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■久瀬太一/8月3日/17時30分
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■久瀬太一/8月3日/17時30分

2014-08-03 17:30
    久瀬視点
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     やってきたのは2人の男だった。
     一方はひょろりとしていて眼鏡をかけている。もう一方は体格が良く、顔に不気味な笑顔を張りつけている。共に、三〇代の前半から半ばくらいにみえた。
     少なくとも彼らは、靴を脱いでマンションの中に入って来た。オレや八千代よりはいくぶん常識的なようだった。
     気がつけば、顔の痛みはもう引いている。あとには甘みに似た、安らかな違和感だけがある。でも安心できなかった。
     ――こいつらは、敵か?
     おそらくはそうだろう。ノイマンのマンションに、味方が現れるとは思えない。そもそもオレにはほとんど味方なんていない。思いつくのはソルたちくらいだった。
     男たちは、ちらりとこちらの足元に視線をやって、それから体格の良い方が口を開いた。
    「貴方たちは?」
     笑みを浮かべて、八千代が答える。
    「ノイマンの友人だよ」
    「友人のリビングに、土足で上がり込むのは感心しませんね」
    「失礼。日本のライフスタイルにはいまいち馴染めなくてね。君たちは?」
    「私はファーブルとお呼びください」
    「ああ。いい名前だ。小学校の図書室でよく読んだ」
    「貴方は?」
    「オレはドイル。2代目だがね」
     ドイル。それが八千代の、協会内での名前だと知っている。ずいぶん立派な名前だ。なんとなく似合っているのが鼻につく。
     恰幅の良い男――ファーブルは顔に笑みを張りつけたまま、わずかに首を傾げる。
    「なるほど。不思議ですね。私はつい昨日にも、ドイルにお会いしましたが」
    「親父の方かい?」
    「いいえ。貴方のはずですよ。ホームズならまだしも、ドイルまで変装の名人だということもないでしょう」
    「どこで会った?」
    「パーティですよ。我々の」
    「そいつは偽物だよ。オレは招待状をなくしちゃってね」
    「メリーが偽物に気づかないとも思えませんが」
    「残念だが、オレはメリーに会ったこともないよ」
    「それでもです。彼女は特別ですから」
    「ニールなら、オレを知っている。確認をとりたきゃ好きにしてくれ」
     ファーブルは顎に手を当てた。
    「まあ、いいでしょう。どちらにしても同じことです」
    「同じこと?」
    「貴方たちのやり方は、協会の教えを逸脱している」
    「オレは強硬派ってわけじゃない。偶然、そっちの方と先に知り合っただけだ」
    「なんにせよニールのご友人でしょう? 彼は少し、目に余る」
    「ああ。今度会ったら注意しておくよ」
    「ええ。お願いします。ですが今は、それよりも大切なことがある」
    「なんだい?」
    「もちろん、悪魔のことですよ。まさかメリーの決定に逆らうつもりではないでしょうね?」
    「そんな気はないさ」
    「なら、早く悪魔を差し出しなさい。あれはこちらで管理せよというのが彼女の意向です」
     話を聞いていて、わかったことがある。
     協会内で、ファーブルという男は穏健派に位置するようだ。ニールは強硬派。八千代も体面上、強硬派に位置している。
     八千代は強硬派の指示でこの部屋の捜索にきた。一方で、穏健派もみさきの居場所を把握していないようだ。
     ――つまり、どちらの派閥もみさきを見失っている?
     そう考えるのが妥当だ。どちらかの派閥の、誰かが裏切り、みさきを独占しようとしている。思い当るのはニールだ。ニールは瞬間移動でこの部屋に入り、みさきを連れ出した。だから部屋の鍵が開いていた。そしてニールはそのことを、他の強硬派に伝えていない。
     隣の八千代が、軽く肩をすくめる。
    「できれば、教えてあげたいんだけどね。そうもできないんだ」
    「どういう意味です?」
     ふたりの会話に、オレは割り込む。
    「あんたらは信用できないってことだよ」
     八千代とファーブルが、同時にこちらをみる。
     オレは笑う。
    「メリーなんて知ったことか。悪魔はオレたちがみつけたんだ。返してもらっただけだ」
     はじめて、ファーブルが笑みを消した。
     オレは続ける。
    「悪魔が欲しけりゃ、取り戻してみろよ。ま、あんたらには無理だろうがな」
     そして駆けだした。靴を履いたままでよかった。廊下を駆け抜け、玄関から飛び出す。
     後ろを追ってきた八千代が叫ぶ。
    「おい、なにを言ってんだよ!」
    「これで敵の数が減る」
     穏健派と強硬派は、互いに互いがみさきを確保していると思い込んだまま争っていればいい。オレたちは、派閥を裏切ってみさきを連れ出した誰かを相手にする。それがニールなら希望が持てる。話を聞く限りでは、八千代はニールと繋がりがあるようだ。
    「おいおい、オレが狙われるんだぞ?」
    「知るかよ。女の子の身代わりになるなら本望だろ」
    「護る女くらい、自分で決めさせろ」
    「うるせぇ」
     オレは昨日、保留にしていた誘いに答えを出す。
    「手を組もう、八千代。ヒーローバッヂの在り処を教えてやるから、付き合え」
     八千代は顔をしかめる。
    「本当に、知ってるんだな?」
    「これから思い出す」
    「ひどい不当契約だ」
     八千代は走りながら器用に、「組む相手を間違えたよ」と肩をすくめてみせた。
    読者の反応

    よこ @yoko_503 2014-08-03 17:33:27
    ばれた… 


    ちょくし@[3D小説 bell]参加中 @DodoRoku 2014-08-03 17:33:23
    くっそ八千代&久瀬コンビかっけえ・・


    ほうな@bellアカ @houna_bell 2014-08-03 17:35:52
    #めっちゃ八千代派 


    イレヴンバック@誰がためにbellは鳴る @elevenback893 2014-08-03 17:36:54
    ヒーローバッヂ・・・・英雄の証か? 


    桃燈 @telnarn 2014-08-03 17:41:54
    ひどい、不当契約だww 要するに俺らに探し出せって言ってるんだろ、英雄さんはよぉ!


    ほうな@bellアカ @houna_bell 2014-08-03 17:40:47
    しかし四国は台風で大変そうだがいろいろ大丈夫か…  





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