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■久瀬太一/8月2日/18時10分
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■久瀬太一/8月2日/18時10分

2014-08-02 18:10
    久瀬視点
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     前方に、深い赤のジャケットがみえた。
     ――八千代だ。
     間違いない。奴はスマートフォンで誰かと電話しながら、悠長に歩いている。
     オレは速度を緩めずに走る。目の前に迫った肩に手を伸ばす。
     つかんだ。はずなのに。
     指先にはなんの感触もなかった。八千代は身を捻ってかわし、こちらをみていた。
    「足音。うるさいよ」
     伸ばしたオレの腕を、八千代がつかんでいた。その動作が、オレにはまったく目で追えなかった。
     腕をつかまれたまま、彼を睨む。
    「食事会に出るつもりか?」
    「間に合えばね。美味い料理が食えるときいている」
     八千代は通話を切り、スマートフォンをポケットに落とした。
    「よくわからないな。ならどうして、招待状を手放したんだ?」
    「手放したわけじゃない。君の仲間が、勝手に持っていったんだ」
     ソルがなにかしたのか? まあ、なんだってできそうな奴らではある。
     八千代がオレの腕を離す。
     彼に向き直って、オレは言った。
    「八千代さん。あんたはドイルか?」
     彼の興味をこちらに引きたかったのだ。――それに、もう少し踏み込んだ話をしたい、というのもある。
     八千代は頭を掻く。
    「どこでその名前を?」
    「それはいえない。オレはただ、あんたらにさらわれた女の子を助けたいだけなんだ。協力してくれないか?」
     彼はしばらく、じっとオレの顔をみていた。
     それから首を傾げる。
    「不思議だねぇ。君からすれば、オレは敵の一派にみえるはずだ」
    「そうでもない」
     誘拐犯――あのニールという男は、オレが白い星を持っていることを知っている。それは4つの錠がついていた小箱からみつかったものだ。でも、少なくとも八千代はそのことを把握していなかった。
     少なくとも、ニールと八千代は、それほど密には情報の交換をしていない。単純に同じ一派だとは考えづらいように思う。 
     とはいえその辺りの事情を、素直に話す気にはなれなかった。
    「聖夜協会全員が、彼女の誘拐に関わっているわけでもないんだろう? どちらかといえば無関係な人間の方が多いんじゃないか?」
     ただの当てずっぽうだ。
     でもあの廃ホテルにみさきが連れ込まれていたとき、誘拐犯はふたりだけしかいなかったように思う。少なくともオレがあのサラリーマン風の男と殴り合っていたとき、増援はこなかった。おそらくニールがみさきを連れ去っただけだ。
     八千代は頷く。
    「よしわかった、手を組んで一緒に、君の彼女を取り戻そう」
     彼は真面目な顔でそう言って、それから笑った。
    「これで満足かい? 久瀬くん」
     そんなわけがなかった。
     八千代はさらに続ける。
    「残念だけどね、この世界はなにもかもが言葉で片づくわけじゃないんだよ。会話で物事を推し進めるには、それなりの信頼関係が必要だ。そしてオレと君との間には、まだそんな素敵なものはない」
     確かに彼がなにを言おうが、オレにはそれを信じられない。
    「ああ。残念だ」
     できるなら、あまり痛い目には遭いたくないのに。
     オレは微笑んで、彼に一歩近づく。
    「なら八千代さん。こうしよう」
     オレは思い切り、八千代の顔面に向かって拳を振った。
     彼は肩慣らしのキャッチボールみたいに、あっさりとオレの拳をつかむ。
    「あのねぇ――」
     八千代が口を開くが、そんなことどうでもいい。
     オレは行動の手順を決めていた。それを、ひとつひとつ実行していく。
     空いている左手には、すでに腕時計を握り込んでいた。至近距離から、彼の顔めがけて、それを投げつける。
     結果はどうでもいい。すべての行動のタイムラグを極力短くすることを考える。腕時計を投げた勢いで、八千代に向かって一歩踏み込み額を彼の頭にぶつける。
     ここで反撃が来た。こめかみに強い衝撃。どうやら殴られたようだ。
     一瞬、意識が飛んだように思う。平衡感覚が消え去り、膝に力が入らなくなる。
     ――倒れるなら、前だ。
     八千代の方。彼に詰め寄らなくてはいけない。
     オレはアスファルトに両膝を着きながら、八千代の腰の辺りにつかまる。背中に肘を落とされる。1発、2発。上手く息を吸えない。
     最後に押しのけるように、膝で顔を蹴られて、オレはアスファルトに倒れ込む。空がみえた。夕暮れにはまだ早い。
    「暴力反対だよ」
     と八千代が言ったように思う。うまく聞き取れなくて、耳鳴りがしていることに気づいた。
     オレはなんとか立ち上がり、うなずく。
    「まったく同感だよ」
     殴り合っていいことなんて何もない。一方的に殴り倒されるとわかっているならなおさらだ。でも、少なくとも目的は達成した。
     オレは右手に、コインロッカーの鍵を握ってていた。彼の腰に掴まったとき、ポケットから抜き取ったものだ。
    「悪いんだが、こいつはもうしばらくわたせない」
     そう告げて、オレはコインロッカーの鍵を口の中に放り込む。少ししょっぱい。とても嫌だ。
     ――追いかけてきたら飲み込むぞ。
     と言ったつもりだったが、相手に上手く聞き取れるように喋れた自信はない。
     オレは八千代に背を向けて、彼から逃げ出した。
    読者の反応

    光輝 @koukiwf 
    久瀬くん頑張りすぎや!


    空つぶ@3D小説bell参加中 @sora39ra 
    久瀬くん頑張った!見なおした


    @smoke_pop 
    久瀬くんが私の想像しているよりずっと向こう見ずだった件について 


    マコト @mako_3dbell 
    久瀬君かっけー。ドイルもかなり武闘派だな 


    きのえとら @kinoetora 
    バリツですかね 


    OMG @omg_red 
    いままで主人公を囮にする観客がいただろうか(反語) 


    フミ@ベルくんファンクラブ会長! @ayn_l_k 
    突入する方って本編読めてるんでしょうか。 



    ■現地組(食事会)

    もやしくん@星の入場証所持者 @moyashikun4545 
    ソル7人。ドイルの流れは謎 


    あさって @sakuashita1 2014-08-02 18:27:45
    無事合流できて涙目です!(真顔)





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