戯言養気集「みじかき部」から抜粋。
主役は例によって曲直瀬道三。
日本医学のパイオニアだけあって、医療関連の小噺は道三の登場率が高い。




ある日。
医師・曲直瀬道三の屋敷に顔色の悪い男がやって来た。

男は弱弱しい声で懇願する。

「道三先生ェ…
性欲の落ちる薬があったら売って下さい。」





患者の言葉に驚いた道三は思わず尋ねる。

「ええっ!?
性欲の落ちる薬ですか?
あの… 失礼な事を申し上げますが、貴方様の場合は逆なのでは?」

すると、男は微かに笑って答えた。

「妻共に飲ませたいので。」






戯言養気集

江戸時代初期に刊行された笑話集。
戦後期のお伽衆の小咄を集めてあり、織豊政権関係者の故事が多い。

著者不詳。



『曲直瀬道三』

曲直瀬道三は戦国期の医師。
皇室を始め、足利義輝・三好長慶・毛利元就らの有力大名の診察にあたった。
貴賤の分なく医事に尽くし、多くの後進を育てたことから医聖と呼ばれる。

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(曲直瀬道三肖像画)



『妻共』

昔の人は家を保つために側室を持ったので「妻共」と云う表現になっている。
この小噺を鑑みるに。
側室を維持するには甲斐性が必要であり、それは金銭面のみならず精力面でも必要とされたのかも知れない。