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第342号 2020.1.15発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…これは決定的に重要だ!と思うようなニュースが、それほど大した扱いもされずに一度サラっと報道されただけで忘れ去られていくというようなことが、最近特に多いような気がする。いわゆる「アフガニスタン・ペーパーズ」のニュースなど、その最たるものである。昨年12月9日、アメリカの有力紙「ワシントン・ポスト」は、2001年から18年間にもわたって続いているアフガニスタンでの軍事作戦や復興支援が、完全に失敗していることをアメリカ政府高官らが認識していながら、国民に隠蔽していたとする内部文書を入手、「アフガニスタン・ペーパーズ その戦争の隠された歴史」と題した大々的な記事にして公表したのである。この文書で明らかにされた衝撃の事実とは?
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…伊藤詩織さんの民事訴訟勝訴、山口敬之氏は1月6日、「合意がないまま性行為をした」として慰謝料330万円の支払いを命じた東京地裁の判決を不服として東京高裁に控訴。さらに昨年末さまざまな抗弁を披露していたので精査しておきたい。伊藤詩織さんの弁護団が「カルテと防犯カメラの非公開」を求める理由とは?山口氏は「(事件のあった)ホテルのドアマンによる証言はウソだ」と主張するが?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!白石麻衣さんが卒業を発表して絶望しています…どうすれば立ち直れる?人間の記憶や人格を書き変える技術があったとしたらどう思う?ギャグを考える時と、時事問題について考える時、どちらが漫画のネタを考える上で長い?過去の担当編集者や、昔雇っていたアシスタントのことは今も覚えている?来年公開の「シン・ウルトラマン」は見る?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第356回「アフガニスタン・ペーパーズ」
2. しゃべらせてクリ!・第299回「鏡もちんこで、おめでたまきーん!の巻〈後編〉」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第151回「BlackBox事件検証《証拠とドアマンへの抗弁》」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第356回「アフガニスタン・ペーパーズ」

 これは決定的に重要だ! と思うようなニュースが、それほど大した扱いもされずに一度サラっと報道されただけで忘れ去られていくというようなことが、最近特に多いような気がする。
 いわゆる「アフガニスタン・ペーパーズ」のニュースなど、その最たるものである。

 昨年12月9日、アメリカの有力紙「ワシントン・ポスト」は、2001年から18年間にもわたって続いているアフガニスタンでの軍事作戦や復興支援が、完全に失敗していることをアメリカ政府高官らが認識していながら、国民に隠蔽していたとする内部文書を入手・公表した。
 この文書はアメリカ政府の「アフガン復興担当特別監察官室(SIGAR)」が、政府や軍高官、外交官、援助関係者ら600人以上から聞き取り調査をしてまとめた2000ページに及ぶ証言記録で、正式名称は「Lessons Learned(得られた教訓)」という。
 当初は機密文書に指定されてはいなかったが、2016年8月にポストが公開を求めるとSIGARがこれを拒み、国防総省や国務省が介入して文書の一部を機密扱いにして、当たり障りのない部分しか公開されなくなった。
 そこでポストは情報公開法に基づいてSIGARを連邦裁判所に提訴し、3年もの情報公開請求と2度の法廷闘争という執念の活動の末にようやく入手したのだった。
 ただし公開されたのは600人以上の調査のうち428人分で、政権関係者や軍高官らの名前の大半は「黒塗り」にされ、実名を明かしたのは62人分だけだったため、ポストは全員の公表を求め今も裁判中だという。

 ポストはこの文書を「アフガニスタン・ペーパーズ その戦争の隠された歴史」と題した大々的な記事にして公表した。
 アフガニスタン・ペーパーズという名称は、1971年にニューヨーク・タイムズが入手・公表し、ベトナム戦争の行方に決定的な影響を与えたアメリカ国防省の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」に由来している。
 ペンタゴン・ペーパーズには、ベトナム戦争の全面化につながった1964年の「トンキン湾事件」(北ベトナムがアメリカの軍艦に砲撃を加えたとされる事件)が、実はアメリカ側が仕組んだものであり、その3か月前には開戦のシナリオを完成させていたことが書かれていた。
 そしてさらにペンタゴン・ペーパーズで暴かれた重大な事実は、ベトナム戦争には勝てる見込みがないことを知りながら、歴代政権が議会や国民に対して正確な情報を隠蔽し続けていたということだった。
 ケネディ、ジョンソン、ニクソンの歴代大統領は、自分の就任中にベトナム撤退という決定的敗北を認める決断を下せば、国内の反共主義者から猛攻撃を受けてしまうということを恐れ、「この戦争は近いうちに終わる」と嘘をつき、問題の先送りをしていた。
 そして政府の世論操作に有識者や有力メディアも騙され、国民は戦争が早期に終わると思い込み、アメリカの青年たちが戦争に送られて数万人が命を失い、 ベトナムの民衆は数十万人の単位で殺戮されていたのだった。

 ペンタゴン・ペーパーズをリークしたのは政府系シンクタンク「ランド研究所」の職員だった、ダニエル・エルズバーグという人物である。
 ランド研究所は国防総省の外部委託研究を行う機関で、ペンタゴン・ペーパーズの作成を委託され、エルズバーグもそのスタッフの一人だった。
 エルズバーグは政権に忠実・誠実な仕事をしてきた官僚タイプの人物だった。しかし、7000ページに及ぶペンタゴン・ペーパーズの全文を読み通し、ベトナム戦争の真実を知ったエルズバーグは、ベトナム戦争を終結するには米軍が完全無条件に撤退する以外にないが、このままでは永遠にそれが実現する見込みがないということを知る。
 そして戦争を終結させるためには、政府の機密文書という動かぬ証拠を暴露するしかないということを悟った。
 かくしてエルズバーグは7000ページの報告書をコピーして持ち出すという、命がけの内部告発に踏み切ったのだった。

 エルズバーグは合衆国法典793条E項違反で逮捕された。 スパイ法違反で法定刑は10年以下の懲役か罰金刑の併科、または選択刑である。だがエルズバーグは会見でこう言った。
「もし私のしたことが戦争を終わらせるのに少しでも役立つなら、10年間刑務所入りしても安いものではないか」
 エルズバーグは大統領に忠誠を誓い、仕えてきた人間だった。それがこのような行動を起こしたことについて、後に彼は「大統領に対する忠誠心よりも、もっと深く広い忠誠心、長い間みられなかった忠誠心」を奮い立たせたためであるとして、こう語っている。
「それはアメリカの建国理念、アメリカの憲法体系、アメリカ国民、自分自身の人間性、そしてアメリカの “同盟国” とアメリカが爆撃している民衆への忠誠心である。」
 エルズバーグは起訴されたが、ホワイトハウスの情報工作機関がエルズバーグの信用を失墜させるために、彼が診察を受けていた精神科医の事務所に侵入してカルテを盗もうとしたことが判明し、「政府の不正」があったとして裁判は却下された。