めるまがアゴラちゃんねる、第081号をお届けします。

コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(92)
PS4は4Kテレビの基準化を狙い、ビジネス用途も使える可能性を持つ
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

京都で生まれたインディゲーム新しい流れ「ビットサミット」


 3月7日〜9日に、勧業館「みやこめっせ」(京都市)で ビットサミットオーガナイゼーション主催のゲームの展示会イベント「ビットサミット」が開催された。

 第二回目となるこのイベントは、国内外の独立系開発者(インディーズ)が開発しているインディペンデントゲームを対象にしている。100以上のインディーズが出展し、1500名あまりの来場者を集めた。

 このイベントの興味深い点は、出展者の1/3は、日本在住の外国人開発者、もしくは、海外のインディ開発者だったことだ。来場者にも多数の海外から参加者があった。全体に暗めにライトがおさえられており、蛍光灯を明るくつける日本の展示会というより、海外の展示会に雰囲気は近かった。

 これは設立の経緯に理由がある。このイベントを始めたのが、京都のキュー・ゲームズのスタッフだったということだ。イギリスのディラン・カスバート氏が社長を務める同社は、プレイステーション3向けに開発してきた「PixelJunkシリーズ」で知られている。日本在住の外国人が率いる、01年創業のインディゲーム企業として知られている。

 そして、元ジャーナリストとしてゲーム誌への寄稿や、日本のゲーム会社でのプロモーション経験のある、同社のジェームズ・ミルキー氏が発起人として全体を引っ張ってきている。

 そのスタートは「いらだち」だった。なぜ、海外ではインディゲームへの大きな盛り上がりが起きているのに、日本ではそれが起こらないのかということだ。


■日本のインディ開発者になかったチャンス

 家庭用ゲーム機を含め、インディゲームはゲーム産業の中で重要な存在になっている。元々はパソコン用のゲームとして始まっていたが、パソコンでのコンテンツ流通システムが一般化してくるに従って、様々なプラットフォームが立ち上がった。現在、最も独占的な立場を築いているのは、何度も紹介している、米シアトルのValveのプラットフォーム「Steam」が独占的ともいっていい位置を築いている。

 同社はインディーズも積極的に取り込んでおり、多くのインディーズが目指すのは、このプラットフォームでの配信だ。

 アップルのAppStoreや、グーグルのGoogle Playを利用して、スマホやタブレットに配信することが可能ではあるのは、言うまでもないことない。ただ、有料のゲームの販売価格は、1ドル前後が平均販売価格であるため、とてもビジネスにならない。

 Steamでは10〜15ドル前後での販売が一般的であるため(金額は自分で設定できる)、数人の開発会社であれば、数年かけて開発をしても、ヒットすれば十分に回収できる可能性がある。Steamでの成功は、家庭用ゲーム機でもチャンスを得られることを意味し、より成功を生み出せる可能性が広がる。

 家庭用ゲーム機では、マイクロソフトがXbox360で、積極的にインディーズを取り込んで販売してきた。「Xbox Live Arcade」というダウンロード販売だ。特に大ヒットしたケースは、スウェーデンのモージャンが開発した「マインクラフト」だ。

 元々7人でPC向けに開発していたゲームだが、PC版リリース後に人気を得て、マイクロソフトはXbox360向けの独占販売権を取得した。12年5月に発売になったこのゲームは、累計で320万本を越える大ヒットになった(現在は30ドルで販売されている)。12年だけで1億ドル以上売り上げたと言われており、インディゲームへの評価が大きく変わった。

 ところが、日本のインディ開発者のブームは極めて限定的だった。日本では販売チャネルが極めて限定されていたためだ。

 最も有力なSteamは、英語圏のもので、アメリカの法律下での登記、銀行口座や送金、また、個別の契約には言語の壁があり高い壁となる。

 マイクロソフトも同様で、日本の法人には権限がなく、すべての意思決定が本社で行われている状態であったため、やはり壁は高かった。

 SCEは、欧米圏の企業の取り込みには積極的だったが、日本での動きは鈍かった。

 任天堂はアメリカでは行っていたが、決して成功といえる状態ではなく、さらに日本では行っていないに等しい状態だった。

 インディゲームを開発しても、ビジネスになる先がなかったのだ。


■日本の同人ゲーム対インディゲームのビジネスの考えの違い

 東京にも同じような環境がなかったわけではない。

 漫画の同人誌を中心にあつかい日本で最大のイベントであるコミックマーケット内でのゲーム部門だ。しかし、「同人ゲーム」と呼ばれるこの分野は小さく、お互いの出展者のコミュニケーションは行われておらず、閉鎖的だった。

 また、コミケには18禁のイメージがつきまとう。実際に、「性的なゲーム」が、そういう要素のないゲームよりも数倍売れるという。もちろん、18禁ではないゲームも開発している人たちもおり、その中には、シューティングゲームの「東方」や、ノベルゲームの「ひぐらしの鳴く頃に」といった大ヒットゲームも登場している。しかし、層は薄い。

「同人」のアイデンティティや作法の問題も大きい。

 同人ゲームのコミュニティでは「嫌儲(けんもう)」という奇妙なルールがある。自分たちがゲームを作り、当然、ビジネスが絡んでくるのだが、その部分を話してはならないというルールだ。もちろん、それは建前であり、本音ではビジネスとして成功したいという気持ちがあるが、それを口に出してはならないという、横並びに平等でなければならないという考えで日本的な雰囲気だ。

 これはインディーズと大きく対立する。

 インディ開発者は、大手ゲーム会社が出さないような、自分が作りたいと思うゲームを自由に作りたいという気持ちがあるため、ゲームを作る点では共通している。しかし、その先には、ビジネス的な成功は目標の一つとしてある。経済的な成功がなければ、持続的にゲーム開発を続けることが出来ないからだ。資金など立場が弱いために、お互いに開発の知識やプロモーション等で、積極的に情報を共有するコミュニティ指向も強い。

 日本で成長してきた同人と、海外から出てきたインディーズの文化には、心理的には対立する部分が潜在しており、現在でも解消したわけではない。

 
■インディゲームの広がりと京都

 それが、日本でも家庭用ゲーム業界の様相が大きく変わろうとしている。今回、ソニー・コンピュータエンタテインメントが出展していた。スタッフは「I Love Indie」というTシャツまで用意して「プレイステーション4」、「プレイステーションVITA」、「PS Mollie」で、インディゲームを積極的に取り込んでいくことをアピールしていた。

 日本人が開発し配信が予定されている新作タイトルも発表が行われた。PS4はアーキテクチャが、ほぼPCに近いこともあり、インディ開発者が参入しやすくなっている。

 インディを取り込んでいくことは、タイトル数やバラエティを増やすメリットがある。日本では限定的だったチャネルがやっとできたために、期待は大きい。その潮目の変化にうまくビットサミットがイベントとしてはまった。いらだちはチャンスへと変わる可能性が出てきた。

 ビットサミットは、京都という東京から離れたところで始まったことも有利に働いているように見える。

 絶妙な場所でもある。東京で行えば、インディ色か、同人色かと、微妙な色が分かれていたことだろう。天井の照明が明るいか暗いかで、まったく違ったイベントになる。しかし、海外勢が日本のイベントを立ち上げ、引っ張ったことで、どちらの文化も巻き込み、さらに国際性の強いイベントとして成功した。

 また、さらに恵まれたというのは、行政からの支援も得られたことだ。

 コンテンツ産業を京都での育成に力を入れている立命館大学映像学部の細井浩一教授が、渋る京都府を説得し、予算をつけたのだ。

 昨年のビットサミットは小さなイベントだったが、京都府の予算により、インディ開発者の各出展ブースの値段は無料という、破格の扱いになった。

 それでも行政側は、懐疑的だったようだ。素人が作ったようなゲームがちょっと並んでいるだけというイベントを想定していたようだが、会場に出ているゲームの質が高いこと、来場者も多いこと、国際性の高いことに相当驚いたようだ。また、国内外のインディゲームの販売の可能性を探るバイヤーも来ていたこともアピールとして大きくなりそうだ。

 京都府は、次年度も予算をつけることをほぼ決めている。時代にうまくはまるということはあるが、日本で、インディゲームのムーブメントを起こすために、より重要な役割をになうことになるのではと思う。

 種がまかれたばかりで、ビジネスの場として、来年以降まだまだどうなるのかは見えないが、幸せなイベントだなと思っている。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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