めるまがアゴラちゃんねる
2013年4月第1週号
めるまがアゴラちゃんねる、第036号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。
コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(46)
【特別篇】米世界最大のゲームカンファレンスが示すゲーム産業の未来
・ニコニコ生放送「アゴラチャンネル」のご報告
改革の本丸は労働市場改革だが--城・池田対談
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特別寄稿:
新 清士
ゲーム・ジャーナリスト
ゲーム産業の興亡(46)【特別篇】米世界最大のゲームカンファレンスが示すゲーム産業の未来
世界最大のゲーム開発者向けカンファレンス「Game Develops Conference(GDC、ゲーム開発者会議)」が、米サンフランシスコで3月25〜29日に開催されました。450以上の講演やパネルディスカッション、開発ツールの展示会、ビジネスマッチングなど2万5000人あまりの参加者がある大きなイベントです。
世界的なゲーム産業の動向がつかめる場として、毎年の注目度が上がってきています。今回は特別篇として、そこから見えてくる最新の世界的なゲーム産業の様子を、3つの要素に分けて、お伝えしたいと思います。
■(1)家庭用ゲーム機産業の回復の可能性は低い。しかし、モバイル市場の成長にも短期的には限界がある
すでに、何度も家庭用ゲーム機が苦戦すると予測できることはこの連載の中で、繰り返し言及してきている。ただ、一方で、スマートフォンを中心としたモバイルのゲーム産業の市場規模も急成長の可能性も、厳しいと考えられる状況が見えてきた。家庭用ゲーム機市場の縮小を吸収できるほどの規模になる可能性は短期的にはなさそうだ。
実際に、11年に大ヒットをした、「コール・オブ・デューティ:モダンウォーフェア2」(アクティビジョン)の売り上げは、1億1500万ドルに達したのに対して、スマートフォン向けに最も成功している「アングリーバード」(Rovio Entertainment)の売り上げは11年は500万ドルに過ぎない。もちろん、同社は広告収入やマーチャンダイズモデルをとっているので、簡単には比較できないが、それでも大型タイトルと収益には大きな差があることは明白だ。
今年のGDCは聞いたこともないスタートアップのベンチャー企業の講演が多かった。これらの企業はまとめて「インディ開発者(独立系開発会社)」と呼ばれる。一人から数十人程度の小さなゲームスタジオで、大半がモバイルゲームで成功する可能性を探っている。また、ほとんどのゲームがF2P(無料でゲームを遊ぶことができ、アイテム課金で収益を上げるモデル)を採用している。これらの企業には、二つの傾向がある。
1. 若い開発者を中心に新規ゲーム開発者として参入しているケース。特に、日本と大きく違うのが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が、アメリカのインディ企業を積極的に支援している点だ。
今年のアワード「Game Developers Choice Award」で、インディゲーム企業が開発したPS3向けのダウンロードタイトル「Journey(風ノ旅ビト)」(thatsgamecompany)が数十億円の開発費がかかる大型タイトルを押しのけ、アワードの各部門を独占した。この企業は元々、南カルフォルニア大学のゲームコースの卒業生が06年に設立したベンチャー企業で、スタッフは20名。最近、ベンチャーキャピタルの資本が入った。
このアワードは、数年前から、日本のゲームが受賞することが難しくなっているが、今度は大型タイトルのノミネートや受賞が難しくなりつつある。インディ開発者にゲーム市場の中心がシフトし始めている変化が鮮明に出ていた。
2. 元々大手ゲーム会社に勤めていたが、家庭用ゲーム機市場の縮小により、家庭用の数十億円かかるような大型ゲームの開発スタジオを解雇されたスタッフが、新規に参入しているケース。特に、ベテラン開発者に多い。技術力のある開発者が多く、優れたゲームを開発する一方で、経験のなさから来るマーケティングの能力の低さから、販売面では苦戦している印象が強い。
多くのインディ会社では、アップルのApp Storeや、グーグルのGoogle Playなどで販売される数万本という大量にあふれかえるモバイルゲーム市場の中で、飲み込まれる傾向が強く、しっかりとした収益を出せている企業は少ないと考えられる。そのため、一時的なブームで終わる可能性もある。早晩、企業体力には、差が出てくると思われるため、有力な企業に集約化される傾向が出てくるかもしれない。
■(2)日本のカードバトルへの関心は高いものの、DeNAの「神撃のバハムート(Rage of Bahamas)」」などの日本のゲームへの評価はやはり低い
DeNAの比較的北米でも遊ばれている「ブラッドブラザーズ」についての講演が行われたが、席にはかなり余裕があり、北米開発者の関心の低さが改めて認識できた。欧米圏の作り込んだゲーム性を持ったソーシャルゲームの講演はゲームには高い関心が払われていたのと対照的だ。
カードバトルゲームのカードは豪華なグラフィックスであるものの、子供が遊ぶチープなものと考えられている傾向があるようだ。
ただし、DeNAの東京本社で、北米市場向けゲームの開発経験のある家庭用ゲーム機向けの経験のあるスタッフが中心に開発した「ブラッドブラザーズ」は一定の評価を獲得している。このゲームも、ガチャシステムがメインの収益源になっているが、ガチャを「契約」と言い直し、日本風のカードバトルよりも、ゲームのRPG的要素を強調し、ユーザーのゲーム中の選択肢を増やして、単なるカードバトルゲームの印象を変える戦略をとっている。
また、このゲームは世界33カ国に提供しているものの、特にGoogle Playの市場は、欧州などの市場規模が驚くほど小さいことをうまく利用していると思われる。多額の広告宣伝費を投入して、世界各国のGoogle Playのランキングのトップをとっていると考えられるためだ。その上で、「世界でNo.1」というキャッチコピーを得て、大きなプロモーション効果を生み出す好循環を作れているようだ。一方で、グリーは、こうした循環を作ることに、完全に失敗している。
さらに、DeNAが、今後の世界市場での収益の増加を見込める要因は、スマートフォンの世界的な急激な普及が織り込まれていると考えられる。日本以上に世界全体での普及ペースは爆発的で。DeNAは現在のユーザー一人あたりの月の売り上げを維持することができれば、市場拡大の恩恵を自然に受けることができる。これらが、同社の決算で、今後、海外市場で順調に売り上げを伸ばしていけると予測している根拠の一つになっていると考えられる。
ただ、欧米の開発者には本当に収益が出ているのか、相変わらず懐疑的な指摘はあった。また、繰り返し多くの人に聞いたが、DeNAの成功の要因は「わからない」と答える人は、メディアも含め多かった。
ただ、アメリカのユーザーもバスの移動などの5分あまりの短い時間に遊んでいることが明らかにされたデータもあった。1回のプレイ時間が5分というゲームシステムが、欧米圏でもフィットした側面はあるようだ。
それでも、課題はある。カードバトルゲームを継続的に遊ぶユーザーの数は、30日間後に継続的に遊び続けいるユーザー数は20%と、全体のゲームジャンルの中では最低であるためだ。DeNAは日本で行っている同様の戦略で、広告宣伝をかけることで、ユーザーが短期で離れることを前提に、まずは多くのユーザーの獲得を重視し、一部の高額課金をするユーザーを生み出す戦略をとっていると考えるのが自然であろう。
同時に、アメリカで人気を獲得しているモバイル向けのヒットしているゲームでも、収益化の方法の一つとして、ガチャシステムを導入するゲームが登場し始めている。この動きは、今後広がると思われる。
■(3)アメリカはギャンブル的に向かい、日本ではパチンコ的な刺激が成長を促した
アメリカのソーシャルゲームでは「ギャンブルゲーム」がブームになっている。もちろん、リアルに現金をかけるものではない。米ジンガは実際にオンラインカジノの権利を取得するために動いているが、一般的なソーシャルゲームでは、その傾向は弱い。ヒットしているゲームは「カード」「ビンゴ」「スロット」など、日本からみるとあまりに素朴に感じる定番ゲームだ。これらのゲームを遊んでいるユーザーは中心が40代女性というモデルも変わっていない。また、欧米のソーシャルゲーム会社で、一般的な戦略であるアイデアコピー合戦になっている。
ただ、このトレンドから見えてくることがある。アメリカのソーシャルゲーム会社は、ギャンブル的なゲーム内容にシフトすることで収益性を高めようとしている。これらのゲームが日本でヒットする可能はほぼゼロに近い。
一方で、5年あまりで、日本の3000億円に急成長したソーシャルゲーム市場は、北米からは異様に見える。多くの企業は日本市場への参入のチャンスはないとみているが、「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンラインエンターテインメント)は、一定の理解を受けていた。それは、単純にボタンを押しているだけのカードバトルゲームとは違い、若干でも、パズルを解いているというユーザーによるインタラクション性を感じさせるためのようだ。こうした要素が、海外でも人気を得るための重要な要素になってくるかもしれない。
一方で、私が確信したことがある。日本のソーシャルゲームは「パチンコ」や「競馬」「競艇」といったギャンブルのユーザーを奪っていると思えることだ。日本ではこうした刺激に慣れているユーザーが多数存在している。
日本のパチンコユーザーの1ヶ月あたりの使用金額は7万円程度だが、それはソーシャルゲームユーザーの月に数万円を支払う上位数%の高額課金のユーザーと比べると、相対的に安い。現金化できる可能性がないにしても同じような刺激を得られれば、満足するユーザーが、特に若年層に多数存在していると考えられる。そのため、同じようなギャンブルゲームでも、日米では性質が相当違っている。
■まとめとして―ゲーム市場はハイエンドとモバイルにさらに分かれる
アメリカの市場は、既存の大型タイトルのハイエンド市場と、インディ開発者を中心としたモバイルゲームへと、明確に分かれつつある。しかし、ハイエンド市場の市場規模が大きく回復する可能性は低く、PS4やXbox360の後継機は苦戦することは避けられないと思える。一方で、インディ企業の収益面での苦戦も続くだろう。
ただ、最後に付け加えるならば、GDCの期間中に接触したインキュベーターは、インディ開発者に投資するケースが水面下で活発なようだ、モバイルのアプリ市場は、競争が激しいが、「アングリーバード」のような偶発的な大ヒットの可能性を考える投資家は存在しているようだ。インディ開発者のドレンドは日本とは大きく違っているが、似たような現象は、アジア圏でも、今後起きてくるのではないかと思われる。
※今週はGDCに関する投稿をアゴラに多く投稿しています。そちらも合わせて参照いただければ幸いです。
世界最大のゲームカンファレンス「GDC2013」開催〜独立系開発者の時代に
http://agora-web.jp/archives/1526189.html
世界を旅する「ノマドワーカー」が作った生命のゲーム
http://agora-web.jp/archives/1526417.html
ユーザーの「クラウドソーシング」の力で10年かけて開発されたゲーム
http://agora-web.jp/archives/1526571.html
多様な広がりを見せるゲーム開発の世界
http://agora-web.jp/archives/1526825.html
SFが生み出す未来・伝説的プログラマが目指す仮想現実
http://agora-web.jp/archives/1526922.html
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
ニコニコ生放送「アゴラチャンネル」のご報告
アゴラのニコニコチャンネル「アゴラチャンネル」毎週金曜日、夜21時より、池田信夫が司会を務め、ゲストをお招きして生放送中です。http://ch.nicovideo.jp/agora
前回、間違って今週分のも掲載してしまいました。申し訳ございませんが再掲します。
●改革の本丸は労働市場改革だが--城・池田対談
3月22日は人事コンサルタントの城繁幸氏を招き、池田信夫アゴラ研究所所長と「改革の本丸は労働市場だ」を行った。
約1500人の視聴、700人以上のタイムシフト予約があり、視聴者アンケートでは85%の8割の人が、「とてもよかった」「よかった」と回答。「労働規制改革を行うべきと考えますか」質問に、93%の人が「改革するべきだ」と回答した。しかし、改革は遅々として進まない。
◆タテ社会をヨコに動ける変化を
城氏は企業の人事部勤務の後で、独立して人事コンサルタントとして活動。「さまざまな規制、正社員を増やそうとし続ける労働政策が、日本の労働市場をゆがめてきた」と先駆的に指摘してきた。問題意識は池田氏も同じだ。「文化的に内向きになりがちな『たこつぼ化』を日本のどの組織も進めてしまう。それに加えて、一度会社の社員ではなくなると年金や社会保険などで、さまざまな不利が存在する。『タテ社会をヨコに動ける』変化が必要」と同意した。
会社が長期雇用を保証する一方、将来の利益と生活の安定を求めて社員は猛烈に働く。このような労使関係が、大企業では採用されてきた。ところが、もはや企業の先行きには不透明感がただよう。城氏によれば、安定を求めるようになった大学生は4、5年前には終身雇用の良い会社として、電力会社や電機メーカーに注目していた。ところが現状を見れば、これらの 会社は業績の低迷に直面して大混乱中だ。誰も先行きは分からない。
おそらく今問題になっている「ブラック企業」や追い出し部屋の問題、さらに終身雇用の企業で人々が会社を嫌いながら務める問題も、自由に動けないという労働市場の問題に関わるのではないかという。
こうした状況の変化のためか、解雇規制を含んだ労働市場の見直しについて、政府の産業競争力会議で議論が始まった。さらに社会の雰囲気も変わったという。数年前までは城氏や池田氏が解雇規制を取り上げると、感情的な反発があり、中には脅迫めいたものもあった。しかし今では反発が少ない。日本経済の深刻さを誰もが理解しているためだろう。「自由に動けることは特に今からキャリアをつくらなければならない若者にとって、必要なことだ」と城氏は強調した。
◆公的年金維持という大問題
しかし、解雇が、自由になるだけでは、それが涵養されることになりかねない。「残業には対価を払う、解雇の場合には対価を払うなど規制を整備することが必要」と話す。
池田氏は、元小泉改革の担い手だった竹中平蔵氏と、2月のG1サミットで雇用問題を議論した。アメリカ型のドライな解雇を認めるのは日本の国情に合わないと2人は一致。企業よりも、労働者を守る制度がしっかりした北欧型の労働市場をつくるべきではないだろうかと、話し合ったという。「企業に正社員のコストを負担させ、その中に入れない人や中小企業には冷たい、今の制度を見直した方が、企業にとっても幸せだ」と、池田氏は指摘した。
しかし城氏は厚労省がなかなか変わらないだろうと指摘した。少子高齢化の進行で将来の維持の難しい公的年金制度を維持するため、保険料を集めやすい現行の正社員を重視する制度に厚労省は固執しているという。「労働市場改革は始まったばかり。大きな関連する問題を一つひとつ解決しなければならない困難な先行きが待っている」と、城氏はまとめた。
アゴラチャンネルは今回の対談のように、テレビメディアでは流れない、本音の情報を取り上げていく。
(アゴラ編集部)
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