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ということは、21番ピカピカの1年生だった少年は、30番花柄ランドセルで18番いじめにあっていた男の子をみて、2番の絵を自分のランドセルに書いてかっこよくすることで回りの視線を引いた、ということかな。
※
これで正解だ、とわかった。
まさか、最後の1枚が「2番」だとは思わなかった。というか、このイラストは何かの間違いだと、どこかで思い込もうとしていた。
少なくとも私一人では、決して導き出せないストーリーだ。
答えがわかったことに安心して、ふっと気が抜けて、視界がぐにゃりと歪んだ。
――まただ。
視界が暗転する。
そして私は、古い映画のような、ノイズのかかった四角い光景をみていた。もう不安はない。
これから私は、彼の過去をみるのだ。
――条件を達成しました。
――リュミエールの光景、起動します。
スクリーンに文字が浮かび、彼の物語が始まる。
※
少年は、はやく大人になりたかった。
理由は少年自身にもよくわからない。身体が弱い母親を護りたかったからかもしれないし、ただ少し背伸びをしてみたかっただけなのかもしれない。
わからないけれど、少年は、小学校にあがる直前のクリスマスに、プレゼントとしてランドセルをねだった。カラフルなものもたくさんあるけれど、少年が欲しかったのは黒くてしっかりとした堅実な作りのランドセルだ。それがいちばん大人っぽいと思っていた。
12月25日の朝、目を覚ますと少年の枕元には、希望通りのランドセルが置かれていた。少年はそれを掲げて歓声を上げた。すこし大人になったような気がして、すぐにそれを背負ってみた。ずいぶん手間取ったけれどなんとかひとりで背負うことができた。
やがて父と母とが起きだしてきて、「よかったな」と言ってくれた。
少年はそのプレゼントに、大いに満足していた。
小学校に入って半年ほど経っても、少年にとってそのランドセルは宝物だった。クラスメイトが持っているどれよりも、自分のランドセルが恰好よくて、大人びていて、綺麗だと思っていた。
ちょうどそのころ、母の病状が悪化し、単身赴任中だった父の元に行く形で、少年は引っ越しすることになった。
せっかく仲良くなっていたクラスメイトと離ればなれになるのは寂しかった。それ以上に、入院した母の元を離れるのが嫌だった。
でも少年は、それほどは我儘を言わなかった。ほんの幼いころから、どこか大人びたところがある少年だった。
――仕方ない。
と自分に言い聞かせて、少年は新たな場所での生活を始めた。
――オレはまだ子供だから、母さんになんにもできないんだ。仕方ない。
自慢のランドセルを抱きしめて。
それがあれば、きっと、すぐに強い大人になれると思っていた。
※
新しいクラスでは、岡島という名前の少年が浮いていることに、すぐ気づいた。
当時少年はいじめという言葉を知らなかったし、実際にそれほど強い悪意を感じたわけではない。でも何人かで話していると、決まって同じ少年がからかわれるな、とすぐにわかった。それが岡島だった。
――どうして、岡島がからかわれるんだろう?
少し疑問だった。彼に、他のクラスメイトたちと比べて、なにか変わったところがあるようにはみえなかったから。
その疑問が解けたのは、放課後になったときだ。岡島のランドセルをみれば、すぐにわかった。
彼のランドセルは花柄だった。女の子たちを含めても、このクラスでいちばん可愛らしいランドセルだった。
正直、恰好悪いなと少年も思った。
※
そのまま2週間ほど経った。
岡島は、ランドセルを馬鹿にされるたびに悲しげな顔をするけれど、特になにか反論する様子もなかった。
ある日、クラスの先生が岡島と話しているのを、たまたま少年は聞いた。
「これ、あげるから」
と先生は、黄色い交通安全カバーを岡島に差し出した。
「花柄がいけないっていうわけじゃないんだけど、ほら、岡島くんも困るでしょう?」
クラスにも何人か、交通安全用の黄色いカバーをランドセルにつけている生徒がいた。前の学校では全員がつけないといけない決まりだったから、少年は少し驚いた。少年自身は、恰好いいランドセルにださいカバーをつけなくてもいいことを喜んでいたけれど、花柄よりはあの黄色いカバーの方がましにみえた。
なのに岡島は首を振る。
「つけなさい」
と先生は言った。
また岡島は首を振る。
先生は少しだけ苛立った様子で、岡島の、花柄のランドセルを手に取った。勝手にカバーをつけてしまうつもりみたいだ。
岡島は先生の手の中から、そのランドセルを奪い取り、駆けだした。
「こら、岡島くん!」
先生が大きな声を上げる。
それよりも先に、少年は岡島のあとを追っていた。
※
廊下の片端で、少年は岡島をつかまえる。
「どうして、カバーつけねぇの?」
と少年は尋ねた。
あの花柄のせいでからかわれていることは、岡島もわかっているはずだ。
でも彼は首を振るだけだ。
「花柄が好きなの?」
岡島は、ゆっくりと、ためらうように頷いた。
「好きだよ。おばあちゃんが選んでくれたから」
そうか、と少年は頷いた。
それから、よくわからないけれど、岡島は恰好いいなと思った。
※
だから少年は、自分のランドセルを、もっと恰好よくすることにした。黒いランドセルにいちばん目立つ色で絵を描こうと思った。
「白いマジックってある?」
と聞くと、父は近所のホームセンターに連れていってくれた。そこでいちばん太い、白いマジックを買った。
少年はそのマジックで、花柄よりもずっと馬鹿にされそうなイラストを、自分のランドセルに描いた。
本当は嫌だったけれど、岡島は恰好いいから仕方がない。
――オレはできるだけ、恰好良い奴の味方でいたい。
そう思っていた。
※
翌日、もちろん少年はクラスメイトたちから馬鹿にされたし、嫌ななあだ名もつけられた。いちばん悲しかったのは、先生が理由もきかずにその絵を消してしまおうとしたことだ。
だから夜、父親が不思議そうな顔で尋ねてきたとき、少し嬉しかった。
「どうして、そんなことしたんだよ?」
「なんだ。わかんねぇのかよ」
少年は笑って答える。
「これ、すげぇ恰好いいだろ?」
コウリョウ @kouryou0320
オレどうせすぐ引っ越すし! とかそういう…
子泣き少将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw
マジかよ久瀬…(戦慄
よもぎ @hana87kko
子供なんてのは、他のものに気を取られ出すと、それまでのことを一気に忘れる生き物だから。
Jill@Sol軍事班 @Noirfennec
「少なくとも私一人では、決して導き出せないストーリーだ。」
そうですね、私たちでもなかなか導き出せない難易度ですよ
カイリ@SOL @kairi_3d
久瀬少年ほんとかっこいいなw
さいとう @jinbe_s
久瀬、確かにどんな大人よりも英雄だしかっこいい
tepp@3d小説参加中 @allsaka
久瀬君かっけぇ・・・これで小学生とか|д゚)
安里 まなか @Mi_go_pail
久瀬くんと岡島くんどっちもカッコいいなぁーとは思うけどさ……
ワガママだけど、久瀬くんが下になることで岡島くんを助けるんでなく
岡島くんの持ち物が大切な物であることを周りに認めさせて欲しかったとも思う。
子泣き少将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw
涙腺刺激しにくるのやめろ岡島ぁあああ!(涙
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