主張
政府の待機児対策
「取り繕い」では打開できない
保育所に入所を希望しながら入れなかった待機児童問題が深刻化するなか安倍晋三政権が「緊急対策」を決めました。待機児解消にまじめな態度を示さなかった安倍政権にたいする国民の怒りが急速に広がったことを受け、急きょ取りまとめたものです。しかし、既存の保育施設の定員拡大による「詰め込み」を中心にした対策ばかりで、保育士の処遇改善も見送られたため、父母や保育士から失望と新たな怒りの声が上がっています。国は、安心で安全な保育を願う国民の声に応え、実効性ある措置を直ちにとるとともに、抜本対策に踏み出すべきです。
「弾力化」に不安相次ぐ
安倍政権の緊急対策の一つの柱は、「規制の弾力化」による「臨時的な受け入れ強化の推進」です。具体的には、自治体にたいし施設の保育士配置数や施設面積を緩和させて、子どもの受け入れ枠を広げることなどを求めています。
これは安全で良好な保育環境を保障する上で深刻な影響を引き起こしかねないやり方です。認可保育所の子ども受け入れ基準は、国が「1歳児6人に保育士1人」などと決めていますが、自治体によっては保育の質を保障するため「1歳児5人に保育士1人」と独自基準を定めているところもあります。施設面積も国の基準より広く設定している自治体もあります。
国の基準では十分子どもに目が届かず保育事故が起きたことなどの教訓を踏まえ、自治体が実態にそくして決めている基準です。本来なら国が基準を引き上げ、保育士の増員などをはかるべきなのに、“基準を下げ、子どもを押し込め”というのはあまりに乱暴です。
保育士からは「いまでも手いっぱい。これ以上の対応は厳しい」との声が続出し、自治体担当者からは「危険だ」と不安視する意見が出されています。定員19人以下の小規模保育施設の定員枠を22人に増やすことも、安全確保面で懸念されています。「とにかく詰め込む」というやり方は、安全な保育を求める父母の願いに反します。
関係者が怒りを募らせているのは、緊急対策に、保育士の賃金引き上げなど処遇改善策が盛り込まれなかったことです。安倍首相は5月に決める「1億総活躍プラン」で打ち出すとしていますが、対応が遅すぎます。待機児が解消できない大きな要因は、保育士の確保ができずに保育所増設がすすんでいないためです。やりがいを持って仕事についた保育士が人手不足や低賃金などで疲れ果て職場を辞めざるをえなくなる―。この悪循環を断ち切ることは、緊急課題であり、そこに国は責任をもつべきです。
日本共産党など野党は共同で、国の財源で保育士給与を月5万円引き上げるための処遇改善法案を国会に提出しました。保育士が安心して働ける職場づくりへ今こそ政治が役割を果たす時です。
深刻な実態直視してこそ
国は2万人超としてきた昨年4月の待機児数は、育児休業延長者などを含めれば8万人超にのぼると発表しました。子どもの預け先が見つからない親が職を失うなどの事態打開は一刻の猶予もできません。国は抜本対策の検討を急ぐと同時に、緊急対策についても自治体任せにせず、公共施設を活用した臨時保育所整備への必要な支援など、安全に配慮したきめ細かい対応をとることが必要です。