3D小説「bell」本編
■久瀬太一/8月16日/18時57分
たまたま、そう遠くない場所にホームセンターがあることを覚えていた。
オレはそこまで引き返して、わざわざスコップと巻尺を買った。スマートフォンで、ソルから聞いていたタイムカプセルの在り処を示す長さを調べて、また山に登った。
ひとりで巻尺を使うのは困難だった。
位置を割り出して、スコップを突き立てる。やはり掘ったあとなんてない地面に。
――タイムカプセルは、ソルが掘り出したはずだ。
本当に、ここにタイムカプセルがあるのかもわからない。スコップを握ってもまだ、当時のことは思い出せない。
なのに。
タイムカプセルに近づいている実感はあった。
先ほどから、ひどく頭が痛む。どうして?
「春がきたら」
とあのころ、友人たちと話していた。
「春がきたら、タイムカプセルを埋めよう」
「お前が遠くに行っても、また掘りに戻ってくるだろう?」
「タイムカプセルを埋めて、掘り返すときにまた会おう」
今は、その会話は鮮明だった。
彼らひとりひとりの表情まで思い出せた。みんないい奴だ。なのに。
――オレは、タイムカプセルを埋めなかったのか?
どうして? 約束したのに。約束は守ると決めていたのに。
ひどい頭痛に耐えながら、オレはスコップを地面につきたてる。土は硬い。それでも少しずつ掘り進む。こめかみの辺りから頬を伝って流れた汗が落下し、乾いた地面に吸い込まれる。
最後。
オレがここにいた、最後。
冬だ。たぶん。雪は降っていなかった。冬の山で遊ぶのは難しくて、でもいつものようになんとなく、4人でここまできて――
「東京に行くんだって?」
と言ったのは、白石だったような気がする。
「違うよ。祖母ちゃんちは、千葉だ」
そうだ。たぶん、冬休みのころ。オレは毎年、祖母の家に行っていた。それで。
スコップがなにかにぶつかり、カンと高い音が鳴る。
――缶?
四角い缶だ。間違いない。
「あった」
と思わず呟く。
――みつけた? 本当に?
やはりオレは、その缶を知らなかった。
みたこともなかった。
それに、ソルたちが掘り起こしたはずだった。
誰かの、知らないタイムカプセルを、オレは掘り当てた。
――どうして。
ずきん、ずきんと顔の左半分が痛む。
痛みで視界がかすんで、平衡感覚を失う。
よろけて倒れそうになったとき、なにかがオレの肩をつかんだ。
だれ――
「大丈夫か?」
と、八千代の声がきこえた。
オレはなんとか声を振り絞って、「大丈夫」と答えた。答えたはずだ、たぶん。
痛みはどんどん、増していく。
掠れて、歪んだ視界で、八千代が笑った。
「正直、不安だったんだけどね。君はよくやったよ」
オレはなんとか、「ああ」と答える。
どうやら八千代は、オレの身体を地面に横たえたようだった。
「君の仕事はここまでだ」
おい。
それは、どういうことだ?
彼はオレが掘った穴から、赤く四角い缶を取り出す。
――え?
と喉の奥で、声が漏れた。
その缶には雑なイラストが描かれていた。見覚えのあるイラストだ。
――少年、ロケット?
あの、不敵に笑う顔のついたロケットのイラストだ。どうしてあいつの絵がここに? 意味が――
それをつかんだ八千代が、首を傾げる。それから、こちらを見下ろして、むしろ悲しげな口調で彼は言った。
「悪いね。旅行のガイドは、ここまでだ」
視界が霞む。
鬼村優作 @captain_akasaka 2014-08-16 18:59:31
…っなっ!!
よーさん:潜 @yoh_53 2014-08-16 19:01:26
@sol_3d 八千代…!!
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