「汚染水対策こそ急務」の声
「求む、即戦力!」。原子力規制庁が、原発再稼働の前提となる安全審査業務のため、電力会社の技術者などを対象にした中途採用の募集を開始しました。汚染水の海洋流出など東京電力福島第1原発の事故対応が後手に回っているなか、原発の再稼働にむけた“スピード審査”への布石とも言うべきこの動きに、批判の声があがっています。
「原子力発電所などの原子力施設の運転、設計、保全で培った経験を規制行政の分野で活かしてみませんか」
こんな文句が躍る求人広告が、日本電気協会が発行している業界紙「電気新聞」9日付に掲載されました。規制庁職員の公募で20人程度。業務内容は「原子力施設の規制(規制基準への適合性審査等)に関する事務」「原子力保安検査官」などで、採用予定は10月1日です。
電力会社の思惑
規制庁担当者は「審査要員を増やしたい。審査に着目して、即戦力の人に応募してもらいたい。いちばんは審査を受けた経験がある電力会社の人が近い。我々としてリーチしたい(伝えたい)業界に効果的にアクセスできる広告を考えるのが基本だ」と説明します。
規制庁では、現在80人が再稼働の前提となる規制基準への適合性審査の業務に当たっており、定員増で100人体制になります。
今回の審査体制強化の背景には、再稼働を早期に進めたい電力会社の思惑があります。
電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は「効率的に新規制基準への適合性確認を行っていただき、速やかなご判断をお願いしたい」(7月19日の会見)と、規制委に“スピード審査”を注文。規制庁側も「申請がなされた場合には、粛々と審査をしていく」という立場で応じています。実際、審査会合の開催は週3回のペースです。
現在も続く流出
一方、福島第1原発では現在も汚染地下水の海洋流出が続いています。緊急性の高い重大事態であるにもかかわらず、事故収束に「おもに従事している」のは、現地の保安検査官を含めて53人だといいます。汚染水対策の検討会合は10日に1回のペースです。
汚染水対策の体制をめぐっては、原子力規制委員会の専門家会合でも「どちらかというと再稼働に注力が多いように思えてしょうがない」との発言が出るような状況。「スピード感と結果を出してほしい」とした福島県の要請にこたえる十分な体制とはいえません。
逆転したやり方
原発問題住民運動全国連絡センターの伊東達也筆頭代表委員(福島県いわき市在住)の話 汚染水の海への流出が続き、漁民をはじめ住民の不安や怒り、不信感が増大しています。海の汚染が続く福島の原発事故が、米スリーマイル島原発事故や旧ソ連チェルノブイリ原発事故とまったく違った、特異な過酷事故であることを認識しているのでしょうか。根本的な事故対策をとるための体制整備こそ急務なのに、再稼働を急ぐために体制を手厚くして泥縄式に進めていくのはおかしい。国民の立場からみれば、逆転したやり方です。