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山田玲司のヤングサンデー 第332号 2021/3/8

「あの日」が生んだ「呪術廻戦」の世代

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【肩が重い】



今週の放送中に突然「左の肩」が重くなった。



「単なる気のせい」かもしれないけど、生放送の最中に「何かが乗ってきた感覚」になる事がある。


あまりスピった話はしたくないので、普段は言わないのだけど「ああ、誰かが来てるな」と思う事は何度もあった。


今回取り上げた漫画は「呪術廻戦」

まさに「そういう話」の作品だった。


人には「負の感情」があり、そういったエネルギーが「呪い」になる。

そのエネルギーを使って逆に消えない「呪い」を祓い「解呪」するという話でもある。


しかも作者自身19歳で東日本大震災を体験している。


読むほどにこの作者の「誠実な思い」が伝わってくる。



それまでの世代の漫画家と明らかに違うのは「死」を覚悟して現実に向き合っているところだろう。


もちろんこの漫画には「あの日助けられなかった人達への思い」も乗っている。


「これは中途半端な気持ちでは語れないな」と思い、僕はかなり入念な準備をして放送に向かった。



【ナウシカとバトルロワイヤルの果てに】


多くの漫画やアニメが「良くない現実」について語ってきた。


近代文明は人類を破滅に導くのだ・・というやつだ。

人類の「愚かな欲望」「傲慢さ」「エゴイズム」などが世界の破滅を招いているという話。


昔は「邪悪な宇宙人」みたいな「外から来る敵」を倒すみたいな単純な話だったのが、やがて「地球を滅ぼすのは我々自身だ」みたいな複雑な話になっていく。


定番の展開として「そこに奇跡の少女が現れ地球を救う」みたいなのが続き、物語は「警鐘」で終わっていた。


やがて「バブル崩壊」や「阪神大震災」など、現実的な破滅が始まると「死にたくない」という気分が生まれ「仲間同士での生き残りゲーム」というジャンルが流行りだす。


時代が進み、東日本大震災当時の「まどか☆マギカ」や「進撃の巨人」になると「終末との対面」が描かれている。


「終りが来る」ではなく「終わりが来た」になったわけだ。


それでも政府は「いつもの強いもの」のための政治を続け、今や切り捨てられた民は限界に近づいている。


人々は「他人の不幸」を酒の肴にし、前向きな人達を冷笑し、「怪しい救世主」に救いを求めたりした。


呪いとなる「負の感情」は国中に満ちている。


そんな時代に現れたのが「呪術廻戦」だったのだ。



【僕が漫画に求めていたもの】


何度も言っているけど、漫画を読むという体験は「作者に会う」という事だ。


物語が作られたものであっても、その背後には作者が体験した「何か」があり、そのときに感じた「思い」みたいなものがある。


手塚治虫先生や水木しげる先生なら戦争体験。

富野、宮崎世代なら学生運動体験。

僕の世代でも「恋愛」や「受験」などの体験はあって、その体験からくる「生の感情」が読者の心を動かしてきた。


作者が漫画の背後で「私はあの日こう感じたんです!」と言っている漫画。


そういう漫画を僕は求めているし、そういう漫画を描こうとしてきたのだ。



【僕に乗ってきた何か】


本当に単なる「気のせい」かもしれない。


でも確実に放送中に左肩が重くなった。

開始20分あたり、岩手の魂について語っている頃だ。


バカっぽく語っていたけど、この話は「霊界が身近な東北文化についての話」で、作者の芥見下々先生がこの環境に育った事が作品に大きな豊かさを与えている、という話につなげる伏線を張っている時間だった。


それが終わり、傑作だった「呪術廻戦0巻」の話が終わると肩は軽くなった。