90年代 日本の要請拒否

 日本の自衛のためでなく、他国のために武力行使する集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議で、公明党は「紛争時に邦人輸送をする米艦船の防護」を認める方向で党内調整していると報じられています。安倍晋三首相が5月15日の記者会見でパネルまで示してあげた二つの事例のうちの一つです。しかし、この事例が米国との関係で非現実的であることが改めて注目を集めています。

 防衛省の研究機関である防衛研究所の『防衛研究所紀要』(2002年2月)に掲載された「軍隊による在外自国民保護活動と国際法」によると、「アメリカの自国民救出活動の特徴は、国籍による優先順位があることである。順位はアメリカ国籍保持者、アメリカグリーンカード(永住権)保持者、イギリス国民、カナダ国民、その他国民の順である」としています。

 日本共産党の志位和夫委員長は7日放映のBS番組でこのことを指摘し、「日本は最後の最後に出てくる。アメリカの艦船に頼ること自体が無責任かつありえない話だ」と述べ、日本政府の責任で自国民保護をすべきだと主張しました。

 また、1997年に改定された日米軍事協力の指針(ガイドライン)では、日本政府が米国の実施する項目として「米軍による邦人救出」を要請し、断られたという経緯があります。集団的自衛権に関する与党協議のメンバーで、自民党の「安全保障法制整備推進本部」の事務総長を務める中谷元衆院議員(元防衛庁長官)は、この経緯について次のように証言しています。

 「当初、ガイドラインにも米軍による邦人の救出を入れて、米国が実施する項目というようなことでお願いしておったんですが、最終的にはアメリカから断られました」「たくさんの国からそういうことを頼まれると困る、自分のことは自分でやりなさいというようなことで、当然のことだと思います」(1999年3月18日衆院ガイドライン特別委)

 この経過からも、集団的自衛権の行使容認のために、「米艦船による邦人輸送」を持ち出すこと自体、国民をあざむくものであることは明白です。