主張

雇用制度「改革」

大企業の労働者追い出し支援

 安倍晋三首相が、全閣僚が参加する日本経済再生本部の会議で「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型」への制度改革を厚生労働大臣に指示し、雇用制度「改革」の動きが本格化しています。日本の雇用が「行き過ぎた維持型」だというのは現状無視もはなはだしい見方です。実態は、景気の変動に応じて大企業が退職勧奨などのリストラで正社員を大量に切り捨てる一方、非正規雇用が労働者の3割を超えて増えつづけている事実が示すように、限りなく流動化しています。「移動支援型」への転換の口実で、雇用をさらに不安定化させるのは許されません。

人員削減に助成金

 「移動支援型」にする方策の中心が、ハローワークがもつ求人情報や各種助成金の民間開放です。経済再生本部のもとにおかれた財界関係者などによる産業競争力会議では、アウトプレースメント会社の活用、助成が提案されました。アウトプレースメント会社とは、人員削減する企業の依頼をうけて、企業から追い出された労働者の再就職を支援する会社です。パナソニックやNECなど大企業が労働者を「追い出し部屋」に入れて退職させ、職探しさせるために活用する会社として知られています。

 企業がこの会社に支払う費用は、労働者1人100万円前後が相場だといいます。ここに国の助成があれば企業負担が軽くなります。そこで考えられているのがハローワークで扱っている各種助成金の転用です。企業が雇用を守るために使う雇用調整助成金を廃止し、切り捨てる企業のために使う百八十度の転換が提案されています。中小企業が民間の職業紹介事業者に労働者の再就職を委託したときに使える再就職支援給付金も、大企業が使えるようにする構想もでています。

 国の助成金を根こそぎ民間の職業あっせん業者に開放し、大企業が放出する労働者を受け入れて、転職させてゆく。行く先は、待遇が落ちる会社とか非正規雇用が多いといわれます。これが「移動支援型」の中身です。

 競争力会議では、大企業に「人材の過剰在庫」があると報告されています。あまりの身勝手さにがくぜんとします。

 大企業職場では、労働者が人手不足のうえ、短期の成果が求められ、長時間・過密労働に追い込まれています。大リストラを強行したパナソニックは、労働時間を延長できる協定(36協定)が1日最大13時間45分です。通常の勤務時間8時間半を加えると22時間15分になり、丸1日近く働かせることができる長さです。月の延長協定は100時間で、厚生労働省の過労死ラインを超えています。

まず労働時間是正を

 これは大企業の多くに見られる傾向です。こんな異常な働かせ方をそのままにして「過剰在庫」を口実に人員削減するのは身勝手です。「人材の過剰在庫」という前に労働時間を見直すべきです。EU(欧州連合)のように連続休息時間を最低11時間とる制度にすれば、雇用は確実に増えます。

 雇用の改革は大企業の利益という狭い了見でおこなうべきではありません。安定した雇用と賃上げによる働くものの所得アップこそが日本がかかえる「デフレ不況」から抜け出す確かな道だという立場で、すすめることが重要です。