ブラックアウトした視界の中心に、ぽっかりと、四角い光が浮かんでいた。
その様は、簡単にたとえるなら、映画のスクリーンのようだった。
私は客席さえみえない、自分の手足もわからない小さな映画館にいて、ただまっしろなスクリーンだけをみている。そんな風だった。
白い画面の左下に、ぼんやり文字が浮かび上がる。
――リュミエールの光景、準備中。
なに? リュミエール?
とまどっていると、スクリーンに、新しい文字が浮かんだ。
――準備が整い次第、『ある少年の光景』を上映いたします。もうしばらくお待ちください。
ある少年? 久瀬くん、だろうか。
準備ってなんだ。
私がそう考えたのを読み取るように、スクリーンの文字が変わった。
――貴女が「彼の過去」を理解するたびに、より正確に「彼の光景」をみられるようになるでしょう。たとえば貴女は今、「1コマ目」を理解しています。現状では、こうです。
スクリーンになにか浮かぶ。
その映像はひどく乱れている。
が、ふいに。
そこに、かつての久瀬くんが映った。たぶん小学校に入る前の、まだ保育園に通っていたころの彼。
彼の隣には、怒ったような表情の女の子がいた。彼女はホウキにまたがって、必死にジャンプしていた。
だがその映像はまたすぐに乱れ、意味をなさなくなってしまう。
――なんだ、今の。
映像というにはあまりに短い、1枚の写真みたいな光景。
やがて乱れた映像も流れ終え、スクリーンは純白に戻る。
そこにまた、文字が浮かんだ。
――現状、判明しているのは、「1コマ目」だけです。
ひとコマ目? あれが?
ほうきにまたがって、「とべるの!」と言っていたペンギン。
それが、彼女なのか。
――残った3コマをヒントにエピソードを理解し、「彼の光景」を完成させてください。
文字は、それを最後に、沈黙する。
私は白い――リュミエールの光景、準備中とだけ書かれた――スクリーンに向かって、尋ねる。
「これに、どんな意味があるんですか?」
ためらうような時間のあとで、スクリーンに文字が浮かんだ。
――物語を先へと進める、儀式のようなものです。
意味がわからない。
私はさらに質問を重ねようとして、そのとき。
より強い光が、視界に射した。