めるまがアゴラちゃんねる、第035号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(45)
ハードウェア性能の上昇が引き起こしたゲーム生産性の低下


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特別寄稿:

新 清士
ゲーム・ジャーナリスト

ゲーム産業の興亡(45)
ハードウェア性能の上昇が引き起こしたゲーム生産性の低下

少し先走るが、ゲームにとっての生産性の問題に触れておきたい。プレイステーション(PS)から、プレイステーショ2(PS2)へと変わりゆく時代で、開発スタッフがどんどんと増加していった時代の話だ。90年代は、家庭用ゲーム機にとって、様々なゲームジャンルが生まれ出た黄金期であったことは間違いない。それは、ゲームセンター用の筐体ゲーム機も同様で、日本のゲーム業界は極めて活発に新しいジャンルを切り開いていった。

しかし、83年のスーパーファミコンの登場から、94年のプレイステーションの登場によって、ゲーム業界は一定の方向性がイノベーションの方向が規定された。もっとグラフィックスを豪華に、もっとデータ量を増やしていく。
それらを実現することができることと、ゲームはユーザーの満足度と同じであるという想定だ。それは事実として、当時のユーザーも支持した。「ファイナルファンタジーⅦ」の世界的な成功は、それを後押し、基本的な考え方として、現在まで続いている面がある。

■ゲームの豪華さを競う軍拡競争の時代へ

PSからPS2への時代に、ハードウェアは、ムーアの法則によってユーザーの手元では、ますます高性能のものへと変化していった。そのため、最先端技術を取り込むことに多くの企業が力を入れた。それは、持続的なイノベーションとなり、どんどんと加速化していくことになる。
そして、生産性が低下し、コストとのバランスがとれなくなる壁にぶつかるまで、継続されてきた。生産性は、同じプログラムやグラフィックスの利用度の頻度とも言い換えることができるし、開発費に対する収益性と言い換えることもできる。どんどんと、それが低下していったのだ。それは00年代以降のPS2の時代にはより顕著になり、完全な限界は、05年以降のプレイステーション3、Xbox360世代のさらなるハイエンドな映像表現を行うゲームの登場によって明快になる。
今では、果てのない「軍拡競争」とまで言われるようになっている。

05年に行われた「Game Developers Conference(ゲーム開発者会議)」の講演に、この状況を示す興味深い講演が行われている。ゲームデザイナーのBrian Allgeier氏の講演だ。このなかで、いかにゲーム開発に関わるスタッフの人数が増加していったのかがテーマとなっている。

■どんどんとハード性能が高まるにつれて変化するゲーム開発者の人数

Allgeier氏が初めて関わったゲームは、93年にCD-ROMにインタラクティブ性を持たせた再生機のCD-I向けの「Hanna Barbera's Cartoon Carnival 」(日本未発売)というゲームだ。このチームの構成は、わずか基本チームは4名
・ゲームデザイナー 1名
・プログラマー 2名
・アーティスト 1名
それに、音楽、テクノロジーサポート、連絡係が2名と一時的に関わるスタッフで構成されていた。

それが、98年のPS向けの「The Running Wild」(日本未発売)では7名
・ゲームデザイナー 1名
・プログラマー 3名
・アーティスト 3名

さらに、00年のPS向け「Spyro 3」では20名。
・ゲームデザイナー 3名
・プログラマー 4名
・アーティスト 10名
・CEO 1名、サウンドデザイナー 1名、ITスタッフ 1名

それが、00年以降のPS2の世代になると跳ね上がり始める。この時代には、ゲームの開発費を占める割合が人件費中心へと変わり始める。

■増え続けるPS2世代の開発スタッフ

PS2向けのゲームに同氏が初めて関わった02年の「ラチェット&クランク」では38名。
・ゲームデザイナー 3名
・プログラマー 9名
・アーティスト 22名
・CEO 1名、サウンドデザイナー 1名、ITスタッフ 1名

03年の「ラチェット&クランク2」では70名。
・ゲームデザイナー 5名
・プログラマー 23名
・アーティスト 33名
・CEO 1名、サウンドデザイナー 2名、QA(品質管理部門)6名

Allgeier氏は講演の結論として「未来はモンスターに満ちあふれている問題」と述べている。マルチプレイヤー機能の追加、ハイパーリアリスティックな映像表現、ユーザーによるキャラクターのカスタマイズ機能、1画面に表現できる情報量を増やしていくこと……。そして、これらを止めるための結論を提案できていなかった。

■関わっているスタッフの人数をもはや数えることは難しい

実際に、PS3以後の世代になると、さらなる軍拡競争は続き続けた。Allgeier氏は現在では「Fuse」(PS3、Xbox360)という大規模プロジェクトに関わっている。

筆者は、11年に発売されたニューヨークを部隊にエイリアンと戦う豪華な映像を売りにしていた「クライシス2」(発売エレクトロニックアーツ、開発クライテック、PS3、Xbox360、PC向け)というゲームの開発者のクレジットをカウントし続けたことがあるが、150人ぐらいに達したところで、断念した。

事実、ゲームはモンスターが満ちあふれる方向に進んでいる。これは、ゲームの生産性を低下させていく要因になる。多様なジャンルのゲームの出現を難しくし、シリーズもの以外のゲームの登場を不可能にする。家庭用ゲームの性能の発達は、PSの登場から10年あまり後に、限界に直面することになるのだ。


□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin




ニコニコ生放送「アゴラチャンネル」のご報告

アゴラのニコニコチャンネル「アゴラチャンネル」毎週金曜日、夜21時より、池田信夫が司会を務め、ゲストをお招きして生放送中です。http://ch.nicovideo.jp/agora


●「試す」価値はあるアベノミクス--スミス・池田対談

3月18日月曜日はは米国の著名ブロガー、ノア・スミス氏の来日に合わせて増刊号として、「アベノミクスをどう評価するか?リフレ派の論客と日米討論」を放送した。

約2000人の視聴、1000人のタイムシフト予約があり、視聴者アンケートで7割の満足度と好評を得た。(告知記事(http://agora-web.jp/archives/1524386.html))

◆人々の予想を変えたアベノミクス

スミス氏はアメリカの経済学者で、ニューヨーク州にあるストーニー・ブルック大学の准教授です。日本の慶応義塾大学で研究員として学術論文の編集、リサーチを行った経験もある。そのブログ「Noahpinion」http://noahpinionblog.blogspot.jpは、米国で注目を集め、著名なプリンストン大学のポール・クルーグマン教授もノア氏の言葉をブログで頻繁に引用している。

「アベノミクスでアメリカの経済学者、マーケット関係者に日本経済が注目されているようだ。最近は停滞が続き、相手にされなかった。この変化はなぜか」と、池田氏は聞いた。「インフレターゲティング、マテタリストの考えの取り入れなど、経済学にとっては興味深い政策が取り組みを、採用しているため」とスミス氏は分析した。

ノア氏のアベノミクスに対する評価は高く、「人々の気持ちをポジティブにして予想に影響を与えたのはとてもいいこと。変化をもたらしたことは評価したい」と述べた。またクルーグマン氏の、アベノミクスへの評価は高い。ただし、スミス氏によれば、これには別の意味があるという。クルーグマン氏は、経済論戦で各国の財政緊縮派と戦っており、実際に各国政府は緊縮策を採用。その中で、唯一積極財政出動をする、日本に注目したという。

◆気分だけで経済はよくならない

しかしノア氏は「気分だけで経済はよくならない」とも指摘した。インフレ目標の実現はむずかしいという。「インフレ予想は過去に強く拘束されるので、日銀だけで2%のインフレを実現するのは無理だ」という。「大事なのは成長の結果としてインフレになることで、インフレだけ起きても年金生活者が怒る。規制改革やTPPがより重要だし、古い自民党式のばらまきと財政が懸念される」と話した。

ノア氏のようにリフレを認め、アベノミクスにある程度の評価を加える人も、これで日本経済が変ると手放しで期待している訳ではないようだ。アベノミクスを評価だけしているのではないようだ。

今後アゴラは、一連の映像コンテンツをまとめ、読者の皆さまに提供していく予定だ。

(アゴラ編集部)


●改革の本丸は労働市場改革だが--城・池田対談

3月22日は人事コンサルタントの城繁幸氏を招き、池田信夫アゴラ研究所所長と「改革の本丸は労働市場だ」を行った。

約1500人の視聴、700人以上のタイムシフト予約があり、視聴者アンケートでは85%の8割の人が、「とてもよかった」「よかった」と回答。「労働規制改革を行うべきと考えますか」質問に、93%の人が「改革するべきだ」と回答した。しかし、改革は遅々として進まない。

◆タテ社会をヨコに動ける変化を

城氏は企業の人事部勤務の後で、独立して人事コンサルタントとして活動。「さまざまな規制、正社員を増やそうとし続ける労働政策が、日本の労働市場をゆがめてきた」と先駆的に指摘してきた。問題意識は池田氏も同じだ。「文化的に内向きになりがちな『たこつぼ化』を日本のどの組織も進めてしまう。それに加えて、一度会社の社員ではなくなると年金や社会保険などで、さまざまな不利が存在する。『タテ社会をヨコに動ける』変化が必要」と同意した。

会社が長期雇用を保証する一方、将来の利益と生活の安定を求めて社員は猛烈に働く。このような労使関係が、大企業では採用されてきた。ところが、もはや企業の先行きには不透明感がただよう。城氏によれば、安定を求めるようになった大学生は4、5年前には終身雇用の良い会社として、電力会社や電機メーカーに注目していた。ところが現状を見れば、これらの 会社は業績の低迷に直面して大混乱中だ。誰も先行きは分からない。

おそらく今問題になっている「ブラック企業」や追い出し部屋の問題、さらに終身雇用の企業で人々が会社を嫌いながら務める問題も、自由に動けないという労働市場の問題に関わるのではないかという。

こうした状況の変化のためか、解雇規制を含んだ労働市場の見直しについて、政府の産業競争力会議で議論が始まった。さらに社会の雰囲気も変わったという。数年前までは城氏や池田氏が解雇規制を取り上げると、感情的な反発があり、中には脅迫めいたものもあった。しかし今では反発が少ない。日本経済の深刻さを誰もが理解しているためだろう。「自由に動けることは特に今からキャリアをつくらなければならない若者にとって、必要なことだ」と城氏は強調した。

◆公的年金維持という大問題

しかし、解雇が、自由になるだけでは、それが涵養されることになりかねない。「残業には対価を払う、解雇の場合には対価を払うなど規制を整備することが必要」と話す。

池田氏は、元小泉改革の担い手だった竹中平蔵氏と、2月のG1サミットで雇用問題を議論した。アメリカ型のドライな解雇を認めるのは日本の国情に合わないと2人は一致。企業よりも、労働者を守る制度がしっかりした北欧型の労働市場をつくるべきではないだろうかと、話し合ったという。「企業に正社員のコストを負担させ、その中に入れない人や中小企業には冷たい、今の制度を見直した方が、企業にとっても幸せだ」と、池田氏は指摘した。

しかし城氏は厚労省がなかなか変わらないだろうと指摘した。少子高齢化の進行で将来の維持の難しい公的年金制度を維持するため、保険料を集めやすい現行の正社員を重視する制度に厚労省は固執しているという。「労働市場改革は始まったばかり。大きな関連する問題を一つひとつ解決しなければならない困難な先行きが待っている」と、城氏はまとめた。

アゴラチャンネルは今回の対談のように、テレビメディアでは流れない、本音の情報を取り上げていく。

(アゴラ編集部)