めるまがアゴラちゃんねる、第055号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

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・ゲーム産業の興亡
(65)Mod戦略が世界的ブームを支えるゲーム「Minecraft」
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡
(65)Mod戦略が世界的ブームを支えるゲーム「Minecraft」

近年でも、Mod戦略を行うことで、最も成功しているゲームを紹介しておきたい。

■社員数7名の企業が1年で2億4000万ドル売り上げた
「Minecraft(マインクラフト)」というゲームだ。スウェーデンのストックホルムにあるMojang(モージャン)という小規模のインディペンデントゲームの開発会社が09年頃からリリースし始めたゲームで、11年には8人の社員しかいなかった小さな企業だった。

しかし、PC版は19.95ユーロで販売され、さらにXbox360版に移植されバージョンは1000万本を売り上げる大ヒットとなった。12年には2億4000万ドルという、とてつもない金額の売り上げを出している。明快な利益率は公開されていないが、50%を超えているのではないかと筆者は想像している。

10年前後になるまで、北欧製のゲームが全世界でヒットするということは考えられなかった。ネット流通の普及とペイパルなどの少額課金決済が容易になったことで、こうした小規模の企業でも、大ヒットの恩恵を得られる潜在可能性が増大した。もちろん、どこの会社でも、成功できるわけではないのだが。

ただ、今まで、日本では海外製のゲームはヒットしないというのが常識だったが、この常識は大きく変わった。このゲームのゲームプレイ動画は「ニコニコ動画」で登録数は5万3000件を超えており、人気ジャンルになっている。5月に東京で行われた「ニコニコ超会議2」でも専用コーナーが設けられ、限定で販売されグッズが、すぐに売り切れるといったほどの人気を見せた。

このゲームは、オープンワールドと呼ばれるタイプのゲームだ。プロシージャル(自動生成)と呼ばれる技術が中核となっている。ブロック状に構成している世界は、プログラムのアルゴリズムによって、ゲームを遊ぶたびに、世界を構成しているデータが変わってしまう。

ゲームは、地下を目指して鉱石を掘り続けてもいいし、世界がどのように広がっているのかを探検してもいいし、手に入る材木などを利用して家やより巨大な建築物を作る作業を行ってもいい。ユーザーには、どのようにゲームを遊ぶのかは、非常に幅広い選択肢が提供されている。これがユーザーの遊び方を限定することがなく、幅広い遊び方を認めることも人気の理由になっている。

■人気の下支えを日本でも行うMod
さらに、その人気を支えている要因の一つに、Modがある。Mojang社は、この中核となるソースコードを積極的に公開し、ユーザーコミュニティの意見を取り入れながらゲームの機能を追加する方式を採っている。Mojang社は自らの成功の理由を、ユーザーコミュニティの強いサポートによって行われているという認識をもっているため、自由な改造と、開発されたModをインターネット上で、配布することを認めている。

日本語で、Minecraftの情報を発信しているゲームの遊び方の情報サイト「Minecraft Japan Wiki」には、どのようなModが存在するのかということを収集しているページがある。そのページに紹介されているModは、大規模にゲームを改造するものから、ゲーム内で使うアイテムを若干変更する程度のModまで、実に300種類以上のMod情報が公開されている。その中ではModを開発するための基礎環境を複雑なプログラムを作ることなしに、開発が日本語で提供しているユーザーもいる。(※1)

最近では、マンガとアニメで人気を集めている「進撃の巨人」をモチーフにしたModが日本で人気を集めている。巨大な巨人を表示させ、非常に厳しい展開の中で、脆弱に設定されたキャラクターが戦うという日本製のModが複数発表されている。元々の「進撃の巨人」は日本で局地的に起きているブームであるため、このMod機能が、定期的に行われている公式のアップデートのよって、今後追加される可能性は低い。そのため、日本限定で人気のあるModと言ってもいい。

■イノベーションを作るプロセスに参加する事が楽しい
Modは基本的に無料公開されている。そのためModを開発しているユーザーには経済的なメリットをもたらす可能性はほとんどない。それのにも関わらず、ユーザーは、なぜModを開発し、積極的に無料公開を行うのだろうか。

ヒッペルは、「個人はイノベーションのプロセスに参加すること自体から得られる利益に、大きな価値を見いだすことがあり得る。イノベーションのプロセスが、自分にとって学びと喜びをもたらしてくれることがあり、それがとても重要なことなのだと語る人々は少なくないのである」と述べている。これの研究はLinuxといったオープンソースソフトウェアに、なぜ開発に関わる技術者が、無償で開発に関わるのかという研究結果を通じて明らかにされている。(※2)

アンケートを通じて行われた研究では、開発者の多くは仕事のために必要だったからという条件をあげているものの、一方で「回答者の61%は、オープンソース・プロジェクトに参加する事が、自分の中の最も想像的な経験であるか、それに匹敵する経験だった答えている」としている。

つまり、Modの開発に関わる人たちは、Modを開発したり、修正したりするプロセスを楽しんでいるのであり、それによって得られる経済的利益の可能性が比較的低い場合であっても、イノベーションを行う可能性が高いのである。

Minecraftの場合には、成功の理由には、偶然性も多分に含まれていると考えられるが、ゲームそのものが改造しやすいものとして提供されたことが、製品の魅力を引き上げている。ユーザーにとってもModの開発環境の充実やネット流通の一般化によって、配布がより容易になっていることも、それを後押ししているだろう。10年前には「カウンターストライク」で起きていたような現象が、今は、「Minecraft」でより大規模に起きている。

(※1)Minecraft Japan Wiki のModを解説しているページ
http://www26.atwiki.jp/minecraft/pages/940.html

(※2)エリック・フォン・ヒッペル『民主化するイノベーションの時代』(ファーストプレス),P.85-86



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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