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■白石隆の視点/ボツ原稿の公開
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■白石隆の視点/ボツ原稿の公開

2014-11-30 15:05
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    ※本来、8月16日に行われたイベント「だれかのタイムカプセルを掘り起こそう!」中に小冊子の形でみつかる予定でしたが、もろもろの都合でボツにしていました。
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     オレと、美優と、それから幸弘ってやつは、幼稚園に入る前からの友達だ。ちょっと前までは3人で、よく幸弘の山で遊んだ。幸弘の山ってのは、幸弘の父さんが持っている山のことだ。あそこで一緒にバーベキューもしたし、段ボールを持ち込んで秘密基地を作ったり、虫取りをしたり、いろんな楽しいことがあった。だけど最近は、なんだか一緒に遊ぶことも少なくなっていた。
    「好みが違ってきたんだよ。仕方がない」
     と幸弘は言った。
     そんなものだろうか。よくわからない。オレはいまでもあいつらとサッカーをしたり、ゲームで対戦したりしていたかった。ただ他にも一緒に遊びたい奴らがいて、ちょっと時間がなかっただけだ。

           ※

     よく注意力がないと叱られるオレでも、美優の様子がおかしいことには、さすがに気づいた。
     美優は笑わなくなったし、クラスでもひとりきりでいることが多くなった。遠くからみていてもそれがわかった。
     学校からの帰り道に、オレは幸弘とふたりきりになったから、あいつにきいてみた。
    「最近、美優がへんじゃないか?」
     幸弘は呆れたようにこちらをみて、それから答えた。
    「いまさらかよ。もう2週間も前から、あいつ景浦に目をつけられてるぜ」
    「景浦? どういうことだよ」
    「知るか。本人に聞け」
    「目をつけられるってなんだよ」
    「そっからかよ。つまり、嫌われてるってことだ。いじめってやつだ」
    「まじか。そんなのうちの学校にあるのかよ」
    「どこにだってあるんだろ、たぶん。普通のことだよ」
    「だって、それ、たいへんじゃねぇのか?」
    「だから本人にきけよ。僕は知らない。関係ない」
    「関係ないって、美優のことだぞ?」
    「助けてって言われたわけでもないんだ。こういうのは、周りが中途半端に手を出すと、余計に面倒なことになるんだよ」
    「お前、なんか冷たいよな」
    「現実的なだけだ」
     最近は幸弘とも話が合わないことが増えてきた。こいつのいう通り、好みが変わってきたのだろうか。
     なんにせよオレは、美優を放っておくつもりはなかった。

           ※

     次の日に、オレは美優と話をした。
    「おまえ、いじめられてるの?」 
     そうきいてみたら、なんだか美優は、寂しそうに笑った。
    「そんなことないよ」
    「でも、幸弘がそう言ってたぜ?」
    「大丈夫。たまたま、ちょっとケンカしてるだけだから」
    「なにがあったんだよ?」
     美優はなかなか事情を話してくれなかった。
     でもやがて、ゆっくりとペンケースのことを教えてくれた。マコって女の子のペンケースを景浦が窓から捨てて、美優がそれを取り戻した話。美優はなにも悪くない。逆恨みって奴だ。ひどい話だと思った。
    「よし。じゃあオレが景浦をぶったおしてやるよ」
     簡単な話だ。
     景浦はいつも教室でわけがわからないことを言っている女子だ。あんなやつに負けるわけない。
     美優は「やめて。大丈夫だから」と言ったけれど、オレはこいつを助けてやるんだって決めていた。

           ※

    「美優に謝れよ」
     オレがそういうと、景浦は一瞬、驚いたような顔をして、それから笑った。
    「いったい、なにを謝らないといけないの?」
    「あいつにひどいことしたんだろ?」
    「してないわよ。私はなんにも。被害妄想じゃないの」
    「なんだよ、被害妄想って」
    「自分で調べなさい。だからガキは嫌いなのよ」
     景浦は取り巻きたちと、なにか小さな声で話をして、くすくすと笑った。
    「話をそらすなよ。お前が悪いことはわかってるんだ」
    「うるさいわね。唾を飛ばさないで。汚い」
    「汚いのはお前だろ。じめじめしたことやってんじゃねぇよ」
    「私はなにもしていないって言ってるでしょ。あの子が嫌われてるだけじゃないの」
    「どうして美優が嫌われないといけないんだよ」
    「さぁね。でもバカな男子に泣きついて庇ってもらうような子、最低よ」
    「あいつは泣いてねぇよ。オレが勝手にやってるんだ」
    「ふーん。あの子が好きなの?」
    「なんでそんな話になるんだよ」
    「そうよね。ガキには恋愛なんてわかんないわよね」
    「今は美優の話をしてんだよ。わかってんのか?」
    「知らないわよ。興味ないもの」
     そうこうしているあいだに、教室に先生が入ってきた。どうやら景浦の取り巻きのひとりが呼んできたようだ。
     景浦は妙に小さな声で、ささやくように、先生に「助けてください。白石くんが急に怒りだして」と言った。
     好都合だ。景浦とはまともな話にならない。
     先生に叱ってもらおうと思って、オレはペンケースの話をした。マコのペンケースを、景浦が窓から投げ捨てて、それを美優が取り返した話だ。
    「本当なのか?」
     と先生が言った。
     景浦は首を振る。
    「そんなこと、するはずありません。マコちゃんと私は友達だから。ね?」
     そういうと、近くにいたマコも頷いた。
     ――どうしてだよ?
     とオレは思う。
     ――景浦が敵なのはいいけど、どうしてマコもそっち側なんだよ?
     そんなの、おかしい。
    「白石くんは悪くありません。きっと山本さんが嘘をついたんだと思います」
     と景浦は言った。

           ※

     なにが起こっているのか、よくわからなかった。
     美優は間違っていなくて、オレは正しいことをしたはずで、なのに美優が先生に呼び出されて、景浦に謝ることになった。それきり美優まで、オレを避けるようになった。
    「納得できねぇよ」
     とオレは言った。
     学校からの帰り道で、隣には幸弘がいた。
     あいかわらず、冷たい口調で幸弘が応える。
    「お前が悪いんだろ。無鉄砲に動き回るから、美優にも迷惑がかかるんだ」
    「オレは、あいつを助けてやろうと思って」
    「失敗したら同じだよ。まだなんにもしない方がましだ」
    「放っておけるはずないだろ」
    「勝手な正義感で迷惑をかけるのは、最低だ」
     なんだかやるせなくて、いらいらしていて、だからオレは久しぶりに幸弘とケンカをした。それっきりあいつとも話をしなくなった。
     納得できなかった。でも、なにをすればいいのか、わからなかった。
     いらいらして、オレは、ちょっと美優や幸弘のことさえ嫌いになった。がんばって嫌な思いをするくらいなら、別の友達とゲームをしている方がよかった。

     すべてが変わったのは、2学期になって、うちのクラスにひとりの転校生が現れたときだ。
     久瀬太一。
     あいつは、なんだか特別だった。
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