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山本さん、と赤いジャケットの男は言った。
「わざわざ解説が必要な肩書きなんてものはバカバカしいと、オレ自身思うけれどね。旅先案内人ってのは、まあ便利屋みたいなものだと考えてもらえればいい。何でも屋ってほどなんでもはしない。でも一言では言い表せないくらいに、いろいろなことをする仕事だ。今回はある女性に頼まれて、ひとりの男を捜している。――って、これは、さっきも言ったかな?」
私はその男――八千代さんの話を、ほとんど聞いていなかった。
彼が私の名前を知っていたことに、ただただ驚いていた。
「食事、続けて。せっかくの料理が冷めてしまう」
そう勧められて、本当に箸を握ろうとして、だがどうにか踏みとどまる。
ようやく尋ねた。
「どうして、私の名前を知っているんですか?」
「依頼人から聞いたんだ。写真もみせてもらった。明日、大学の方に行ってみるつもりだったんだ。今日ここで会えたのは偶然だよ。オレも目を疑った」
「依頼人って、だれですか?」
「ごめんね、それは言っちゃいけないことになっている。とはいえ君を捜していたのは、本当に話を聞きたかっただけだよ。住所も電話番号も知らない。わかっているのは大学と、あとは愛媛出身だってことくらいだ。それほど警戒する必要はない」
警戒がいらないといわれても、そんなもの、気になるに決まっている。
「どうして、私に?」
とどうにか尋ねる。
「捜している男が最後に会った人物が、どうやら君らしくてね。とはいえ、もうずいぶん前のことだ。ええと――」
八千代さんは手帳をめくって、言った。
「今から、ちょうど10年前の、春。思い当たることは?」
「あります」
もちろん、ある。
10年前の春に消えた男の子。――彼のことは、クリスマスシーズンになるたびに思い出す。いや、思い出すという表現は正確ではないかもしれない。そもそも私は、彼のことを忘れたことがない。
「久瀬くんを捜しているんですか?」
八千代さんは少しだけ眉をひそめる。
「久瀬? ――いや、たぶん違う」
「たぶん?」
「オレも本名は知らないんだ。でも、君が『くん』とつけて呼ぶ歳じゃない。きっと君のお父さんよりも年上だよ」
違うのか。
確信していただけに、気が抜けた。
「じゃあわからないです」
ほかにいなくなった人なんていない。
「待って。関係あるかもしれない。久瀬くんっていうのは?」
「小学校のころの同級生です。一緒に学校に通っていたのは半年くらいですけど」
彼は小学3年生のクリスマスでひどい事故に遭い、そのまま長い間、入院していた。
そして小学4年生が終わるころ――10年と9か月前の3月に消えてしまった。
そう説明すると、八千代さんはせわしなく手帳をめくって、言った。
「もしかして君は、その少年のお見舞いにいったのか?」
「ええ、はい。何度か」
とはいえ彼は、関東の病院に入院していたから、そう頻繁には訪ねられなかった。
「最後に会ったのは?」
「彼がいなくなる直前です」
仕事の都合で、父がたまに東京に行くことがあって、私は無理を言ってそれについていった。
でも、あの3月、私が会ったすぐあとに、彼は消えてしまった。
「消えたってのは、どういうことだい?」
「そのままです」
急にその病院からいなくなって。どこに行ったのかもわからなくて。
小学生の私には、彼の行き先を調べる方法も思いつかなかった。
大人になったら調べようと思っていて――なのに、どうしてだろう――今まで忘れていた。
八千代さんは頷く。
「君は、その少年の病室で誰かに会わなかったかい?」
「誰か?」
「そう。たとえばセンセイと呼ばれる、初老の男性だ」
センセイ? センセイ――
そんな風に呼ばれていたのかは、知らない。
でも。
「確かに、男の人には会いました」
お父さんよりも年上の、お祖父ちゃんくらいの歳にもみえる男性。
「オレが捜しているのは、その人だよ。その人もね、君がいう、久瀬って少年とほとんど同じ時期に姿を消している」
どういうことだ?
もしかして――
「その、センセイという人が、久瀬くんを連れ去ったんですか?」
「わからない。あの人のことは、本当にわからないんだ。どんな話をしたの?」
「覚えていません。ほとんど意味のあることは話さなかったような気がします」
「じゃあ、センセイからなにか受け取らなかったかな?」
どうだろう? なにか? なにを――
そうだ。
「携帯電話」
「携帯?」
「携帯電話か、なにかそういうものを、渡された気がします」
「それだ」
八千代さんが身を乗り出す。
「その電話、どこにある?」
「たぶん実家に。捨てた覚えはないから、どこかにしまい込んでいるのかも……」
「実家っていうのは愛媛の?」
「ええ、はい」
「近いな。今すぐ確認したい」
八千代さんがそう言ったタイミングで、ちょうど店員さんが料理を運んでくる。
彼は言った。
「食事のあとで、すぐに移動しよう」
「いや、あの、私は明日まで学校です」
「今夜愛媛に戻って、明日の朝戻ってくればいい。学校は何時から?」
答えたくない。
なんなんだ、一体。
「久瀬って子のことも、まとめてわかるかもしれない。センセイはその少年の病室を訪ねたんだ。そしてその少し後に、姿を消した」
久瀬くんに関係しているのだろうか? あの携帯電話が?
「もうすぐ実家に帰る予定です。数日、待ってもらえませんか?」
でも八千代さんは首を振る。
「実はね、制限時間は24日までだと聞いているんだ」
「制限時間、ですか?」
「センセイをみつけるまでの制限時間。オレもよくは知らない。たとえば、24日までに足取りを終えなければ、センセイが海外に行ってしまう、という風な事情があるのかもしれない。なんにせよオレには時間がない。君も久瀬って少年の行方を知りたいのなら、急いだ方がいい」
24日? イヴだ。
いや、そんなことはどうでもよくって、あと3日しかない。
「どうする? 車なら出せる」
と八千代さんは言った。
私は首を振る。
「いえ」
知らない男性の車に乗るつもりはない。
「まだ高速バスの便に間に合うと思います」
そう答えて私は、冷めかけた煮魚定食に箸をつけた。
スター(着ぐロボ) @Sutaa
「待って。関係あるかもしれない。久瀬くんっていうのは?」
え?
え?
aranagi@静岡ソル @arng_sol
これはまた別の話なのか、八千代が久瀬を知らない・・?
belka109 @belka109
久瀬くんと面識のない平行世界とか?
ほうな@bellアカ @houna_bell
更新きたけど時系列がおかしくねぇかこれ 過去の話?
そらいろ @s0rat0kum0
これいつの話・・・?
で、たぶん依頼主はメリーか?
で、たぶん依頼主はメリーか?
神を信じる者@3D小説足引っ張り組 @kamishinzya3d
訳分かんねwww楽し過ぎですわぁww
マユズミ@メリー様派 @A_Craisi
凸るなら今日か明後日になるけど…問題は今、腹いっぱいで定食屋に入る気にならないこと。
ゆゆ子。 @yuzuyoriyuyuko
おー今アタッシュケースの時の電話番号にかけたらお疲れ様これからもよろしくーっていわれたー!
羊っ子の古書店さん@閑話まとめ班 @aozikosyoten
未だ、資料用ファイルはパスが不明です。これは、ソルには関係ないかもしれません。
※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント( @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。