政府は7月1日、集団的自衛権の行使容認などを明記した解釈改憲を閣議決定する狙いです。戦後六十数年続いてきた、「海外で武力行使しない」という憲法9条の解釈を変え、海外で無限定の武力行使を可能にするため、安倍政権は国民だましの手法を取ってきました。その全過程を検証します。

安保法制懇(昨年2月~今年5月)

「結論ありき」の会合

 安倍晋三首相が第2次政権発足後、最初に着手したのは、自身の私的諮問機関である「安保法制懇」に諮問させることでした。

 「有識者懇談会」の体裁をとっていますが、実態は委員すべてが首相と考えを同じくする、「結論ありき」の会合です。大方の予想どおり、集団的自衛権の行使も多国籍軍参加に道を開く集団安保も、海外でのあらゆる武力行使を可能とする報告書を5月15日に提出。「憲法9条の下でも自衛戦争(=侵略戦争以外の武力行使)は許される」とする、「芦田修正」(1946年、政府の憲法改正小委員会での芦田均委員長の提案)の採用を求めました。

首相会見(5月15日)

考え“小さく”見せる

 報告書を受け取った首相はただちに記者会見を開き、邦人を乗せた米艦の防護などのイラストを掲げ、「国民の命と暮らしを守る」と力説。「芦田修正」は採用しないと述べる一方、集団的自衛権の「限定的」行使に言及しました。また、「武力行使を目的として他国の戦闘に参加しない」と述べ、安保法制懇と比べて、自身の考えを“小さく”見せたのでした。

 首相は自公両党に検討を指示。その結論を踏まえて、「閣議決定」で解釈改憲を行う考えを示しました。

与党協議(5月20日~)

「密室」、内容非公開

 5月20日に始まった与党協議は、自公両党の幹部に加え、礒崎陽輔首相補佐官や高見沢将林国家安全保障局次長をはじめ、各省庁の幹部が出席して政府の原案を説明。両党の意見を聴取して「修正」する手法をとってきました。

 内容は完全非公開。国民が国家を縛る憲法の解釈を議論しているのに、国民を排除しての「密室協議」に終始してきました。

 その中で、集団的自衛権の行使容認以外にも、重大な提案がなされています。最たるものは、自衛隊の「戦地」派兵を大幅に拡大したことです。従来は海外派兵しても「戦闘地域で活動しない」という歯止めがありました。これを撤廃し、銃撃戦が行われているような「戦闘現場」でなければ、戦闘地域での活動を可能とする「3基準」を打ち出したのです。これは「閣議決定」にも盛り込まれる見通しです。

 加えて、高村正彦座長(自民党副総裁)が、従来の「自衛権発動の3要件」に代わる「武力行使の3要件」(別項)を提案。これについて、公明側は、「国民の生命、自由…が覆される明白な危険」などの文言から、「憲法上の歯止めがかけられた」などと評価しました。

 ところが自民側はこの3要件で、多国籍軍参加へ道を開く「集団安保」まで読みとるように主張。結局、高村座長は、集団安保容認に反対する公明党に“配慮”して「集団安保について議論しない」として決着を図り、閣議決定最終案をまとめました。ところが…。

想定問答集(6月下旬)

法制懇の結論に戻る

 政府は閣議決定文とは別に、国会対策用の「想定問答集」を作成していました。集団安保について、「『新3要件』を満たすならば、憲法上、『武力行使』は許容される」と明記。「武力行使」の地理的な限定も明記しておらず、憲法上の“歯止め”は「政府がすべての情報を総合して客観的、合理的に判断する」というもの。

 要するに、憲法9条の下で、集団的自衛権も、集団安保も、政府の判断で、地球上のどこであれ武力行使が可能という内容です。安保法制懇の結論に、限りなく近いものです。最初から、「結論ありき」だったのです。

安倍政権の弱さの表れ

 戦後六十数年間、続いてきた憲法解釈を一片の「閣議決定」で変えようとする安倍政権。それ自体が重大ですが、ここで見たように政府は国会に一切の説明をしないまま自公の密室協議に諮り、さらに閣議決定文に明記しない「集団安保」を盛り込んだ想定問答集まで作成するという、二重三重のだましの手口そのものも重大です。

 このような手法をとらざるを得ないのは、安倍政権の弱さの表れです。本来の野望である憲法9条の明文改憲も、改憲手続きの緩和も国民の反対で挫折。このため、解釈改憲に踏み切ろうとしているのですが、これもまともに国会論戦を乗り切る自信がないのです。このようにして押し付けられた「閣議決定」を、国民が受け入れるわけがありません。


武力行使の3要件

(1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること

(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと

(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと