主張

安保法制懇

「精緻な議論」とは程遠い

 安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は来週にも、海外での自衛隊の武力行使を可能にするよう、解釈改憲を求める報告書を首相に提出します。首相は「(安保法制懇の)結論が出て、憲法解釈(変更)の必要があれば閣議決定を行い、国会で議論していきたい」(4月29日)と述べ、報告書を解釈改憲の錦の御旗にしようとしています。しかし、安保法制懇が解釈改憲を求めるのは既定路線です。見え透いた出来レースは許されません。

「憲法学者」1人だけ

 安保法制懇は、第1次安倍政権時代の2007年に首相お気に入りの委員でつくられ、08年に一度、報告書を出しています。第2次安倍政権発足により、13年2月に同じ委員で再開されました(後に1人追加)。「集団的自衛権の問題を含めた、憲法との関係の整理につき研究を行う」というのが設置の趣旨ですが、驚くべきことに、14人の委員中、「憲法学者」の肩書が付く委員は1人しかいません。

 再開された安保法制懇の第1回会合で座長の柳井俊二元外務次官はすでに、08年報告書が示した基本認識で委員のコンセンサス(意見の一致)があることを明らかにしています。その基本認識とは、憲法9条は「個別的自衛権はもとより、集団的自衛権の行使や国連の集団安全保障への参加を禁ずるものではない」(08年報告書)というものです。戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定めた9条の下で、「他国防衛」や多国籍軍参加といったあらゆる形態の海外での武力行使が可能だという暴論です。

 首相は、安保法制懇では「幅広い代表の方々」によって「精緻な議論」がなされているとうそぶいています。しかし、公開されている議事要旨によると、ある委員は「集団的自衛権行使容認の問題は、憲法解釈の問題ですらなく、単なる政策の問題である」とし、「(行使容認は)政策的に決定すればいい」と述べるなど、「憲法との関係」で「精緻な議論」が行われているとは到底言えません。

 安保法制懇の北岡伸一座長代理(国際大学学長)は2月、集団的自衛権行使容認にあたり、「放置すれば日本の安全に大きな影響がある」などの5条件を示しました。ところが、再開以来6回にわたる会合の議事要旨を見ても、5条件を議論した形跡はありません。安保法制懇の議論がいかにかたちばかりであるかを示しています。

 条件付きの「限定」容認といっても、集団的自衛権行使を解禁することに変わりありません。時の政権の政策判断で行使の範囲は際限なく広げることができます。

米国にどこまでも

 北岡氏は、安保法制懇では「地理的限界を設けることは適切ではない」というコンセンサスがあると述べています(第4回会合後の記者説明)。5条件には、攻撃を受けた国から集団的自衛権行使の要請があることも挙げられています。求めがあれば米国が世界中で起こす戦争にどこまでも付き従うことにもなりかねません。

 首相周辺は、安保法制懇の報告書を受けて「政府方針」を発表、与党協議を経て閣議決定というシナリオを描いています。しかし、首相がなすべきなのは、国民多数の反対世論に耳を傾け、解釈改憲の企てをきっぱりやめることです。