3D小説「bell」本編
■久瀬太一/8月9日/21時
「箸で食うパスタは、やっぱりフォークで食うパスタとは別物だ」
と八千代が言った。
オレたちはチェーンのスパゲッティー屋で向かい合っていた。
「ここに誘ったのはお前だろ?」
「嫌いだとは言ってない。別物だ、と言っただけだよ」
たしかに箸で醤油バター味の麺をずるずると食っていると、それはパスタだとは思えなかったけれど、美味いは美味い。
たらことカルボナーラのスパゲッティーに箸をつける八千代に、オレは言った。
「あんたのスマートフォンとミュージックプレイヤーを盗んだ知人なんだが」
「ああ」
「あんたに会いたいと言っている。謝罪の菓子折りを持ってくるそうだ」
八千代はわずかに、首を傾げた。
「会えばあのふたつを返してくれるのかい?」
「そのつもりなんじゃないか、たぶん」
「なら、会ってもいい。人に会うのは嫌いじゃない」
「いいのか? こんな状況で」
「もちろんタイミングは考えるよ。もう少し先でいい」
やっぱり八千代は、あのスマートフォンか、ミュージックプレイヤーを取り返したがっているようではあった。でも少なくとも、慌ててはいない。
「彼女――スマホやミュージックプレイヤーを盗んだ女性は、ある雑誌の編集をしていてね」
「へぇ」
「へんなオカルト雑誌なんだ。それでみたんだけど、あんた、水曜日の噂って知ってるか?」
たらこスパゲッティーを口に運ぼうとしていた八千代は、途中で箸をとめて、こちらをみる。
「いや。聞いたことがないな」
「水曜日の歌声には暗号が隠れている。水曜日のバスは終点に辿り着かない。そんな噂話だ」
「それで?」
「それだけだよ」
八千代はスパゲッティーをずるずると食ってから、言う。
「なにかもう少し、オカルトらしいオチはないのかい?」
「さあな」
それらの噂の結末はわからない。なにせオレは、今もまだそれを体験している途中だ。
「都市伝説にはオチと悲劇的な真相が必要だって、その記者に伝えておいてくれ」
と八千代が言った。
オレのみた限りでは、彼が嘘をついている様子はなかった。八千代が本気で嘘をつこうとしたなら、それを見破れる自信もないが。
――八千代は、あのバスのことは知らない?
思えば、あのバスが今のところ、もっとも正体不明だ。
ほかの超常現象はとりあえずプレゼントみたいだけど、あれも同じく、誰かのプレゼントなのだろうか?
そういえばプレゼントのことも訊けと言われていたな、と思い出して、オレはきり出す。
「ノイマンって知ってるか?」
「ふたり思い当るな」
「片方は、ジョン・フォン・ノイマン?」
「その通り。偉大なコンピュータの発明者だ」
「そっちじゃない。まだ生きいてる方だ。女性らしい」
「なら、何度か会ったことがあるよ」
へぇ、と思った。
「お前の友達は、強硬派ばかりじゃなかったのか?」
ノイマンは穏健派だときいている。
「そっちの方が多いってだけだよ」
「ノイマンもプレゼントを持っているのか?」
「そんな話を聞いたことがあるな」
八千代は意外に素直に答える。
オレはパスタの上に載っているナスをつまんで、口に運んだ。
「どんなプレゼントだ?」
「そこまでは知らない。でも、名前は聞いたことがある」
「なんだ?」
「ノイマンの世界」
ずいぶん大げさな名前だ。
「強そうだな」
とオレは、小学生みたいな感想をもらした。
八千代は肩をすくめる。
「まったくだよ。強そうな女性は敵にしたくない」
「ドイルの書き置きだって、充分強そうだぜ」
「おいおい、それがオレのプレゼントだってのかい?」
「ファーブルはそう言っていた」
「信じてるのか?」
「あいつが嘘をつかないって言ったのはお前だろ?」
「だれにだって勘違いはあるさ。勘違いは嘘じゃない」
オレはため息をついて、またパスタに箸をつける。底の方は味が濃くて、グラスの水をごくごくと飲んだ。
「イコンってのが、プレゼントとかかわってるんじゃないかな」
「ああ。オレもそうじゃないかと思ってるよ」
「どうかかわっているんだと思う?」
「そこまではわからない」
「イコンってのは、たくさんあるのか?」
「少なくともひとつではないみたいだよ。ひとつのプレゼントにつき、イコンもひとつ、と考えるのが自然じゃないか?」
――あのミュージックプレイヤーも、イコンなんじゃないかって説があるぜ。
と、言ってみようかと思ったけれどやめる。はぐらかされるだけだろう。
「オレの部屋から盗まれた、あの白い星。あれもイコンだったんじゃないかな」
「可能性はある。それなら、4つの鍵のついた箱で守られていたのもわかる」
「なら、ファーブルはイコンを手にいれようとしていたってことか?」
「それはわからない」
まあ、オレにしてみれば、白い星の方はどうでもいい。
大事なのはソルのスマートフォンだ。
「あいつに盗られたものを取り返したい」
「ああ。賛成だよ。奴らが欲しがってるってだけで価値はある」
八千代はスパゲッティーの、最後の1本を丁寧に口に運んで、首を傾げた。
「ファーブルから連絡は?」
「ない。こちらから電話をかけても繋がらない」
「それは不思議だ」
八千代は口元で笑っている。
「あいつは君を、仲間に引き込もうとしてたはずだ。どうして君からの連絡を拒む理由があるんだろう?」
わからない。いや。
――オレが必要なくなったからじゃないか?
傍からみればオレは、特殊だろうと思う。
なにも知らないただの大学生が、でもところどころで、妙に聖夜協会に深く関わっている。小箱にかかった4つの鍵もあけた。ファーブルからみれば、悪魔を確保したのもオレたちだ。あいつはその辺りに興味を持ったのかもしれない。
でもそれらはみんな、ソルの力によるものだ。
ファーブルの興味が、オレからソルに向いたのだとすれば、納得がいくように思う。
「なにか思い当るかい?」
と八千代が言う。
「いや」
と、とりあえずオレは首を振る。
「なんにせよ、向こうから接点を切られると、ちょっと手を出しづらいね。ファーブルについて調べるのは骨が折れそうだ」
その通りだ、とオレは思う。
スイマたちに見張られたまま、ファーブルの行方を追うのは、途方もなく困難なことに思えた。
――もう一度、オレの前にファーブルが現れるように仕向ける?
どうやって?
そうだ、と思い当る。
今、ソルたちは、ファーブルと連絡が取れるのではないか?
彼らならなんとかしてくれるかもしれない。
――オレが意識するだけで、ソルにはメッセージが伝わる。
たしか以前、ソル自身からそんなメールをもらっていた。
だから心の中で、オレは念じる。
※
頼む、ソル。
どんな方法でもいい。
ファーブルがもう一度、オレの前に現れるように仕向けてくれないか?
可能なら、あのスマートフォンを手にした状態で。
※
「さっさと食えよ。冷めちゃうぜ」
と八千代が言って、オレは目の前のパスタを思い出す。
「ま、ファーブルをなんとかする方法は、オレも考えてみるよ」
彼は笑う。でも。
オレは八千代が、血を流して倒れている未来を知っている。
――To be continued
闇の隠居 @yamino_inkyo 2014-08-09 21:00:40
@sol_3d こここここ更新と……電波きたーーー
セトミ@レンブラント派アイちゃん派 @setomi_tb 2014-08-09 21:01:52
世界!
秋沙(あいさ) @Isa_Laurant 2014-08-09 21:02:14
電波!!
minion @minion_strife 2014-08-09 21:03:30
ファーブルと交渉だー!
かめ@kameaaa32 @kameaaa32 2014-08-09 21:03:50
とりあえずう○この画像おくろう。割と真面目に
少年(ベルくん) @3d_bell 2014-08-09 21:05:11
久瀬さんのアドレスから、メールが届きました!
とにかく、コピペします!
少年(ベルくん) @3d_bell 2014-08-09 21:05:30
【誰かからのメール】
はじめまして。スマートフォンを預かっている者です。
どうやらあなたは、「私共」の事情に、充分お詳しいようにお見受けします。
私たちはよい友人になれるように思うのですが、いかがでしょう?
やんわり@町会議8/30山口! @yanwalee 2014-08-09 21:05:45
ファーブルか!?
少年(ベルくん) @3d_bell 2014-08-09 21:05:50
【誰かからのメール】
こちらは、「名前のないプレゼント」のイコンをほぼ特定しております。
お話できましたら幸いです。ご連絡、お待ちしております。
サトウ地依図@sato @siam1224 2014-08-09 21:06:14
@sol_3d ってメールきとんのかーい!返信かんがえな!!w
スター(ロボ)/Lost公開! @Sutaa 2014-08-09 21:07:22
強そうだな。(小並感)
少年(ベルくん) @3d_bell 2014-08-09 21:10:14
↓のメールを送りました!
「君の方は私についてどれくらい知ってる?」
少年(ベルくん) @3d_bell 2014-08-09 21:16:38
↓のメールを送りました! 制作者からの返信でした。でも、いつもとはちょっと違いました。
「あなたは誰ですか?」
少年(ベルくん) @3d_bell 2014-08-09 21:17:07
【制作者からのメール】
賢明で行動力に溢れる諸君。
残念だが、現在は電波が入っていない。
少年(ベルくん) @3d_bell 2014-08-09 21:20:18
@yuki_seiyudo いつもはメールのうしろに「今回送信されたメールは、近々彼に届くだろう。」という文があるんですけど、それがなかったです!
極端P@3D小説楽曲担当班 @Piri_dm_ 2014-08-09 21:15:07
電波きれたwwwwwwwなんだそりゃwwww
やんわり@町会議8/30山口! @yanwalee 2014-08-09 21:17:48
( ゚д゚)
OMG @omg_red 2014-08-09 21:15:07
電波切れるの早いなおい
交響楽 @koukyoraku 2014-08-09 21:15:59
電波切れたか
次に繋がるまでに対策を立てないと
リコリス@単冠湾泊地 @lycoris_alice05 2014-08-09 21:21:15
ファーブルが探してんのは英雄の証だったか?
OMG @omg_red 2014-08-09 21:23:13
この手の交渉はソルが2番目に苦手なことと思われる。意思統一が難しすぎてどうしたものやら
1番苦手なのは能動的に動くこと
ユノノギ@3D小説『bell』第1部完 @yunonogi 2014-08-09 21:25:05
スプレッドシートにて、スマホ拾った人への対策はじまってます!https://docs.google.com/spreadsheets/d/1HJONnnJX6M48MzW0XqbY/edit
※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント( @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
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