めるまがアゴラちゃんねる、第063号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(74)
ソーシャルゲーム市場の形成と現在まで
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(74)
ソーシャルゲーム市場の形成と現在まで

先週まで、ソーシャルゲーム市場誕生に至るまでの歴史をずっと追ってきた。そろそろ、現在のゲーム産業に携わっている人たちにとっては、リアルタイムに知っているソーシャルゲームの時代の説明に入り始める。これまで、最近のことは、多くの方がご存じでもある部分でもあると思われるため、一気にはしょって触れておくにとどめておきたい。

■日本が中心にけん引を始めたソーシャルゲーム市場
Facebookのオープン化に伴い、08〜09年頃に、Zyngaを代表とする新興のソーシャルゲーム企業が欧米を中心に複数登場し、それらの企業は数億人単位という膨大なユーザー数を抱えるまでに急成長した。しかし、ユーザーの一人当たりの一ヶ月あたりの収益性が低いという課題を抱えていたために、結果的にZyngaは上場後に、その状態が露呈すると、一気に勢いを失う。

一方で、海外に対して、ソーシャルゲーム分野では遅れているのではと見られていた日本が、mixiを中心にSNS上のプラットフォーム化を成功、しかし、戦略の選択ミスから失速。代わりに、やはり同じ時期に、「怪盗ロワイヤル」のDeNA(ディー・エヌ・エー)と「釣り★スタ」のグリーが登場。

それまで、予想もされていなかった、日本のフィーチャーフォン(ガラケー)で、ソーシャルゲーム市場が形成され、海外と比較して一人当たりの月の収益性が突出して高かったことから、急成長が始まり、さらに、Facebookと同じ、他のゲーム会社でも参入を可能にするオープンプラットフォーム化戦略を採った。それにより、既存のゲーム会社ではない、特にウェブ系サービスを中心としていた新しい企業の参入と登場を促した。

■一人当たりの支払金額の高さから世界第2位のソシャゲ市場になった日本
さらに、アップルが「App Store」内でアプリ内課金の仕組み(In-App Purchase)を整えたことで、それまで極端に収益性が低かったスマートフォンでも、ソーシャルゲームが成長する余地が生まれた。同じようにグーグルは「Google Play」のサービスを開始した。そして、12年前後に、これまでガラケーを中心に利用していた、特にゲームを遊ぶような10〜30年代の急激に買い換えることが起きたために、一気にスマートフォン向けのソーシャルゲーム市場(スマホソーシャル)の誕生を生みだすことになった。

今は、スマホソーシャル全盛の時代に向かおうとしており、日本人ユーザーの突出した高い月あたりの支払額の高さは変わっていないため、「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンラインエンターテインメント)のような化け物のようなヒットタイトルを登場させる様になった。

また、NHNがスタートさせた無料通話アプリの「LINE」は新しい世代のSNSの形成を押し進め、そのサービス内でもソーシャルゲームが展開され、収益の柱となりつつあるため、注目も集め始めている。そのため、今はガラケーソーシャルに適応できた企業が、高い収益性を生みだしているという状態に切り替わりつつある。

矢野研究所の推測では、08年にはほとんど存在しなかった日本国内のソーシャルゲームの市場規模は、13年は4200億円にまで達するという急成長が見込まれている。一方で、家庭用ゲーム機向けのゲーム市場は、エンターブレイン調べでは12年に2712億円と毎年微減が続いており、完全にソーシャルゲームの方が市場規模が大きいという状態になってしまった。AppAnnieの調査では、13年2月には、日本のスマホソーシャルの市場規模は、アメリカに次ぐ第2位にまでなっており、Google Playだけに限ってみるならば、世界最大の市場になっている。

■ニッチへと追いやられる家庭用ゲーム機
これは、PS3やXbox360世代のような家庭用ゲーム機に2〜3年もの時間をかけて、開発コストが数十億円というリスクを負いながら開発して、発売後に回収できるかどうかきわどいという状態のアンチテーゼとなった。スマホソーシャルは、成功するととてつもない売り上げを出すため、家庭用ゲーム機向けゲームのような開発手法はむしろリスクが高いという状態が生まれるようになった。

今年年末から来年にかけて「プレイステーション4」(ソニー・コンピュータエンタテインメント)や「Xbox One」(マイクロソフト)といった新しい世代の家庭用ゲーム機が登場するが、ニッチ市場の形成には成功すると思われているが、過去のゲーム機のように大成功するとは現在のところ考えられていない。今後についても、スマホソーシャルは世界的にゲーム市場をけん引すると考えられている。

■ユーザーはアイテム課金にお金を支払う心理
ここまでは、現在のゲーム産業に至るざっとした流れになる。Zyngaが、なぜ成功し、一方でなぜ失敗していったのか、また、特に、グリーはなぜ今厳しい状況に一気に追い込まれていくことになっていったのかということは、いずれ検討していきたいと考えている。

それにしても、ソーシャルゲームの急成長は、様々な謎を突きつける。どうしてユーザーは「無料で始められるアイテム課金のゲームに対して、高い課金を行うのか」という動機の謎だ。00年に韓国で登場したこのモデルは、世界的に一般化すると考えられていなかったものが、たったの10年で世界中で一般化した。日本は一人当たりの支払額は突出して高く、アメリカはそうではないといったように、地域によってばらつきはあるものの、それでもユーザーはアイテム課金に慣れようとしている。それは、なぜなのか?

今後、しばらく議論をしていきたいのは、ソーシャルゲームに対してユーザーが支払っている心理状態を説明するヒントになる説明だ。まずは、「行動経済学」の分野を利用して紹介を進めていきたい。この分野での心理学の数々の実験は、「プロスペクト理論」などには、いくつものヒントが隠されている。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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