主張
TPP農産物関税
撤廃も削減も国会決議違反だ
4月末オバマ米大統領が来日して開かれた日米首脳会談で環太平洋連携協定(TPP)の日米交渉について、「前進する道筋を特定した」と共同声明に書き込んだことをめぐり、「実質合意」したと呼べるのか、報道が分かれています。とりわけ牛肉・豚肉など最後まで焦点となった農産物の関税問題で、具体的な引き下げ(削減)幅まで合意したのか見方が分かれています。撤廃はもちろん削減でも、国内農業に重大な打撃を与えるのは免れません。関税の撤廃はもちろん削減も、自民党の選挙公約や国会決議に違反しています。
「関税容認」はありえない
牛肉・豚肉の輸入問題は、コメ、麦、乳製品、砂糖などとともに、農産物の中でもとりわけ日本農業への打撃が大きい「5項目」として、交渉の焦点となってきました。TPPは農産物だけでなくあらゆる工業製品やサービスについても関税をゼロにし、規制を撤廃するのが原則です。文字通り「国の形」そのものを変えるものであり、農業者はもちろん労働者や医療・教育関係者などが強く反対してきたのに、民主党政権が交渉参加を打ち出し、自公政権が復活したあと安倍晋三政権が昨年3月、参加を表明しました。TPPに参加を表明した12カ国による交渉とともに、大きな比重を占める日米の交渉がおこなわれています。
今回の日米首脳会談で、共同声明の発表が大統領の離日直前までずれ込む異常な経過をたどって「前進する道筋を特定した」との表現を盛り込んだことに対し、一部の新聞やテレビは農産物5項目と自動車の「全ての項目で合意した」とし、現在38・5%の牛肉の関税は10年程度の期間をかけて9%に、豚肉は最も安い豚肉の1キロ最大482円の税率を15年程度かけて50円に下げることになったと報道しています。政府は「合意に至ってない」と一部の報道を否定していますが、関税引き下げの駆け引きがおこなわれ、「進展」があったことは否定しません。
一部にはコメ、麦を含め農産物の関税が残ったことを「関税撤廃」ではなく「関税容認」だと報道するものもあります。これはとんでもないごまかしです。もともと安倍政権がTPP参加を決めた際、「重要5項目」が守れない限り「交渉から脱退も辞さない」と公約しており、関税引き下げが公約に違反するのは明らかだからです。
安倍政権が参加を決めた直後、衆参の農水委員会がそれぞれ全会一致で決めた決議は、農産物は「引き続き再生産可能になるよう除外又は再協議の対象とすること」を求めています。TPP交渉の政府資料では「除外」とは「関税の撤廃・削減の対象にしない」ことであり「再協議」とは「将来の交渉に先送りする」ことです。「重要5項目」が確保できなければ「脱退も辞さない」としています。「関税容認」などとごまかす余地がないのは明らかです。
関税引き下げでも大打撃
だいたい牛肉なら現在の約40%の関税を一桁に引き下げるような大幅な引き下げで、日本の農業が守られるはずがありません。たとえ関税の一部が残っても、農家は壊滅的な打撃を受けます。
もともと「関税撤廃」が原則のTPPで交渉を続けても大幅な譲歩が迫られるだけです。TPPからの撤退こそ急ぐべきです。