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■久瀬太一/8月1日/22時30分
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■久瀬太一/8月1日/22時30分

2014-08-01 22:30
    久瀬視点
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     その電話がかかってきたのは、22時30分になるころだった。
     スマートフォンのディスプレイには、見覚えのない番号が表示されていた。
     応答のボタンを押すと、男の声が聞こえた。
    「久瀬さんのお電話ですか?」
     はい、とオレは答える。
     笑い声が聞えたわけでもなかったが、電話の向こうで、男が笑ったような気がした。
    「八千代と申します。何度もお電話、すみませんねぇ」
     ようやくだ。オレはスマートフォンをにぎる手に力を込める。
    「いえ。折り返させてしまってすみません。どうしてもお願いしたいことがあったものですから」
    「へぇ。なんでしょう」
    「聖夜協会の連絡名簿を拝見させていただきたいんです」
     八千代は妙に大げさなアクセントで、「聖夜協会」と繰り返した。
    「どうして、そんなものを?」
     この男に、素直に事情を話す気にはなれなかった。
     ――こいつは聖夜協会員だ。
     ドイルか、アカテ。そのどちらかの名前で呼ばれている可能性が高いと、ソルたちから聞いている。
     事前に用意していた嘘を、オレは告げる。
    「以前、父も聖夜協会に所属していました」
    「はい」
    「その父が、先週倒れました」
    「それは大変だ」
    「医者の話では、そう長くは持たないとのことです。ですから、父の友人の連絡先を捜しています」
    「なるほど」
     八千代の声は、どこか笑い声を含んでいた。
    「事情はよくわかりましたよ、久瀬さん。ですがね、貴方はふたつ、間違えている」
    「間違い?」
    「まず、聖夜協会の連絡役をしていたのはオレじゃない。オレの親父です」
     言われてみれば、確かに男の声は若い。オレよりは上だと思うが、十何年も前から聖夜協会の雑務をこなしていたとは考えづらい。
    「では、その方の連絡先を教えていただけませんか?」
    「慌てちゃいけませんよ、久瀬さん。ふたつ目の間違いがまだです」
     妙に芝居がかった喋り方をする男だ。
    「なんですか?」
     尋ねるとふいに、男は声色を変えた。
     こちらを小馬鹿にするように。
    「いいかい? 人に頼み事をするときは、誠実じゃなくちゃいけない。君のお父さんはお元気だよ。しばらく死にそうにない」
     オレは息を吐き出す。
     やっぱり嘘は得意じゃない。よい方法だと思ったのだけど、簡単にルールを破るべきではなかった。
    「どうしてわかるんですか?」
     とオレは尋ねる。
     八千代はくすりと笑った。
    「ジンクスなんだ。受話器を取れなかった電話は悪い電話だ。素直に折り返しちゃいけない。だから事前に、君のお父さんの方に電話を入れてみた」
     思わず舌打ちしそうになった。気味の悪い男だ。
     でも、良い情報もある。
    「貴方の手元には連絡名簿があるんですね?」
     でなければ、八千代は父に電話できない。
    「ああ。ずいぶん古いものだけどね」
    「父とは、どんな話を?」
    「些細な雑談だよ。君の近況とかね。それから、いなくなった女の子のこと」
     あの馬鹿、みさきの話もしたのか。
     八千代という男を信用する気にはなれなかった。
     でも、せっかく繋がったこの電話を、無意味に終わらせたくもない。
     ほんのわずかな時間悩んで、それから、やはり嘘をつくのはやめる。もうこいつがみさきのことを知っているのなら、同じことだ。
    「オレは、彼女を助け出したいんです。嘘をついたことは謝ります。ですから、連絡名簿を譲って貰えませんか?」
    「どうして、消えた少女と聖夜協会が繋がるんだろう?」
    「オレは2人の誘拐犯と顔を合わせています」
     すでに捕まっている、サラリーマン風の男。それから、ニール――あのサングラス。
    「彼らは聖夜教典という資料を持っていた。おそらく、聖夜協会の資料です」
    「どうかな。聖夜なんて、ありふれた言葉だ。そのくらいで疑われちゃ困る」
     さすがにソルのことには触れられない。こいつは敵かもしれない。ニールのことも話しづらい。
     オレはソルから届いたメールを思い出す。
     ――あなたはアカテか?
     そう尋ねろ、とソルには言われていた。
     ――そんなこと、訊いていいのか?
     妙に相手の情報を知っていることを開示したなら、警戒されるだけじゃないのか?
     でもオレは、ソルを信じることに決めていた。これまでだって彼らに救われてきたのだから。
     覚悟を決めて、オレは尋ねる。
    「あなたは、アカテですか?」
     短い時間、八千代は沈黙した。それからくすりと笑う。
    「どこでその名前を?」
     答えようがない。
     ソルから聞いた、ともいえないし、他に説得力のある理由も思いつかない。
     無言でいると、八千代はゆっくりと続ける。
    「オレはアカテじゃないよ。それは、友人の名前だ」
    「そうですか」
     なら、こいつはドイルか?
     笑ったような声で八千代は言った。
    「ま、いい。君に連絡名簿をみせてあげてもかまわないよ」
     ――どうして、急に?
     アカテという名前を出したからだろうか。
     わからない。なんだか、信用できなかった。
     疑ったままでオレは、「ありがとうございます」と答える。
    「早い方がいいだろう? 直接会おう。明日の、17時30分なら時間がとれる。君は大丈夫かな?」
     迷う余地はなかった。
     こいつは信用できない。それでも。
     今はとにかく動いてみなければ、事態は進展しそうにない。
    「大丈夫です」
     とオレは応えた。
     ――17時30分。
     聖夜協会の食事会の招待状に記載されている時刻の、1時間ほど前だ。
    読者の反応

    交響楽 @koukyoraku 2014-08-01 22:34:04
    あんまりよい感じはしませんね……


    闇の隠居 @yamino_inkyo 2014-08-01 22:50:34
    今夜はバスが出る予定ですしね… 


    ほうな@bellアカ @houna_bell 2014-08-01 22:34:22
    うわーこれは八千代=新ドイル確定でいいのかな? そんで八千代はニールと温泉に行く仲(意味深) 

    あさって @sakuashita1 2014-08-01 22:47:30
    どこで会うのか知らないと何かあったときに救出できんな… 


    達句英知 @tac9999 2014-08-01 22:59:46
    2代目ドイルが何考えてるか判らないのが一番怖い。





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