主張

「一斉休漁」

首相は漁家の苦境聞くべきだ

 初夏から夏場にかけ、真っ暗な日本海に点々と浮かぶイカ釣り船の輝くようないさり火は、息をのむような美しさです。取れたてのイカの透き通るようなお刺身が好物という人も少なくありません。

 この時期を象徴するイカ釣り船ですが、この26、27の両日にはいっせいに姿を消します。全国のイカ釣り漁船が休漁するからです。理由は燃油の高騰―とりわけ安倍晋三政権が進める「アベノミクス」のもとでの急速な円安が、価格を急騰させ経営を圧迫しています。文字通りやむにやまれぬ思いに、安倍首相は耳を傾けるべきです。

存続か廃業かの危機

 「急激な円安の進行に伴う燃油価格高騰は、魚価の低迷状態とあいまって、収入低迷・支出増の状態で小型イカ釣り漁業のコストを圧迫し経営体力をそいでおり、イカ釣り漁業者は生産体制を存続できるか廃業するかの瀬戸際に立たされている」。一斉休漁を決めた全国漁業協同組合連合会(全漁連、JF)の全国イカ釣り漁業協議会はこう訴えています。

 主に沿岸でスルメイカなどを取る小型イカ釣り漁業は家族単位など零細な漁業者が多く、自然が相手のため、天候が荒れれば出漁できないこともあります。いまが最盛期で現在は主に九州や山陰で操業しており、これからイカを追って北上します。一斉に漁を休むのは並大抵のことではありません。

 小型イカ釣り漁船は、いさり火をともしてイカを集めて釣り上げるため、漁船自体のエンジン用に加え、強力な発電装置のため大量の燃料を消費します。集魚灯の光量を削減するなど燃料費の節約には努めていますが、燃料費の割合は約27%と高く、その高騰はもろに経営を圧迫します。

 大きな打撃となっているのは「アベノミクス」による異常な金融緩和を背景に急速に進んでいる円安です。円相場は昨年末以来、1ドル=15円近く急落しました。原油価格も値上がりが続いているため燃料価格は高騰、昨年10月には1キロリットルあたり8万円台だった燃料価格は9万円を突破しています。漁業者は「出漁しても燃料費が賄えない」と訴えます。

 「アベノミクス」の「第1の矢」とされた異常な金融緩和によって円安や株高が進み、一部の輸出大企業や、株や不動産などに投機する大資産家のなかには、巨額の利益を手にした人もいます。日本共産党の大門実紀史議員が25日の参院予算委でも追及したように、100億円以上の資産を増やしたオーナー株主もいます。その一方で、零細な漁業者が円安の直撃を受け、生活の糧となる出漁さえ取りやめなければいけないというのはあまりに理不尽です。安倍首相は、「アベノミクス」で物価上昇をあおるのではなく、円安による価格高騰に苦しむ消費者や中小業者のために手厚い対策をとるべきです。

圧倒的な国民のために

 日本経済の圧倒的な部分を占めるのは、一握りの大資産家やオーナー株主ではなく、毎日の暮らしに追われる労働者や中小業者です。その人たちの暮らしがよくならなければ、経済は再生しません。

 円安に苦しむイカ釣り漁業者の生活を守ることは、「アベノミクス」の暴走を許さず、国民の所得と仕事を増やして日本経済を本格的な景気回復の軌道に乗せていくことと、まさに不可分の課題です。