めるまがアゴラちゃんねる、第068号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(79)
ソーシャルゲームへの慣れ・人間の認知は数年で変わる
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

・ゲーム産業の興亡(79)
ソーシャルゲームへの慣れ・人間の認知は数年で変わる

ソーシャルゲームが基本としているフリーミアムモデルのアイテム課金方式は、09年頃に、爆発的に一般的に広がった。それにより、社会的に不信感の目が、ソーシャルゲームに注がれることになった。その頃のことを正確に覚えている方は、どの程度おられるだろうか。ところが、この4〜5年の間に、ユーザー側の認知が変わってしまった。それにより、登場直後には違和感を持って受け止められていた「アイテム課金」そのものに多くのユーザーが慣れてしまい、当時のような反発はなくなっている。

■急成長をする2社に対する広がる社会的な違和感
09年頃から始まったDeNA(ディー・エヌ・エー)やグリーの急成長は「社会的には何か悪いことでもしているのではないか」といった雰囲気で受け止められるようになっていた。既存の家庭用ゲームを好きなファンからは、インターネット上で、「ソーシャルゲームはゲームではない」という非難が繰り返されていた。フリーミアムモデルで、実際にはアイテム課金をどのゲームも必須としているにも関わらず「無料です」と、最後についていたCMには「なぜ、無料を標榜するゲームから利益を出せるのか」という違和感にもつながった。

特に、10年には、二社のCM競争は激化した。10年10月には、ビデオリサーチの関東地域でのテレビCM放送で、グリーが2位、DeNAが4位に入っている。これは首位が花王、5位のトヨタ自動車であることを考えると驚異的な数字であることがわかる。10年末から11年のお正月の時期には、もうウンザリするほどのCMが流れていたのを覚えている方はおられるだろう。しかし、やはり無料というイメージを前面に押し出していた両企業のCMには違和感を感じる人は少なくなかった。

■既存のゲーム企業を抜くという宣言
10年9月には、日本の国内向けゲームカンファレンスCEDECの基調講演で、南場智子社長(当時)が、「任天堂やソニーは、人間でいうと還暦を過ぎている」と宣言し、「日本で過去30年間に生まれた企業が、世界のリーダーに上り詰めたケースはまだないが、その歴史を変えていく」と、過去のゲーム会社の雄を古いと宣言。既存の家庭用ゲーム機の開発者たちにも戸惑いを持って受け止められていた。

さらに、11年9月の「東京ゲームショウ」の基調講演は、グリーの田中良和社長は、「重要だと思うのは、あるゲームデザインが流行ったときには、それをコアにしていろんなモチーフのゲームを作るべき」と述べ、当時、任天堂などが成功させてきたゲームに、そっくりなゲームのアイデアをコピーして開発をすることに何のためらいもない姿勢を見せていた。

さらにDeNAは11年10月には、「横浜ベイスターズ」を買収、12年から「横浜DeNAベイスターズ」となったことは、知られている通りだ。

急成長のピークに向かっていた11年10〜12月期には、グリーは約375億円(営業利益225億円、利益率55%)、DeNAが約341億円(営業利益135億円、利益率40%)だった。両方の企業が、07年には年間の売り上げが10億円以下であったことを考えると、驚異的としか言いようのない急成長ぶりだった。東日本大震災後、沈滞感の漂う日本社会のなかで、ほとんど影響を受けずに成長が続いたことも、日本社会で、否応なく目立つ存在にもなっていた。

■12年頃にはソーシャルゲームへの強い反発が存在した
もちろん、これは12年5月に起きた「コンプガチャ問題」によって、急成長にストップがかかることになる。同時に、社会的には強いバッシングの時期にも変わる。DeNAとグリーなどソーシャルゲーム各社は、課金方式の自主規制にも乗り出す。

筆者が、コンプガチャ問題が引き起こされた直後の12年5月19日に、池田信夫氏の「ニコ生アゴラ」に出演させて頂いている。もちろん、ゲームに詳しいわけではない池田氏は、ソーシャルゲームのアイテム課金モデルを、むしろ「新しく登場してきたイノベーション」の一つとして受け止めていた。「どこに問題があるのかわからない」という印象を持たれていたようだ。しかし、ユーザーのコメントは、ソーシャルゲームへの反発で埋められた。当時もまだ、アイテム課金は気持ちの悪い物として、社会的には受け止められていたのだ。

■ソーシャルゲームへの認知が数年で変わってしまった
ところが、12年の後半になると、DeNAとグリーが中心の市場としていたガラケーのソーシャルゲームから、スマートフォンへと市場は急激に移行することが起きた。「LINE」の登場や、さらに驚異的な伸びを見せる「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」(ガンホー・オンラインゲームエンターテイメント)の登場だ。

「パズドラ」もDeNAやグリーのゲームと変わらず、アイテム課金方式をとっている。売り上げの中心を構成するのは「ガチャ」と呼ばれる方式で、それ以前のソーシャルゲームの収益源と同じだ。今年、「パズドラ」は多量のテレビCMを流しているが、社会的な批判はない。むしろ、今年の「流行語大賞」のノミネートの一つに残るなど、社会的にはポジティブな印象で受け止められている。

また、同じくアイテム課金方式の「クイズRPG魔法使いと黒猫のウィズ」(コロプラ)も、今年春にスタートしたサービスで、やはり、「ガチャ」が収益の中心だ。秋に開始したテレビCMは高い効果を生みだし、同社の業績を押し上げる要因になっている。このゲームは女性の人気も高い。しかし、同じく批判は出ていない。

重要なのは、ユーザーの認知は、登場直後こそは気持ちの悪い物として受け止められていたが、この数年で、認知が緩やかに変化してきたということだ。今や我々にとっては、それは当たり前過ぎるので、その変化自体を認識することができない。脳には可塑性があり、それがメディアの変化が起きると、適応してしまうことが起きるが、同じことが、ソーシャルゲームの分野でも起きている。


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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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