めるまがアゴラちゃんねる、第062号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

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・ゲーム産業の興亡(73)
iPhone登場ののインパクトは本当に大きかった

新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(73)
iPhone登場ののインパクトは本当に大きかった

(69回から、東京ゲームショウ関連の話題に触れてきましたが、本筋に戻ります。また、適宜、時事ネタについては触れさせて頂きたいと思います)

■07年のiPhone登場
アップルのiPhoneが、革命的なハードウェアであったことは間違いない。07年にスティーブ・ジョブズが、最初のiPhoneを発表するプレゼンテーションは、歴史に残る有名なスピーチだ。その中で、ジョブズは「iPod」「電話」「インターネット」を連呼し、それらの商品を開発したと語る。もちろん、それが統合されたハードとして、「iPhone」を語る。革命的な商品として理解され、6月に発売された。

それでも販売台数は、最終的には翌年のiPhone 3Gの発売までには、610万台に留まっている。もちろん、それでも十分な販売数ではあるのだが、大爆発が起きたというほどではない。ハードウェアがまだまだ性能として不足していた、アメリカ国内中心に販売されたという理由など、様々な理由が考えられる。

しかし、搭載できるソフトウェアがアップルにより管理されており、使える魅力的なアプリの量が少なかったことが人気へとつながらなかったのは、今から見ると弱点の1つだったと考えられる。

本当の大ヒットが世界中に起きるのは08年7月にiPhone 3Gが登場して、App Storeが立ち上がることで、魅力的なソフトウェアをユーザーが手にすることができるようになってからだ。とにかく、iPhone 3G向けの開発環境は、既存のアプリケーションの開発環境とは劇的に違っていた。開発を行いたい開発者は、Macを所有しており、Apple Developer Connection に Apple Developer として無料の登録を行い、会費99ドルの「iOS Developer Program」に加入すれば、誰でもSDK(ソフトウェアデベロップメントキット)を入手することができる。

その後、開発したアプリは、アップルに申請後、内容に問題がないかというチェックが行われた後販売が始まる。無料アプリの場合は、そのままアップロードされるが、どこの国でどれくらいダウンロードが行われたのかという情報は入手することはできない。

一方で、有償アプリの場合は、アップルに販売価格の3割の手数料を支払った後、残りの7割をアプリの開発者が得ることができるようになった。このアプリの販売会社が3割支払うというルールは、現在でも様々なプラットフォームの基準となる配分割合になっている。

■App Storeは家庭用ゲーム機にとっては真似のできない仕組みだった
これらの仕組みは、繰り返し説明しているが、既存の家庭用ゲーム機会社との契約では常識を外れていた。SDKを入手するまでの極端な簡便さと、極端に簡素化されたリリースの仕組みだ。アップルとの契約は非常に簡単だ。オンラインでいくつかの登録作業を行えば、それで終了してしまう。これまでの家庭用ゲーム機向けにゲームを開発したいと、個々のユーザーが考えたとしても、そこには道が開かれていなかった。

開発者は法人として、パブリッシャー(販売会社)契約、もしくは、デベロッパー(開発企業)契約を行い、まず、企業としてハードウェアプラットフォームに販売することを認めてもらわなければならない。

また、時期によって違うのだが、専用の開発機材を購入しなければならない。06年のソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション3(PS3)」の場合、ハードウェアのアークテクチャーが複雑すぎた原因もあるのだが、初期の開発用ハードウェアは100万円もした。このあまりの高さに、任天堂は「Wii」の開発環境として10数万円とパソコンと変わらないような値段で、開発者に優しいハードだとアピールしていたぐらいだ。iPhone 3Gの発売の2〜3年前の話だ。

もちろん、ゲームの開発費は、2000年代に入って、ゲームの開発用の機材やソフトウェアよりも、はるかに人件費の方がかかるようになっている。それでも、それは相対的に、少なくとも数億円という当時の一般的だったゲーム開発プロジェクトの場合だ。PS3の機材の開発コストの高さには、当時、様々な企業がグチを言っていたものだが、それでも、家庭用ゲーム機の基本的なビジネスモデルには変化がなかった。

■進む家庭用大手ゲーム会社への収れん化
また、現在でも変わらない部分は大きいが、開発したゲームを一般の販売網に乗せるコストも非常に高かった。繰り返し書いていることだが、DVDなどの物理メディアを店頭で販売するためには、在庫を抱え、流通をさせるだけで、非常にコストがかかった。宣伝広告費の差や、高額化していく開発費を支えきれない状態がゲーム市場に生まれるようになったために、日本でも、世界でも、大手ゲーム会社と呼ばれる企業は、収れんが進んだ。

日本の場合には、任天堂やSCEを除くと、スクウェア・エニックス、セガ、コナミ、カプコン、コーエーといった企業だ。海外を見ていくと、エレクトロニックアーツ(EA)、アクティビジョン・ブリザード、UBI、Take2などが中心となっていた。もう、これらの巨大化した企業には、個々の開発企業はかなわない。そのため、デベロッパーは、個々のパブリッシャーと交渉して、パートナーシップを築くことによって、流通網に乗せてもらうといったことを行わなければならなかった。

その基本ルールが変わった。これはiPhoneが典型的な「イノベーションのジレンマ」を引き起こしたことでもあり、このシリーズで初期に触れた「広義のムーアの法則」が市場を変えるための条件が整ってきたことが大きい。

現在も、スマートフォンがあまりにも、オーバースペック化が進みすぎているので、再び、市場のルールの変化が、再び起きるための条件が整いつつあるように思える。例えば、「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンラインエンターテインメント)が登場してきたように。ただ、もう少し、このときに起きたイノベーションのジレンマの正体を分析的に捉えておく必要があるだろう。




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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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