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第193号 2016.9.20発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「泉美木蘭のトンデモ見聞録」…皇室に限らず、明治から大正にかけては《出生率》も《乳幼児死亡率》も高い「多産多死」の時代。旧皇室典範制定に関する皇位継承論争も、あくまで「側室ありき」で、一般社会にも「お妾」は公然と存在していた。しかし現在の皇室には当然ながら「側室制度」などないし、一般国民の感情としても到底受け入れられないであろう。しかし、これに対して男系男子限定派は反論の根拠として「医療の発達」を挙げる。医療の発達に男子出生を期待する愚かさを自覚せよ!!
※「ゴーマニズム宣言」…蓮舫が民進党の新代表になった。わしは蓮舫を元から支持していない。共産党と連携する岡田路線を継承するとか、9条絶対擁護が信念だとか言うのでは、期待のしようがないのだ。とはいえ、蓮舫の「二重国籍」に対するバッシングには気色悪さを感じた。そして、このバッシングを煽ってきたウェブサイト「アゴラ」の代表・池田信夫は、他の重国籍者にまで攻撃の矛先を向け始めたのだ。その本心は醜悪極まりない差別である!純血血統主義・純血国籍主義をエスカレートさせてはならない!
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!よしりん漫画の魅力の一つ「個性的な擬音」はどうやって生まれたの?「小林よしのり氏ら女系天皇派は、二千年以上続いた男系継承に価値はないと言う」という反論をどう思う?例えば特措法が成立した場合、陛下が拒否される可能性はある?大河ドラマ『真田丸』は観てる?ちゅう車場に「4」がないのは変じゃない!?映画館での鑑賞中に観客が声を出すのはアリ?タランティーノ監督作品は好き?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第15回「『医療の発達』に男系男子の出生を期待する愚」
2. ゴーマニズム宣言・第188回「『二重国籍問題』血統や国籍よりも重要なもの」
3. しゃべらせてクリ!・第151回「ノリノリぶぁ~い!ひとりサンバカーニバル!の巻〈前編〉」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記




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第15回「『医療の発達』に男系男子の出生を期待する愚」

「我皇統ノ天壌ト極リナク、綿々継承スル所ノモノハ、妾ノアルヲ以テナラズヤ」
 これは、明治13年の元老院会議録に記載されている義官の発言である。旧皇室典範制定に関する議論のひとつに「天皇の侍妃制」があった。冒頭の言葉のとおり、「天皇の親族に妾(側室)を加えるべき」という考え方に収まっていった。
 実際に、側室がなければ成り立たなかった。明治天皇は皇后との間に子がなく、5人の側室との間に10女5男をもうけたが、内10人が乳幼児のうちに脳膜炎で亡くなり、生き残った男子は大正天皇ただひとりだった。
 皇室に限らず、明治から大正にかけては《出生率》も《乳幼児死亡率》も高い「多産多死」の時代。旧皇室典範制定に関する皇位継承論争も、あくまで「側室ありき」で、一般社会にも「お妾」は公然と存在していた。

 世は昭和から平成と移り、《乳幼児死亡率》は劇的に低くなった。しかし、だからと言ってぽんぽん産んでどんどん育てまくっているというわけではない。同時に《出生率》も下がって「少産少死」の時代となったのだ。国民のほとんどは、「夫婦と子」の核家族。
 そのうえ、落語家から歌舞伎役者まで、女遊びを非難されるような国民感情が席巻している。
 中村橋之助と芸妓の仲まで「不倫」とされたのには、かなり仰天した(三田寛子のよどみない完全無欠のしゃべりっぷりにも仰天したけど)。歌舞伎役者の女遊びがそんなに問題だと思うなら、小林麻央の闘病ブログを「感動ポルノ」として骨の髄までしゃぶりつくすゲスさに乗じて、あらためて市川海老蔵に婚外子がいることを掘り起こして問題視したらどうかと言いたい!

 あきれるところもあるが、これが現代の国民感情なのだから、国民同様に核家族でいらっしゃる現代の皇室においても、もし側室が置かれるなどということになれば、奇異の目で眺める国民が大多数となるだろう。
 皇室に対して「まったく別世界の変わった世界の人々」「大奥みたいなところ」という現実生活と乖離した感覚が持たれるようになり、今上陛下が人生をかけて築き上げられた「象徴天皇像」そのものも崩壊する恐れがある。


◆一人の女性から人権をはく奪して「産めるだけ産め、男子を」と言えるのか?

 なによりも大事なのは、いずれの皇族方も、それぞれ「たまたま女子」「たまたま男子」としてお生まれになった、ということだ。天皇陛下も、皇太子殿下も、秋篠宮殿下も、悠仁親王殿下も、みなさま「たまたま男子」なのである。
 現状の男系男子限定のまま、安定的な皇位継承を実現しようとするなら、いずれ悠仁さまとそのお妃さまに「皇位継承者はもちろん、新宮も増やしたいので、産めるだけ産んでほしい。男子を」などと無理な要求を突き付けることになる。やはり、常識的には、男系男子限定は側室とセットでしか成立させられない、という結論が現実なのでは?
 しかし、男系男子限定派は『側室』という単語が飛び出すなり、即座にこう主張する。
日本大学法学部教授・百地章氏

「側室の問題ですが、昔は生まれてすぐに亡くなったと言いますが、医学が進歩すれば立派に生まれる時代なんですから、その問題はありません」
明治天皇の女系の玄孫で父親の代から生まれも育ちも皇族だったことは一度もない、せいぜい「旧宮家系」ぐらいとしか言えない完全なる一般国民・竹田恒泰氏

「かつて医学が未発達の時代、出産は危険なものでした。無事に出産を終えたとしても、幼児の死亡率は極めて高く、生まれた子供が成人することは難しいものでした。 そのため、天皇は多くの女性との間にたくさんの子供を儲けることが求められたのです。 その点、現在では医療が発達し、出産の危険性と幼児の死亡率は極端に低くなりましたので、庶系に皇位継承権を与えなくても、皇位継承は可能であると考えられます」

 男系男子限定派なら、誰でも『側室』ボタンを押せばこういうセリフが自動再生される仕組みになっていると思う。
 不気味なのが、両氏とも、明治の多産多死時代を振り返って、《乳幼児死亡率》は下がったということしか言っておらず、「安定的に男子が生まれる」という根拠はなんら提示していない。