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進学先に尾道を選んだのは、いかにも私らしいなと思う。
白石くんのように愛媛に残るわけでも、越智くんのように東京に出るでもない。とりあえず瀬戸内海を超えてすぐの、なんとなく天気予報で同じ画面に収まる範囲をちょろちょろしている、中途半端な感じ。
とはいえこの街は静かだし魚介類も美味しいから、大学の4年間を過ごす場所としては満足している。一方でその先――卒業後に、さらに愛媛から離れるのか、それともくるりと舞い戻るのかは難しい選択だった。
さすがにぼちぼちと卒業後の進路について考えながら――おそろしいことに、私が学生でいられるのはもうあと1年少々なのだ――ひとりきり瀬戸内海に面した人の少ない通りを歩いていた。
瀬戸内海のような小さな海でも、やはり遮るものがないからだろう、冷たい風が吹きつけてくる。私は格安のセレクトショップで出会ったミリタリーコートとスマホタッチに対応した毛糸のグローブと裏起毛タイツに身を守られて、しまなみ海道を睨みながらうつむきがちに歩く。閑散とした街でもどこかからジングルベルがきこえてくる。社会の深いところに刻まれた本能みたいに。私たちは初詣と年賀状とジングルベルが義務づけられた民族だ。
クリスマスにあまりいい思い出のない私は、ジングルベルから逃げ出すために釜飯が美味しい定食屋さんに入った。昼食がまだでお腹がすいていたのだ。昼と夜をまとめて一食にするという、カロリー計算上は理に適っているはずのダイエットプランを実行中なのだけど、今のところ効果は現れていない。
店内に流れていたのは、妙に荘厳なクラシックだった。釜飯が美味しい定食屋さんには合わない気がするけれど、クリスマスミュージックではないことに満足して煮魚の定食を注文する。それから、スマートフォンが震えたから、メールを確認した。実家の母からだ。
――いつ帰るの?
大学の期末試験は明日でおしまいだ。その数日後には帰るよと返信した。細かなスケジュールは決めていない。高速バスで2時間程度の距離だから、帰ろうと思えば今すぐにでも帰れる。なんとなくクリスマスが終わるまではこちらにいて、除夜の鐘までには実家に戻ろうか、くらいの意識。
それからしばらく母と、だらだらとメールのやりとりをして過ごした。
やがて煮魚定食が運ばれてきて、スピーカーから流れる音楽が清しこの夜に変わった。
結局、どこにいようとクリスマスからは逃れられないのだ。神社や寺でさえクリスマスのオーナメントで飾りつけられてもおかしくない。
私は小さなため息をつく。
そのとき、ふたつ離れた席から声をかけられた。
「ちょっといいかな?」
振り返ると、赤いジャケットを着た、背の高い男がいた。
※
この辺りの人ではなさそうだぞ、と一目で感じた。
立ち振る舞いが都会っぽい。2分歩けばおしゃれなバーがあり、5分歩けば数多くのワインが取り揃った高級レストランがある生活が当たり前だと思っているタイプの男にみえた。そもそも赤いジャケットを平気で着こなす男なんてこの辺りにはいない。
男は首を傾げる。
「オコゼのから揚げ、好き?」
なにを言っているんだこの人は。たまにいる観光客だろうか。
「けっこう美味しいですよ。おすすめです」
と一応答えた。
尾道は有名な映画の舞台になったとかで、たまに観光客がやってくる。私の出身地も、道後温泉のおかげでどうにか観光地にひっかかっていたから、観光客を無下にはしたくない。
「そう。ありがとう。――ああ、君。このメニューなんだけど、どれくらいのボリュームがあるんだろう?」
男は店員を呼び止めて、オコゼのから揚げについての説明を聞き始めた。
私は煮魚定食に箸をつけながら、似合わない男と店員の会話を聞くとはなしに聞いていた。清しこの夜には合わない会話だった。
「え、そんなに大きいの? 半身だけの注文ってできない? ――そうか。じゃあそっちのブラックボードのセットと、このから揚げを。食べきれなかったら、持って帰ってもいいの? でもあつあつの方が美味しいよねぇ」
彼はふいに、顔をこちらに向ける。
「君、から揚げ半分食べない?」
「え?」
「名物っていわれると、ちょっと味見をしたくなる性質でね。でも一匹まるごとだっていうから。ほら、旅先だといろいろ食べたくなるじゃない」
はあ、と私は間の抜けた声で頷く。
それから少し考えて、尋ねた。
「ナンパですか?」
「違うよ。尾道には悪いけどね、女の子と遊びたかったら別の場所にいく」
「私、あんまりお金持ってないです」
オコゼはわりと高い。
「もちろん奢るよ。実は、仕事でここにきていてね。経費で落ちる」
「それはそれで抵抗あります」
「ならオレが自腹で奢ろう」
そちらの席に行っても? と男は言った。
困った。
私はどちらかといえば人見知りな方だけど、その自覚があるせいで、妙に強がってしまうところがある。それは欠点だとわかっていたけれど、つい強がって笑顔で「いいですよ」と答えてしまう。自分自身に対して意地を張るのは欠点だ。
「ありがとう。――ああ、君。料理はそちらのテーブルに頼むよ」
男が席を立ち、向かいの席に移動する。
彼は横向きに席に座り、足を組み、私に向かって名刺を差し出した。
「実は、ある男を捜していてね。君から話を聞きたかったんだよ、山本さん」
その名刺には、「旅先案内人 八千代雄吾」と書かれていた。
わらびもち@3D小説垢 @namakero_3d
本編更新!??!?!?!?
雑食人間@3D小説第2部キーホルダー運搬 @zassyokuman
本編更新 山本美優の視点 これだよ、この流れが見たかった。
リョウゼン シュウ @shuu_ryouzen
始まってるじゃねえかww
トモ@HOTO @H9Hoto
ゆっくりしていてくれ(更新しないとはいっていない)
鯱海星 @syati_hitode
24日からってのはウソか!!!(大変嬉しいです!)え、これこの店特定するの?凸るの?
子泣き中将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw
八千代何してんのー?!
バンソコ @banndoeido
運営ひょっとしてオコゼ好きですね?!
アステル@福岡Sol @asuteru21
とべこん無しってことはまだまだ続くよ
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