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第75号 2014.2.25発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、よしりんの心を揺さぶった“娯楽の数々”を紹介する「カルチャークラブ」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、珍妙な商品が盛り沢山(!?)の『おぼっちゃまくん』キャラクターグッズを紹介する「茶魔ちゃま秘宝館」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』、秘書によるよしりん観察記「今週のよしりん」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…安倍首相は靖国参拝を強行、さらにダボス会議では、現在の日中間の緊張を第一次大戦前の英独関係に例えた発言をした。安倍政権は今、アメリカからは「失望」され、欧州でも「右翼のルーピー」と蔑まれている。中国・韓国だけでなく、欧米からも危険視されている事態の深刻さを直視せよ!
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!「巨乳」の反対語の「貧乳」、もっと良いネーミングはない?日本政府や企業は原発輸出のリスクをとれるのか?日本企業で「子連れ出勤」は可能か?泣くのをこらえるのは男尊女卑?NHK朝ドラ「ごちそうさん」の戦争ネタ、どう思う?グラビアに新たな定番をプラスするとしたら、どんな水着を考案する?よしりんの回答や如何に!?
※『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて、一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてくり!」。寒い日の温泉はたまらんもんがありましゅねえ…へみ?何を怒りよるとでしゅか、袋小路くん?

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【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第76回「安倍首相はなぜ欧米で『右翼のルーピー』と見られるのか?」
2. しゃべらせてクリ!・第36回「おもらし注意と袋こぢんまりの温泉二人旅!の巻」
3. よしりん漫画宝庫・第61回「『突撃!!(偏)BOYS』①『受験勉強漫画』の呪縛?」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
7. 編集後記




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第76回「安倍首相はなぜ欧米で『右翼のルーピー』と見られるのか?」

 安倍首相の靖国神社参拝は、中国・韓国だけでなく、欧州からも不評で、何と言ってもアメリカから「失望」声明を出されたことが安倍政権には痛かったようだ。
 米大使館のフェイスブックが、ネット右翼たちの攻撃で炎上してしまったことで、米政府に安倍政権の「コアな支持層」の攻撃性・反知性的な獣性が伝わり、益々、アメリカ人の安倍晋三への警戒心が強まっただろう。
 ネット右翼たちは自分たちが日米関係を阻害し、国益を損ねていることにまったく気づかない。
 自称保守派の言論人は、最初のうちは「失望」という言葉はそれほど重い意味合いはないと主張していたが、今頃事態の深刻さに気付き始めたようだ。

 さらにダボス会議で安倍首相が、現在の日中間の緊張を、第一次大戦前の英独関係に例えたのは最悪だった。
 これで欧州では、安倍首相は「右翼のルーピー」と蔑まれるようになり、中国を利することになった。
 日本人はダボス会議での安倍首相の発言の重大性をわかっていない。自称保守派も含めて、「平和ボケ」のサヨクだからだ。

 安倍首相は欧州の報道陣の前で、「日中間の悪化した関係が100年前の、第一次世界大戦の前の英独関係を思わせる。だがしかし、日中は、大きな経済的相互依存関係にあり、両国の経済的繁栄が地域の平和における防波堤になっている」と述べたが、無知の知ったかぶりで「第一次世界大戦前夜」の例をわざわざ出したことが大失敗だった。
 さらに「中国は年間の軍事費を10%のペースで増加させているし、しかも不透明だ」と中国を非難し、日中の軍事的緊張関係を強調した。
 そして質疑応答で、日中戦争の可能性を明確に否定しなかった。
 これに欧米の報道機関は驚き、BBCの記者は恐怖を感じたのだ。


 欧州にとって第一次世界大戦は第二次世界大戦よりも恐怖を感じさせる非常にセンシティブな問題である。安倍首相が笑みを浮かべながら堂々と持ち出せる話題ではないのだ。
 1914年のオーストリアの大公夫妻が銃撃されるという小規模な事件が、同盟のコミットメントを引き起こして、連鎖的に広範囲な世界大戦に拡大したのが第一次世界大戦である。
 戦争が国家総力戦となった始まりであり、ヨーロッパ全土に亘って悲惨な物的・人的被害がもたらされ、足掛け5年に亘って900万人以上の兵士が戦死した。

 欧米の政治家や知識人たちは、この些細な火種から世界大戦に拡大するシナリオを熟知していて、日中関係をまさに世界大戦前夜として捉え、緊張感を持って論じている。例えばハーバード大学のジョセフ・ナイはこう言う。
「我々の中で1914年の例を引き合いに出して議論した。誰も戦争を望んでないのはわかっているが、それでも我々は日中双方に対してコミュニケーションの失敗やアクシデントについて注意するよう促した。抑止というのは合理的なアクターたちの間では大抵の場合には効くものだ。ところが1914年の時の主なプレイヤーたちも、実は全員が合理的なアクターたちだったことを忘れてはならない」
 ナイ教授の同僚のグラハム・アリソンもこう言う。
「1914年の時のメカニズムは非常に役立つものだ。セルビア人のテロリストが誰も名前の聞いたことのない大公を殺したことで、最終的には参戦したすべての国々を破壊させてしまった大戦争を引き起こすなんて、一体誰が想像しただろうか?私の見解では、中国の指導部はアメリカに対して軍事的に対抗しようとするつもりはまだないはずです。しかし中国や日本の頭に血が上ったナショナリストたちはどうでしょうか?」

 1914年当時のドイツの支配層も、民衆からの政権批判を逸らすためにナショナリズムを利用した。
 中国共産党も同様の理由でナショナリズムを利用している。そして日本では自称保守のタカ派やネット右翼が、安倍晋三を衝き動かす構図になっているのだ。


 欧米人が大学の国際関係で最初に学ぶのは、古代ギリシャの「ぺロポネソス戦争」である。欧米人の感覚を理解するために、思いっきり大雑把にこの戦争についても解説しておく。

 古代ギリシャでは、優れた民主制度を作り上げていたアテネを中心とするデロス同盟が覇権を拡大し、支配力を強めていた。これにスパルタを中心とするペロポネソス同盟は危機感を覚えていた。
 多分、現代の欧米人はアテネをアメリカ、スパルタを中国と連想するかもしれない。
 その緊張関係の中で、コリントスの植民地とアテネの小さな紛争が起こり、これがきっかけとなって、紀元前431年~前404年、二つの同盟は大規模な戦争に発展していった。

 このときアテネ内部で多数現れたのが「デマゴーゴス(扇動政治家)」である。
 現在の日本で言えば、強硬なタカ派・右傾化した自称保守のようなものだ。
 この「デマゴーゴス」が、先導的な詭弁や嘘を「デマ」という起源である。
 民主制の中で台頭したデマに長けた指導者は、民衆を扇動して、アテネは衆愚政治に陥り、ペロポネソス戦争の和平案を次々と潰していき、国力が衰退して、ついにペロポネソス同盟に降伏することになるのである。
 この戦争はギリシャ全体の衰退の原因となった。


 欧米人はこの戦争から、「最終的に戦争が回避できない」という政策決定者の確信が、戦争を招くという教訓を学ぶ。
 戦争を回避できないとなれば、相手を信頼しない、先に裏切った方が安心ということになり、アテネ人もこの選択で戦争に突入し、破滅した。

 政治家は「最終的な戦争が避けられない」というニュアンスを見せてはならない。
 安倍首相の靖国参拝や、ダボス会議での言動は、欧州の知識人層に、戦争をもくろむ危険な指導者、極めつけの馬鹿、「右翼のルーピー」の評価を決定づけ、中国ロビーの「日本が中国を挑発している」という宣伝活動を利する結果になった。
 日本の政治家や自称保守の論客たちは、第一次世界大戦が欧米人に与えた教訓を知らない。
 とんでもない安倍首相のミスを、自民党議員や自称保守派は「通訳が悪い」と言って、通訳に責任転嫁していたのだから、もはや手が付けられないアホである。