCLAMPキャラクターの物語生成力/『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(7)【不定期配信】

    2017-05-26 07:003
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    「日本最強の自宅警備員」の二つ名を持つ批評家・石岡良治さんによる連載『現代アニメ史講義』。今回は、『コードギアス』が今もなお男女双方から人気を集めている要因を、「CLAMP原案キャラクターがもつ機能」に着目して読み解きます。(※5/29(月)20:00より、石岡さんの月1ニコ生「最強☆自宅警備塾」も放送予定! 2017年の春映画をがっつり総括します。視聴ページはこちら

    いまだ根強い人気を誇る『コードギアス』と『カードキャプターさくら』

     2017年は日本のアニメーション100周年にあたり、歴史を振り返る企画が色々立てられています。1917年の『なまくら刀』(現存する最古作品)など貴重な作品を見ることができるアーカイブサイトの「日本アニメーション映画クラシックス」、そして初期アニメーション史についての現在の成果を知ることができる京都国際マンガミュージアムの「にっぽんアニメーションことはじめ~「動く漫画」のパイオニアたち~展」を挙げることができるでしょう。
     そしてNHKのサイト「ニッポンアニメ100」の関連企画でweb投票が行われ、5月3日に集計結果が発表されました。同一タイトルであってもシーズンごとに別集計、劇場版もそれぞれ別作品とみなすというルールのためもあってか、ベスト10に『TIGER & BUNNY』と『ラブライブ!』が3つずつ現れるという結果になってしまい、そこに歪みをみた人も少なからずいたようです。本連載の観点から注目されるのは、『コードギアス反逆のルルーシュ』(一期)が総合7位にランキング入りしていることで、男性だと10位、女性だと8位になります(『R2』は総合15位、男性31位、女性9位)。様々なバイアスが予想されるとはいえ、これはかなり高い順位であり、本連載の観点からも興味深い結果です。
     このランキングで示唆的なのは、『コードギアス』と『カードキャプターさくら』の高評価が連動しているように思われることでしょうか。『カードキャプターさくら』は総合8位、男性20位、女性7位となっており、NHKで放映された魔法少女ジャンルものということもあって、CLAMP作品では最も広範な層に受け入れられた作品です。かつては主人公さくらが「萌え」の典型として語られたこともありましたが、現在振り返ってみると最も興味深い要素は、作中に現れる「カップリング」が、性差や年齢など、考えうるあらゆる組み合わせから成り立っていて、それらがすべて「当たり前」のものとして成立しているところだと思います。CLAMP作品ではしばしば「必然」が強調されるため、「いったいなんの必然性が主張されているのか」の内容次第では「自由」の余地が狭まるように思えるかもしれません。けれども『カードキャプターさくら』が明確に示しているように、実質的には「実社会では周縁化させられてしまう関係性」もまた必然だと主張しているわけで、多様な関係性のあり方が肯定されていたわけです。

    CLAMPキャラクターが起こした化学反応

     『コードギアス』をロボットアニメとしてみたときの興味深い異質性として、アッシュフォード学園要素があることについてはすでに触れました(猫のアーサーに仮面を奪われるピンチで話を作るなど)。要するに、戦争をしながら学園生活を送るという、一見無茶な設定から生まれるエクストリームな展開が、本作に独自の魅力を与えているわけです。近作『ID-0』(2017)を含めた他の谷口悟朗監督作品が、基本的には手堅い人間ドラマを繰り広げるものであるために、『コードギアス』のキャラクターたちの「相関図」の錯綜ぶりが際立っています。その理由としては、先に『カードキャプターさくら』についてみたような、CLAMP原案であるがゆえに可能となったキャラクター配置があるのではないかと考えています。
     『コードギアス』は時期的には『xxxHOLiC』の頃のデザインで作られていますが、スザクに『カードキャプターさくら』の李小狼のような「正統派ヒーロー」を期待した人は放映前には(放映中も)けっこう多かったように思います。けれども実際にはご覧の通りで、「ダークヒーローのルルーシュと正統派のスザクが対峙する」という展開にはなりませんでした。むしろスザクのほうが「闇」が深いキャラだったため、いい意味でトリッキーな展開を生んでいたわけです。これはCLAMPがシナリオをやっていたらまずありえないことで、また他の谷口悟朗監督作品でも起きていないことです。シリーズ構成の大河内一楼やシナリオの吉野弘幸が『コードギアス』以後に担当したアニメには、一部「ポストギアス」的なエクストリームな人間ドラマもみられますが、必ずしもうまくいったとはいえません。つまりここにはある種の「ケミストリー」が生じているわけです。そこにはCLAMP的な「必然性」を主張するキャラクターたちが織りなすドラマの力が大きく作用しているのではないでしょうか。

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    ▲「週刊少年マガジン」で2003年から連載開始したCLAMPの『ツバサ―RESERVoir CHRoNiCLE』では、小狼のCLAMP的ヒーローキャラクターとしての側面が強く出ている。(画像はAmazonより)

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    ▲『コードギアス』の枢木スザク。『ツバサ』連載初期の小狼のキャラクター造形からの影響を感じさせる。(画像はアニメ公式サイトより)

     例えばスザクの乗るランスロットのメカニック担当のロイドは、この種のアニメによく出て来る、すべてをモノ扱いする一種のサイコパスじみた科学者ですが、その信念が徹底されている結果、「イレヴン」である日本人のスザクを差別することもなく、フラットに能力主義で評価する好人物となっています。他方ロイドの弟子となる同じく眼鏡キャラのニーナは、名字が「アインシュタイン」であることに始まり、ロイドと対比的に造形されており、科学的天才であるとともに明確に「イレヴン」を憎悪するレイシストでもあり(とはいえそこには日本人に暴行されかかったという明確な理由があるのですが)、大量破壊兵器「フレイヤ」を開発し、日本に投下するに至ります。このように明らかに視聴者の感情を逆なでする役割を担うキャラなのですが、他のアニメであれば無残な最期を遂げてもおかしくないにもかかわらず、終盤ではルルーシュと手を結ぶという展開が控えています。

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    ▲『コードギアス』のロイド・アスプルンド。(画像はアニメ公式サイトより)

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    ▲『コードギアス』のニーナ・アインシュタイン。(画像はアニメ公式サイトより)

     『コードギアス』のキャラたちには、すべてある種の「類型」が期待されており、多くの場合はその期待に沿って動いていきます。けれども重要な場面では「テンプレ」的なシナリオから逸脱していくために、正負の両面で強い印象を残すのではないでしょうか。典型的なのは扇要の扱いでしょう。初期は優柔不断ながらも抵抗運動の良心を担い、無力でやや「無能」ながらも優しい良心派キャラに落ち着くとみられていましたが、最終的にブリタニアのヴィレッタと結婚し、日本の首相になるという「一人勝ち」状態に至る過程における数々の「クズ」なふるまいもあり、おそらく作中最も嫌われたキャラです(新シリーズにおける扇の扱いがいったいどうなるのかは、興味を惹くポイントの一つです)。ニーナや扇をめぐる『コードギアス』ファンの感情の揺れは、他のアニメであれば作品人気そのものを危機に晒すおそれのあるタイプのものですが、政治的要素のシャッフルも含めて、特定タイプのキャラに対する好悪感情をも「等しく逆なで」しているのが興味深い特徴となっています。つまり、どんな人であっても作中キャラの誰かの言動に苛立ちを覚えるように人間関係が構築されているわけです。


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  • 御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記 第8回 多忙を極めた4月を振り返る

    2017-05-25 07:00
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    香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。第8回の今回は、周庭さんが最も大変な時期であるという4月の忙しさを振り返りながら、香港の政界で起きている事件を解説します。(翻訳:伯川星矢)
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    やっと大学生活で最も忙しい時期を耐え抜きました。レポートを4本提出し、数え切れないほどの課題とプレゼンをこなし、3科目の試験を受け終わり、あともう1科目の試験でこの学期が正式に終わります。こういう時期には、立法会のパートタイム政策研究員、英語の家庭教師、政党業務、そして学生を兼任する辛さを深く感じてしまいます。

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    ▲香港衆志は1周年を迎えました。

    香港の大学は9月から始まります。9月から12月が第1学期で、1月から5月が第2学期、一般的に課題提出や試験の時期は11月から12月と4月から5月です。やっと終わった4月という月は、もっとも辛い時期の一つです。課題と試験があるだけでなく、高校生の家庭教師として3月から5月に行われる大学受験のために用意しないとならないのです。わたしは大学のレポートと課題をこなしながら、生徒に集中講座を行わないとなりませんでした。もちろん日々進めている政策研究の仕事と政党業務も同時にありました。

    正直なところ、ここ数週間本当に死ぬかと思いました。


    そしてここ数週間、香港の政界でもいろんなことが起きています。まず、以前議員資格を剥奪された青年新政の游蕙禎(ゆう・けいてい)と梁頌恆(りょう・しょうこう)が逮捕されました。その後9人の民主活動家が反基本法解釈の道路占拠や暴動の罪に問われて検挙されました。その中にはわたしたち香港衆志のメンバー2人も含まれています。毎年恒例で行われる返還記念日デモは、ビクトリアパークを始点にしています。しかしここ数日のメディアの報道によれば、香港政府は他の団体による返還記念セレモニーを理由に、このビクトリアパークの使用を許可しなかったと報じられています。


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