主張

生活保護の省令案

申請権の骨抜きは許されない

 生活保護の利用抑制を狙う改悪生活保護法の7月施行にむけて、厚生労働省がまとめた同法の省令案に、法律家や市民団体などが批判の声を上げています。

 昨年の国会審議のなかで政府・与党は“法律を変えても運用は変わらない”と申請権の制限にならないことを繰り返していたのに、法律を運用するための省令案に、国会答弁などに反する内容が勝手に書き込まれているからです。あまりに姑息(こそく)なやり方です。国会審議も踏みにじって、国民の権利を侵害する省令をつくることは許されません。

“歯止め”を崩そうと

 昨年末に成立した改悪生活保護法は、口頭でも認められている生活保護の申請を文書による申請しか認めなくしたり、親族の扶養義務を強化したりするなど、国民が生活保護を利用しにくくする仕組みを盛り込んだ大改悪です。

 しかし、改悪を許さない国民の世論と運動、日本共産党の国会追及などによって、厚労省などは「運用は変わらない」と何度も国会で答弁し、参院厚労委員会は、国民に生活保護の申請をさせない「水際作戦」をしないように地方自治体に周知徹底することを求める決議をしました。改悪法が成立しても、その全面的な実行を許さない“歯止め”になりうるものです。

 ところが、厚労省が2月末にホームページで公表した省令案は、国会審議や決議で設けられた“歯止め”を骨抜きにする重大な内容が盛り込まれました。

 省令案は、文書による申請を大原則にすることを強調し、口頭の申請は、「特別の事情」があると福祉事務所が判断した場合などに限定した「例外」にする方針としました。これは明らかに申請をしめ出す厳格化です。また親族へ扶養が可能かどうかを確認する通知などを原則として行う、ともしています。国会答弁などで厚労省は、扶養についての通知などを親族に送ることは「極めて限定的な場合」としていました。「例外」を「原則」に逆転させたことは、扶養義務の強化そのものです。

 省令案どおりに改悪法が運用されれば、よほどの特別な事情が無い限り口頭申請は受け付けられなくなったり、親族に扶養要請通知がいくことを恐れて生活保護を申請することをためらったりする人が続出しかねません。国民の生存権にかかわる大問題で、国民世論に逆らい、国会審議の到達点にも反する省令案を決めることにはまったく道理はありません。

 厚労省は、省令案について国民からの意見募集を28日に締め切り、決定する予定です。日本共産党の高橋ちづ子衆院議員の追及に、田村憲久厚労相は「心配のないように意見募集の反応を踏まえて検討する」と表明しました。厚労省は、国民の声を受け止め、「水際作戦」の徹底・強化につながる省令づくりをやめるべきです。

逆行を許さない声を

 今回の省令案をめぐる事態は、国民の生存権を保障した憲法25条の理念に逆行する改悪生活保護法の危険な姿を浮き彫りにしています。安倍晋三政権による生活保護破壊の具体化を許さないたたかいがいよいよ重要です。国民の命と暮らしを守る「最後の安全網」である生活保護をはじめとする社会保障を再生・拡充させる世論と運動を広げることが急がれます。