最近、日本映画について海外の映画関係者が発言するニュースが続きました。
「今の日本映画にもの申す…「レベルが本当に低い!」 英映画配給会社代表が苦言」
「日本を愛するマーベル重役が語る映画『シビル・ウォー』の魅力」
前者は「邦画における作家の映画の減少」を嘆き、原因を予算の少なさと製作委員会に求めています。
後者は日本のマンガの実写化について、作り手のせいというより、予算と映画化をめぐる権利のあり方が複雑と語っています。「マーベルの映画は、ひとつのユニバース、ひとつのカンパニー、ひとりのプロデューサーで製作されています」。
一定の真実を含む提言なので、これに賛同する声もありましたが、僕としては違和感はぬぐえなかった。
前者は「予算の少なさ」をカバーするために発達したのが「製作委員会方式」である以上、矛盾がある。矛盾を解消するなら「どっかでかい単独スポンサーがいない限り問題は解決しない」という答えしかないけれど、そもそもそういう状況なら現在の状況にはなっていないわけで……。成績が悪い子に、成績をあげれば志望校に合格できるのに、といってる見たいな話です。 製作委員会方式の中で、クリエイティブの独立性をどう維持するかということこそが問題なのに、それ以前の指摘に留まっている。そういう意味では、聞いても聞かなくてもいい意見ではないかと。
後者の、マーベルの国際開発&ブランド・マネージメント部門のバイスプレジデントを務めるC.B.セブルスキーさんの話のほうは、確かにいい点を突いているかと思いました。
マーベルのユニバースは、マーベルのものなので、マーベルという会社が管理している。日本は原作者の思い、出版社の思惑、製作委員会の狙いそれぞれが「映画化」という船に乗っている恰好なわけです。
とはいえじゃあ、現状からマーベル式に近づけるとして、マンガのアニメ化を原作者、あるいは出版社(編集者)が一元的に管理すれば成功率が上がるかというと、そんなことはないわけで(なぜなら映像制作についてはノウハウがまったくないから)。
ぶっちゃけ、マーベルがうまくいっているのはシステムの後押しもあるけど、なにより担当のプロデューサーが映画のことも作品のこともわかっていて、かつ能力があるからなんじゃないか(つまり属人的な問題)というほうが大きいような気がしたりしました。
予算が少ない中で、国内市場に最適化した作品がまず作られるのはしょうがないわけで。その中にくだらないものが多々あるのは避けられない問題でしょう。予算が違うといってもハリウッド映画のトップ級と日本映画の一般的大作では二桁ぐらい予算が違うことがあると聞くと、「予算」で対抗するのはほぼムリなんですね。(しかも予算を使うにもノウハウがあるので、ポンと100億円の予算がついてもそれを効率的に使いこなすことはできない)。
突破口があるなら、予算に左右されない「作家性」(曖昧な言葉ですが)ある人間に、「国内でポピュラリティのある題材」を依頼していくという作戦と、その販路を東アジア全般に求めていく、ということの2点なのではないかなぁと外野からは思ったりします。
どうしてそんなことを思うかというと、アニメと外資系SVOD(定額制配信サービス)の関係がどうなっていくかを予想する時のポイントもそこにあるんじゃないかな、と愚行しているからです。
というわけで今回もいってみましょう。
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1.最近のお仕事紹介
2.Q&A
3.連載「理想のアニメ原画集を求めて」
4.お蔵出し原稿
最近のお仕事紹介
1.朝日カルチャーセンター新宿教室「アニメを読む」(東京)
5/21:『ジョバンニの島』
6/18:『心が叫びたがってるんだ。』
2.NHK青山文化センター「アニメを読む」
5月21日(土)13:30~「ロボットアニメの歴史」。『鉄腕アトム』『鉄人28号』から『新世紀エヴァンゲリヲン』まで、ロボットアニメは日本のアニメ史の中でも独特の地位を占めてきたサブジャンルです。このサブジャンルがいかに成立し、変化してきたかを、ビジネスとクリエイティブの両面から追っていきます。
https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1088222.html
3.SBS学苑パルシェ校「アニメを読む」(静岡)
5月29日(日)10:30~「女子向けアニメの歴史~魔法使いサリーからプリキュアまで~」
TVアニメ史上初という女の子向けアニメ『魔法使いサリー』からおよそ半世紀。女児・女性向けのアニメはどのような歴史をたどってきたのか。『セーラームーン』や『うたプリ』といったタイトルまで含め、視聴者の嗜好や年齢の多様化を追いかけます。
http://www.sbsgakuen.com/gak0130.asp?gakuno=2&kikanno=174048
4.栄・中日文化センター「アニメを読む」(名古屋)
『るろうに剣心』『進撃の巨人』『ちはやふる』などなど、現在、アニメ・マンガを原作とした実写作品が数多く作られています。2次元のアニメ・マンガを3次元化する時に、なにが起こるのか。『ハレンチ学園』『ルパン三世』といった過去の作品から、分水嶺となった『ピンポン』まで多彩な実写化作品を振り返りつつ、「実写化」がキャラクターに及ぼす影響について考えます。 http://www.chunichi-culture.com/programs/program_166148.html
Q&A
「なぜなにアニ門」で質問を募集しています。「件名」を「なぜなにアニ門」でpersonap@gmail.comまで送って下さい。文面にハンドル(名前)も入れてください。 あるいは、アニメの門チャンネルの有料会員は、アニメの門チャンネルページの掲示板サービスが使えますので、そこに質問をしていただいてもよいです。メルマガの下にあるコメント欄でも結構ですよー。
連載「理想のアニメ原画集を求めて」
文・水池屋(コーディネート:三浦大輔)
第16回『電脳コイル ビジュアルコレクション』
「神作画を解明!」という、ちょっと恥ずかしい帯が目を引くこの本は、2007年のアニメ『電脳コイル』の原画集。今が2016年なので、もう9年前の作品になるんですね。ということは、この本も8年前に出た本ということに。時が経つのはなんとも早い……。
『ロマンアルバム 電脳コイル』での板津匡覧・井上鋭・押山清高・首藤武夫座談会で、井上さんが『コイル』に参加した若手達について、「『コイル』の若手たち、各社が争奪戦なんですよ。金の卵でしょうね。」と言っていました。
8年の時間がその言葉を証明するかのように、この作品に参加した当時若手だった人達も、今ではアニメ業界を代表する人々となっています。
若手だけでなく『コイル』に参加したベテラン勢も、本田雄さんや井上俊之さんを代表として、劇場作品でしかなかなか名前を見かけない人達ばかり。
そもそも監督の磯光雄さんはミュージシャン・オブ・ミュージシャンズのアニメーター版と言っても過言ではない、日本を代表するアニメーター。『電脳コイル』はそんな磯さんの満を持しての監督作品でした。
いま見返すと、こんなに豪華な作画陣だったのかと驚くばかりです。井上俊之さんが毎週原画を描いているTVアニメなんて、もう今後出てくることはないでしょうね、きっと。
帯に名前が上がっている掲載陣も本田雄・平松禎史・近藤勝也・吉田健一と豪華な布陣。そんな、豪華な作画陣の集まった『電脳コイル』という作品ですが、この作品はSFジュブナイルながら、日常的な描写に力の入った作品でした。その中でも特に印象的だったのが、「走り」です。
アニメの動きとして描かれることも多く、基礎的な動きの走りですが、この作品では街の中を子ども達が走り回るシチュエーションが多く、シリーズを通してこだわって作画されていた動きでした。
キャラクターデザインと、初期では総作画監督や作画監督を担当していた、本田雄さんが得意とする動きでもあり、本田さんが作画監督をした第1話、第2話は本田さんの走りが堪能できるアニメになっており、『ビジュアルコレクション』にも原画が掲載されています。
本田さんだけでなく、全26話の原画を1冊にまとめた本なので、シリーズを通して実力派アニメーターの描いた様々なアングルでの走りの原画がまとめて見られる原画集となっています。アニメーター志望者の人が教科書の一つとして買うのにおすすめの1冊になっているのではないでしょうか。
巻末の磯さんのコメントにも、「タイムシートは最初、編集の労力上載せるのが難しいとのことでしたが、特に業界を目指す人への参考として欠かせないものだと思い原画が多いものに限り載せて欲しいと編集に無理をお願いしました」というコメントが有り、少なからずアニメーター志望者の目を意識した掲載内容になっているのではないかと思われます。
原画集として興味深いのは、監督が直接修正を入れている「監督修正」が数多く掲載されているところでしょう。
この本には、アニメーターとして活躍してきた磯さんが、監督の立場から修正を入れた絵が数多く掲載されており、巻末に掲載されている、絵コンテラフ(磯さんと第13話の平松禎史さんのラフが掲載されています)と合わせて、演出家・磯光雄の仕事集としても見ることができます。
絵コンテラフは磯さんが絵コンテを描くためのラフだけでなく、監督として各話数の絵コンテ担当者にイメージを伝えるためのラフも数多く掲載されており、絵コンテ用紙に描かれたものから、イメージボード的なもの、美術設定的なものまで掲載されており、資料的な価値が高い内容となっています。
監督修正でアニメーターと実際にどのようなやりとりが行われたかは、『季刊エス』22号での『電脳コイル』特集で、原画の掲載と磯さんのインタビューによって解説されていますので、そちらが参考になると思います。
『電脳コイル』は書籍が充実している作品で、磯さんの書いた企画書を書籍化した、『電脳コイル 企画書』。設定なども掲載されている『ロマンアルバム 電脳コイル』には、参加アニメーターへのインタビューや座談会、井上俊之さんが選んだ原画が井上さんの解説付きで掲載されています。
雑誌での特集になりますが、前出した『季刊エス』では、20号に原画とともに井上俊之さんのインタビューが掲載されており、22号では井上さんのインタビューを踏まえた上で改めて磯光雄さんへのインタビューをしているので、両方合わせて読むことで興味深い内容となっていると思います。
『ビジュアルコレクション』、『企画書』の2冊は発売してから、再販されることがなく、永年手に入りにくい状態が続いていたのですが、多くの復刻を望む声から「復刊ドットコム」より再販され、現在では手に入りやすい状態になりました。 『電脳コイル』も来年で放送から10年経つ作品となってしまいますが、この本はこれからも多くのアニメーター志望者の人達に参考とされることによって、長年残っていく1冊となっていくだろうと思います。
(『電脳コイル ビジュアルコレクション』/徳間書店/¥4,320)
お蔵出し原稿
WEBマガジン「トルネードベース」で連載した『アニメ喜怒哀楽』より第2回です。この回は「怒り」を入り口に話題を展開しています。
「大激怒~」の歴史的意味?
「怒」といえばいつも思い出す1シーンがある。といっても、そんなに肩肘をはった場面じゃなく、『ヤットデタマン』の大巨神(というか大馬神)の登場場面。
ピンときて、ははーん、と思った人には申し訳ないけれど、少々おさらいをします。
『ヤットデタマン』は81年から放映された「タイムボカンシリーズ」の第5作。タイムボカンシリーズの基本フォーマット通り、時空を超えてあるお宝を探す、というスタイルはいつも通りなのだが、『ヤットデタマン』には新機軸があった。それが人型の巨大ロボット、大巨神の登場。おそらく『機動戦士ガンダム』(79)によるロボットブームの余波なのでしょう。で、この大巨神は馬型の大天馬と合体してケンタウロス型の大馬神へとパワーアップする。
この大巨神(大馬神)はなかなか慈悲深く、三悪(本作での名はミレンジョ、コケマツ、スカドン)を一旦は成敗するものの、「罪を憎んで人を憎まず」ととどめを刺さない。ところが、助かった三悪は、大巨神が去ろうと背を向けるや否や、さっそく陰口をたたきはじめる。かくして、その陰口を耳にした大巨神は「大激怒~」と怒り、弓矢で三人にとどめを刺す。……と、これが毎週のルーティンとして繰り返されるていたわけだ。
慈悲深いわりに短気で、陰口で怒り出す巨大ロボットというのが、いかにもタツコノギャグ。ヒーロー性の強い巨大ロボながら、それまでのシリーズのおとぼけ感漂う動物メカたちとのギャップが、美味い具合に埋められていた。
さて、ここで注目したいのは、三悪が大巨神を罵る時に使う言葉。「鉄クズ」といった定番の悪口がある中、ひときわ印象に残るものがある。「扁平足」というヤツだ。