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私たち科学者が,みなさんの活動を見ていてもっとも不思議に思うことをひとつ挙げよと言われれば,「質問をしないこと」と答えるでしょう。今回は番外編として,質問することの重要性を考えてみたいと思います。
図1 質問することは重要です
研究の進め方と研究発表することの重要性では,とくに述べてはいませんでしたが,質問は研究活動(図2)のどこにあると思いますか?
図2 研究活動とは
大事なことは自分自身で考えることです。質問は①〜⑥のどこにあるのか,説明できますか?
クイズではありませんから,当てずっぽうに「コレだ!」ということには意味はありません。みなさんの気にする「正解」かどうか確信をもてますか?
ちょっとむずかしいかもしれませんね。では,わからないときはどうしますか?
そう。質問するのです。研究活動の①〜⑥のどこにでもわからないことはあるでしょう。ということは,質問は研究活動の①から⑥の「どれか」にあるのではなく,「すべて」にあるのです。
質問から学ぶ
わからないからこそ,学ばねばなりません。できないことをできるようにしたい,知らないことを知りたいというのが科学研究のキホンですから,質問とは研究活動のすべての部分で必要になる能力です。研究活動は6つに分類することができますが,みなさんが6つのすべてが得意ではないかもしれません。しかし,それで良いのです。ひとりで,なんでもできる必要はありません。そう。これまでのコラムで紹介してきたように,みなさんが得意ではないことを得意とする人といっしょに活動することで,みなさんは「チーム」として6つの活動すべてを行うことができるでしょう。
とは言っても,永遠にだれかをたよるというのもあまり良い方法ではないことはわかってもらえると思います。そのため,みなさんが得意ではないことも少しずつできるようになっていかねばなりません。では,どうやって?
みなさんが得意ではないことを得意としている人に学ぶのが,もっとも良さそうですね。どうやって学びますか?
図3 質問とは学び
そう。質問するのです。つまり,研究発表を聴いた人がなぜ質問するのかという最初の疑問の答えのひとつは,疑問をもち,そこから学ぼうとしているからだと言えるでしょう。これはとても重要なことですね。
しかし,ここで良く考えてほしいことがあります。それは質問は「具体的でなければならない」ということです。
質問内容をまとめよう
質問することは,とても重要です。他の人から学ぶ姿勢も,とても重要です。
しかし,質問すればいいというわけでもありません。質問する人が学ぶためには,質問される人が「答えることのできる」内容でなければならないのです。
そこで,例をつかって考えてみましょう。AさんとBくんは研究仲間です。AさんがBくんに研究について質問しました。
ケース1:質問したいことがまとまらないまま質問した
Aさん「う〜ん」
図4 モヤモヤしていることを整理しよう
Bくん「どうしたの?」
Aさん「新しい研究を始めたいのだけど,研究計画を立てるのが苦手だから,何をしたら良いのかわからないのよね。そうだ!Bくんは研究計画を立てるのが得意だったじゃない。わたしに計画を立てるコツを教えてよ」
みなさんは,この質問に答えられますか?
Bくんは,質問がボンヤリしていて答えようがないと思いました。
Bくん「計画を立てる方法といっても…いろいろだよ。観察をするのか,実験をするのか,工作をするのかによってもちがうし……」
Aさん「じゃあ,全部の場合を教えて!」
Bくん「ぜんぶって言っても,観察でも昆虫を育てるのか,植物を育てるのか,魚を育てるのかによってもちがうよ。どんなことをしたいの?」
Aさん「それがまだ決まっていないの。だから,全部の場合について教えてほしいのよ。それを聴いたらきっと自分がやりたいことが決まると思うのよね!」
Bくん「う〜ん……」
図5 何を聴きたいのかわからない質問には答えられません
どうでしょうか。これは困りましたね。Aさんは「なにが聴きたいか決まっていない」状態で質問しているので,Bくんには答えようがないことがわかりますか。
ケース2:質問したいことを良く考えて具体的な質問をした
では,Aさんの聴きたいことが「飲み物にふくまれているビタミンCの役割を知りたいという疑問で,いろいろな飲み物にふくまれるビタミンCの量を調べれば良いのではないかという仮説を立てた」上で質問している場合を考えてみましょう。
Aさん「ちょっとアイディアをかしてほしいんだけど良いかしら。わたしはいま飲み物にふくまれているビタミンCの役割を調べようと思っているの。それで,いろいろな飲み物のビタミンCの量をくらべていけば,ビタミンCの量のちがいからビタミンCの役割がわかるんじゃないかと思うんだけど,ビタミンCを調べる研究計画が思いつかないのよ。Bくんはなにかアイディアがある?」
Bくん「そうだなあ……そうだ!うがい薬にビタミンCを入れると,うがい薬の色が消えるって聴いたことあるよ。あれはどうだろう?」
Aさん「ありがとう。その方法で,ビタミンCの量をはかれるかどうか調べられるかしら?」
Bくん「インターネットで調べられるNII学術情報ナビゲータ(CiNii)を使おう。……お!ビタミンCの量をはかる方法を調べたら,良さそうな論文が見つかったよ!」
清涼飲料水と愛媛県産みかんに含まれるビタミンCの含有量の定量実験を通した酸化還元反応に関する学習
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009517861
Aさん「やったわ!この研究計画を参考にして,いろいろな飲料のビタミンCをはかっていきましょう。Bくんも手伝ってくれる?」
Bくん「ああ,いいよ。この研究はぼくも興味が出てきた。ぼくはみかんも調べたいな」
Aさん「じゃあ,私は飲み物から調べていくわ。ふたりのデータをあわせて,ビタミンCの役割を考えていきましょう!」
図6 具体的な質問から新しい研究が始まります
どうでしょうか。Aさんが「自分が聴きたいこと」を整理して,具体的に質問しているので,Bくんもいっしょに考えることができるようになります。そして,ふたりが協力することで,Aさん,Bくんだけではできなかった大きな研究ができるようになるのです。
わからないことを整理しよう
質問する人が
「自分が聴きたいこと」がまとまっていない場合(ケース1)と,
良く考えて具体的な質問した場合(ケース2)を
考えてみました。
自分が聴きたいことが整理できているかどうかで,質問された人の答えられることが大きく変わることがわかると思います。そして,質問からはコミュニケーションが生まれ,コラム「(後編)科学研究の進め方と発表の重要性」で学んだように,みなさんに新しい研究の考え方をあたえてくれます。
ここまで考えて,最初に示されたもうひとつの疑問,質問する人としない人にどんなちがいがあるかについて,答えが見えてきましたか?
質問する人・しない人
かんたんに言えば,質問をする人としない人のちがいは,みっつあります。
1 疑問をもっているかどうか
2 疑問を整理できるかどうか
3 コミュニケーションがとれるかどうか
1 疑問をもっているかどうか
発表を聴いた人が,なぜ質問をするのかといえば,発表に疑問をもっているからです。
ここで言う疑問とは,
なぜそうなるのだろう
どうやったらできるのだろう
という不思議を感じるという意味です。知的好奇心といえばわかりやすいでしょうか。
一方で,発表を聴いたときに「そうなんだ。すごいな」と納得するだけでは,疑問は生まれません。
2 疑問を整理できているかどうか
発表を聴いた人がつぎつぎと質問するとき,その人は発表についての疑問を整理して,自分が何を知りたいのかが決まっていることが多いです。つぎつぎに質問するのは,疑問を整理して順番をつけて,重要だと思う順番に質問しているからです。
一方で,発表を聴いて疑問があっても,それを整理して言葉にすることができなければ質問はできません。
3 コミュニケーションがとれるかどうか
これについては,これまでも説明してきましたから,かんたんに説明しましょう。
科学研究の発表の場にいる人は,科学が好きな人です。みなさんとおなじ好みをもっていて,おなじ言葉で語り合うことのできる人たちです。「自分の好きなことを,おなじことが好きな人と語り合うことができない」という状況の不自然さを感じなければなりません。アニメや漫画やゲームやスポーツ,音楽,芸術では,おなじ趣味の人と話すことができるのに,科学ではできないのはおかしいとは思いませんか?
ちがいはどこにある?
発表を聴いても質問がない人は,発表を自分の知識や経験とむすびつけていない,つまり「自分だったらどうするだろう」「どうしてこういったアイディアが出てきたのだろう」「この方法でどうしてわかるのだろう」と考えていないのではないでしょうか?
どうして自分の知識や経験とむすびつけられないのでしょうか。いくつか理由はあると思いますが,私が観察した結果から,私は以下の行動をする人は質問しないことに気づきました。
「話を聞いてもメモを取らない」人たちです。
私はメモを取らないことが質問できない原因ではないかと仮説を立てています。そこで,どうしてメモを取らないと質問できないのか?について考えてみましょう。
なぜメモを取るのか?
質問しない人はみな「話をききながら,疑問や重要な点をメモに取る」ことができないため,話の内容を整理できていないようです。一方で,みなさんは授業を受けているとき先生の話や板書をノートに書き写しています。授業のときには先生の話をききながら板書を書き写すことができるのに,どうして発表を聞いたときには何もメモをとらないのでしょうか?
メモは取らなくてもわかるから?そうでしょうか?
では,みなさんが授業で板書を書き写すことを例に,メモを取る理由を考えてみましょう。ちょうど良いので,今度はみなさんが質問を受けるとき,解答者としてのみなさんについても考えてみましょう。何ごとも経験するのが一番です。私から,みなさんに質問です。
質問1「なぜみなさんは先生の話や板書をノートに書き写すのですか?」
なぜそうなるのかというのが科学における疑問です。行動を観察し,疑問をもたなければなりません。みなさんの解答はどんなものでしょうか。
勉強ができるようになるため?
テストで良い点をとるため?
では,つぎの質問です。
質問2「なぜ話や板書を書き写すと,勉強ができるようになる,もしくはテストで良い点がとれるのですか?」
質問3「板書を写さなくても,成績を上げる方法はあるでしょう。どうして他の方法をつかわず,話や板書を写すのですか?」
どうでしょうか。質問に解答するときには,質問される内容について,より深く理解していなければなりません。しかし,この質問は,みなさんにとって「よく知っている」ことですから,かんたんに答えられるはずです。
みなさんにとって先生の話や板書をノートに書き写す理由はなんでしょうか?
意味もなくノートを取る人はいません。かならず理由があるはずです。そして,その理由はテストで良い点をとるためという表面的な理由ではなく,もっと重要な理由があるはずです。
おそらくみなさんが先生の話や板書をノートに書き写すのは,それが勉強の重要な点を理解して整理するのに重要だからではありませんか?
最後の質問です。
質問4「みなさんが授業を受けているときに,先生の話や板書をノートに書き写すのは,みなさんが先生の話や板書で重要だと思うことをノートに書いて整理して,わからないことを勉強するためではありませんか?」
質問5「そうした勉強方法をすることで,みなさんは学習する内容をよく理解する(原因)ことができ,その結果として勉強ができるようになったり,テストで良い点数をとったりすることができる(結果)のではありませんか?」※原因と結果の関係が重要です。
質問6「だからこそ,みなさんが学校をお休みしたときや勉強がわからないとき,みなさんは他の人のノートを見せてもらうのではありませんか?」
どうですか。みなさんは,質問1〜6にみなさん自身の答えを出すことができたでしょうか?
そして,メモを取る理由がわかったでしょうか?
みなさんが授業の内容をよく理解しようとしているのとおなじことを,他の人の発表を聞くときにもするべきではありませんか?
質問と解答は学びの場
質問する人としない人のちがいをかんたんにまとめると,このようになるでしょう。
図7 質問する人・しない人
疑問や大事な点をメモし,疑問を整理して,自分の知識や経験との結びつきを考えているかどうか
自分とのつながりを考えず,発表を「へぇー」「すごいなー」と聞き流していては当然質問などできません。相手の話を理解できないので,どんなにすばらしい発表を聞いても「声が出ていてよく聞こえました」とか「わかりやすかったです」「ポスターがきれいでした」というような意味のない,ほめ言葉しか出てきません。
だれかの話を聞いたとき,なにより重要なことはコミュニケーションを通して理解を深めることです。アイディアがあたまの中にあるうちは,モヤモヤとしたあいまいなものでも違和感はありません。しかし,それを言葉にしたり,文章でまとめるためには,だれにでもわかるように内容を整理しなければなりません。疑問を整理することは,みなさん自身が学ぶために必要なことです。みなさんが授業のノートを見ながら復習をするように,メモを取り科学についての疑問を整理することで,みなさんは科学をより深く理解することができます。そのためのもっとも実戦的な学びが,研究発表であり,発表への質問と解答なのです。
図8 質問をしよう
学びに対して自覚的になり,他人の話を自分自身の知識と経験にむすびつけて考えるためには,話をききながらメモを取ることが必要です。話を聞き終わった後には忘れてしまう,疑問やアイディアがかならずあります。質問とは,そうしたフッと思い浮かぶ疑問やアイディアをつかまえて形にするための練習なのです。
おなじ時間をどう使うのかの問題です。話を聞き流してすごすのか,興味と関心をもって自分自身の力とするのかはみなさん次第です。
むずかしかった?
わからなかった?
そういうこともあるでしょう。しかし,
「なに」がむずかしかったのですか?
「どこが」わからなかったのですか?
それが質問になるでしょう。疑問を整理することが必要です。むずかしいから,わからないから質問しない・できないというのは結局のところ言い訳にすぎません。みなさんがやる気かそうでないかだけが問題なのです。
いまからでもできることをやってみるのが重要です。
図1 質問することは重要です
みなさんは研究発表を聴いた人がなぜ質問すると思いますか?
質問する人としない人にどんなちがいがあると思いますか?
質問する人としない人にどんなちがいがあると思いますか?
研究の進め方と研究発表することの重要性では,とくに述べてはいませんでしたが,質問は研究活動(図2)のどこにあると思いますか?
図2 研究活動とは
大事なことは自分自身で考えることです。質問は①〜⑥のどこにあるのか,説明できますか?
クイズではありませんから,当てずっぽうに「コレだ!」ということには意味はありません。みなさんの気にする「正解」かどうか確信をもてますか?
ちょっとむずかしいかもしれませんね。では,わからないときはどうしますか?
そう。質問するのです。研究活動の①〜⑥のどこにでもわからないことはあるでしょう。ということは,質問は研究活動の①から⑥の「どれか」にあるのではなく,「すべて」にあるのです。
質問から学ぶ
わからないからこそ,学ばねばなりません。できないことをできるようにしたい,知らないことを知りたいというのが科学研究のキホンですから,質問とは研究活動のすべての部分で必要になる能力です。研究活動は6つに分類することができますが,みなさんが6つのすべてが得意ではないかもしれません。しかし,それで良いのです。ひとりで,なんでもできる必要はありません。そう。これまでのコラムで紹介してきたように,みなさんが得意ではないことを得意とする人といっしょに活動することで,みなさんは「チーム」として6つの活動すべてを行うことができるでしょう。
とは言っても,永遠にだれかをたよるというのもあまり良い方法ではないことはわかってもらえると思います。そのため,みなさんが得意ではないことも少しずつできるようになっていかねばなりません。では,どうやって?
みなさんが得意ではないことを得意としている人に学ぶのが,もっとも良さそうですね。どうやって学びますか?
図3 質問とは学び
そう。質問するのです。つまり,研究発表を聴いた人がなぜ質問するのかという最初の疑問の答えのひとつは,疑問をもち,そこから学ぼうとしているからだと言えるでしょう。これはとても重要なことですね。
しかし,ここで良く考えてほしいことがあります。それは質問は「具体的でなければならない」ということです。
質問内容をまとめよう
質問することは,とても重要です。他の人から学ぶ姿勢も,とても重要です。
しかし,質問すればいいというわけでもありません。質問する人が学ぶためには,質問される人が「答えることのできる」内容でなければならないのです。
そこで,例をつかって考えてみましょう。AさんとBくんは研究仲間です。AさんがBくんに研究について質問しました。
ケース1:質問したいことがまとまらないまま質問した
Aさん「う〜ん」
図4 モヤモヤしていることを整理しよう
Bくん「どうしたの?」
Aさん「新しい研究を始めたいのだけど,研究計画を立てるのが苦手だから,何をしたら良いのかわからないのよね。そうだ!Bくんは研究計画を立てるのが得意だったじゃない。わたしに計画を立てるコツを教えてよ」
みなさんは,この質問に答えられますか?
Bくんは,質問がボンヤリしていて答えようがないと思いました。
Bくん「計画を立てる方法といっても…いろいろだよ。観察をするのか,実験をするのか,工作をするのかによってもちがうし……」
Aさん「じゃあ,全部の場合を教えて!」
Bくん「ぜんぶって言っても,観察でも昆虫を育てるのか,植物を育てるのか,魚を育てるのかによってもちがうよ。どんなことをしたいの?」
Aさん「それがまだ決まっていないの。だから,全部の場合について教えてほしいのよ。それを聴いたらきっと自分がやりたいことが決まると思うのよね!」
Bくん「う〜ん……」
図5 何を聴きたいのかわからない質問には答えられません
どうでしょうか。これは困りましたね。Aさんは「なにが聴きたいか決まっていない」状態で質問しているので,Bくんには答えようがないことがわかりますか。
ケース2:質問したいことを良く考えて具体的な質問をした
では,Aさんの聴きたいことが「飲み物にふくまれているビタミンCの役割を知りたいという疑問で,いろいろな飲み物にふくまれるビタミンCの量を調べれば良いのではないかという仮説を立てた」上で質問している場合を考えてみましょう。
Aさん「ちょっとアイディアをかしてほしいんだけど良いかしら。わたしはいま飲み物にふくまれているビタミンCの役割を調べようと思っているの。それで,いろいろな飲み物のビタミンCの量をくらべていけば,ビタミンCの量のちがいからビタミンCの役割がわかるんじゃないかと思うんだけど,ビタミンCを調べる研究計画が思いつかないのよ。Bくんはなにかアイディアがある?」
Bくん「そうだなあ……そうだ!うがい薬にビタミンCを入れると,うがい薬の色が消えるって聴いたことあるよ。あれはどうだろう?」
Aさん「ありがとう。その方法で,ビタミンCの量をはかれるかどうか調べられるかしら?」
Bくん「インターネットで調べられるNII学術情報ナビゲータ(CiNii)を使おう。……お!ビタミンCの量をはかる方法を調べたら,良さそうな論文が見つかったよ!」
清涼飲料水と愛媛県産みかんに含まれるビタミンCの含有量の定量実験を通した酸化還元反応に関する学習
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009517861
Aさん「やったわ!この研究計画を参考にして,いろいろな飲料のビタミンCをはかっていきましょう。Bくんも手伝ってくれる?」
Bくん「ああ,いいよ。この研究はぼくも興味が出てきた。ぼくはみかんも調べたいな」
Aさん「じゃあ,私は飲み物から調べていくわ。ふたりのデータをあわせて,ビタミンCの役割を考えていきましょう!」
図6 具体的な質問から新しい研究が始まります
どうでしょうか。Aさんが「自分が聴きたいこと」を整理して,具体的に質問しているので,Bくんもいっしょに考えることができるようになります。そして,ふたりが協力することで,Aさん,Bくんだけではできなかった大きな研究ができるようになるのです。
わからないことを整理しよう
質問する人が
「自分が聴きたいこと」がまとまっていない場合(ケース1)と,
良く考えて具体的な質問した場合(ケース2)を
考えてみました。
自分が聴きたいことが整理できているかどうかで,質問された人の答えられることが大きく変わることがわかると思います。そして,質問からはコミュニケーションが生まれ,コラム「(後編)科学研究の進め方と発表の重要性」で学んだように,みなさんに新しい研究の考え方をあたえてくれます。
ここまで考えて,最初に示されたもうひとつの疑問,質問する人としない人にどんなちがいがあるかについて,答えが見えてきましたか?
質問する人・しない人
かんたんに言えば,質問をする人としない人のちがいは,みっつあります。
1 疑問をもっているかどうか
2 疑問を整理できるかどうか
3 コミュニケーションがとれるかどうか
1 疑問をもっているかどうか
発表を聴いた人が,なぜ質問をするのかといえば,発表に疑問をもっているからです。
ここで言う疑問とは,
なぜそうなるのだろう
どうやったらできるのだろう
という不思議を感じるという意味です。知的好奇心といえばわかりやすいでしょうか。
一方で,発表を聴いたときに「そうなんだ。すごいな」と納得するだけでは,疑問は生まれません。
2 疑問を整理できているかどうか
発表を聴いた人がつぎつぎと質問するとき,その人は発表についての疑問を整理して,自分が何を知りたいのかが決まっていることが多いです。つぎつぎに質問するのは,疑問を整理して順番をつけて,重要だと思う順番に質問しているからです。
一方で,発表を聴いて疑問があっても,それを整理して言葉にすることができなければ質問はできません。
3 コミュニケーションがとれるかどうか
これについては,これまでも説明してきましたから,かんたんに説明しましょう。
科学研究の発表の場にいる人は,科学が好きな人です。みなさんとおなじ好みをもっていて,おなじ言葉で語り合うことのできる人たちです。「自分の好きなことを,おなじことが好きな人と語り合うことができない」という状況の不自然さを感じなければなりません。アニメや漫画やゲームやスポーツ,音楽,芸術では,おなじ趣味の人と話すことができるのに,科学ではできないのはおかしいとは思いませんか?
ちがいはどこにある?
発表を聴いても質問がない人は,発表を自分の知識や経験とむすびつけていない,つまり「自分だったらどうするだろう」「どうしてこういったアイディアが出てきたのだろう」「この方法でどうしてわかるのだろう」と考えていないのではないでしょうか?
どうして自分の知識や経験とむすびつけられないのでしょうか。いくつか理由はあると思いますが,私が観察した結果から,私は以下の行動をする人は質問しないことに気づきました。
「話を聞いてもメモを取らない」人たちです。
私はメモを取らないことが質問できない原因ではないかと仮説を立てています。そこで,どうしてメモを取らないと質問できないのか?について考えてみましょう。
なぜメモを取るのか?
質問しない人はみな「話をききながら,疑問や重要な点をメモに取る」ことができないため,話の内容を整理できていないようです。一方で,みなさんは授業を受けているとき先生の話や板書をノートに書き写しています。授業のときには先生の話をききながら板書を書き写すことができるのに,どうして発表を聞いたときには何もメモをとらないのでしょうか?
メモは取らなくてもわかるから?そうでしょうか?
では,みなさんが授業で板書を書き写すことを例に,メモを取る理由を考えてみましょう。ちょうど良いので,今度はみなさんが質問を受けるとき,解答者としてのみなさんについても考えてみましょう。何ごとも経験するのが一番です。私から,みなさんに質問です。
質問1「なぜみなさんは先生の話や板書をノートに書き写すのですか?」
なぜそうなるのかというのが科学における疑問です。行動を観察し,疑問をもたなければなりません。みなさんの解答はどんなものでしょうか。
勉強ができるようになるため?
テストで良い点をとるため?
では,つぎの質問です。
質問2「なぜ話や板書を書き写すと,勉強ができるようになる,もしくはテストで良い点がとれるのですか?」
質問3「板書を写さなくても,成績を上げる方法はあるでしょう。どうして他の方法をつかわず,話や板書を写すのですか?」
どうでしょうか。質問に解答するときには,質問される内容について,より深く理解していなければなりません。しかし,この質問は,みなさんにとって「よく知っている」ことですから,かんたんに答えられるはずです。
みなさんにとって先生の話や板書をノートに書き写す理由はなんでしょうか?
意味もなくノートを取る人はいません。かならず理由があるはずです。そして,その理由はテストで良い点をとるためという表面的な理由ではなく,もっと重要な理由があるはずです。
おそらくみなさんが先生の話や板書をノートに書き写すのは,それが勉強の重要な点を理解して整理するのに重要だからではありませんか?
最後の質問です。
質問4「みなさんが授業を受けているときに,先生の話や板書をノートに書き写すのは,みなさんが先生の話や板書で重要だと思うことをノートに書いて整理して,わからないことを勉強するためではありませんか?」
質問5「そうした勉強方法をすることで,みなさんは学習する内容をよく理解する(原因)ことができ,その結果として勉強ができるようになったり,テストで良い点数をとったりすることができる(結果)のではありませんか?」※原因と結果の関係が重要です。
質問6「だからこそ,みなさんが学校をお休みしたときや勉強がわからないとき,みなさんは他の人のノートを見せてもらうのではありませんか?」
どうですか。みなさんは,質問1〜6にみなさん自身の答えを出すことができたでしょうか?
そして,メモを取る理由がわかったでしょうか?
みなさんが授業の内容をよく理解しようとしているのとおなじことを,他の人の発表を聞くときにもするべきではありませんか?
質問と解答は学びの場
質問する人としない人のちがいをかんたんにまとめると,このようになるでしょう。
図7 質問する人・しない人
疑問や大事な点をメモし,疑問を整理して,自分の知識や経験との結びつきを考えているかどうか
自分とのつながりを考えず,発表を「へぇー」「すごいなー」と聞き流していては当然質問などできません。相手の話を理解できないので,どんなにすばらしい発表を聞いても「声が出ていてよく聞こえました」とか「わかりやすかったです」「ポスターがきれいでした」というような意味のない,ほめ言葉しか出てきません。
だれかの話を聞いたとき,なにより重要なことはコミュニケーションを通して理解を深めることです。アイディアがあたまの中にあるうちは,モヤモヤとしたあいまいなものでも違和感はありません。しかし,それを言葉にしたり,文章でまとめるためには,だれにでもわかるように内容を整理しなければなりません。疑問を整理することは,みなさん自身が学ぶために必要なことです。みなさんが授業のノートを見ながら復習をするように,メモを取り科学についての疑問を整理することで,みなさんは科学をより深く理解することができます。そのためのもっとも実戦的な学びが,研究発表であり,発表への質問と解答なのです。
図8 質問をしよう
学びに対して自覚的になり,他人の話を自分自身の知識と経験にむすびつけて考えるためには,話をききながらメモを取ることが必要です。話を聞き終わった後には忘れてしまう,疑問やアイディアがかならずあります。質問とは,そうしたフッと思い浮かぶ疑問やアイディアをつかまえて形にするための練習なのです。
おなじ時間をどう使うのかの問題です。話を聞き流してすごすのか,興味と関心をもって自分自身の力とするのかはみなさん次第です。
むずかしかった?
わからなかった?
そういうこともあるでしょう。しかし,
「なに」がむずかしかったのですか?
「どこが」わからなかったのですか?
それが質問になるでしょう。疑問を整理することが必要です。むずかしいから,わからないから質問しない・できないというのは結局のところ言い訳にすぎません。みなさんがやる気かそうでないかだけが問題なのです。
いまからでもできることをやってみるのが重要です。