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「イツキさん?

さっきから上の空でどうしたんですか???」

気がつけば、上目遣いにのぞき込むツバサ“ちゃん”の顔。くるくるとした金色のクセっ毛が、前かがみにうつむくイツキくんの鼻先をくすぐるかと思うほどの距離間。

 

イツキ「あ! ご、ごめん!

  つい考えごとを…」

ツバサ「もしかして…

ワタシとのデート、つまらないですか?」

イツキ「まままままま、まさか!!

  そんなことないから!

  むしろ、一生の思い出にするつもりだから!」

 

“デート”という言葉に、イツキくんの身体ははじけたゴムのように跳ね上がり、緊張まじりのはにかみ顔でツバサくんに応えます。

『ったく、イツキのやつ、デレデレしちゃって▼

思えばこの天然っぷりのおかげで、こんなことになってるんだよな。イツキと一緒にアイドルになって、オレのこのカッコのこと打ち明けるつもりだったのに――』

 

ツバサ「――ま、コレはコレで面白いケドw」

イツキ「え!?」

 

『やばっ』

ツバサくん、楽しさのあまり“素”の声が漏れてますよ!

 

ツバサ「イツキさん、ど…どうかしたんですかぁ?」

イツキ「いま、友だちの声が聞こえた気がする……」

ツバサ「気のせいですよ!」

 

ごまかすようにイツキくんの腕に手をまわし、歩きだすツバサくん。レンガ敷きの歩道に二人のふぞろいな足音が響きます。

『本当は今日みたいな日が、打ち明けるチャンスなのだろうけど……』

チラリと横目でイツキくんの表情を伺うと、彼は屈託のない笑顔を返します。

『こ、この天然ボケ~~~~っっっ』

握る腕にわずかに力がこもり、ますます二人の歩調は乱れるのでした。

 

◆◆◆◆

 

イツキ「ああぁー!!

ツバサ「わっ!? どうしたの!?」

 

イツキくんのとつぜんの大声に、ツバサくんが振り返ると、彼は目を大きく開けてゲームセンター店頭の大型マシンを見つめています。マシンには大小さまざまなネコ?――ややブサイクなピンク色のマスコットが押しあいへしあい山積みに。

 

イツキ「この景品、やっぱりそうだ!」

 

『え? これ……オレの好きなゆるキャラじゃん』

その景品にはツバサくんも見覚えがありました。ネコともタヌキともつかないずん胴なシルエットと、何を考えているかわからない表情が気に入って、最近コレクションしているゆるキャラです。

 

イツキ「これ探していたんだ~。

  ――プレイしてもいいかな?」

ツバサ「も、もちろんですよ。ワタシも応援してますね!」

 

マシンは遠くに置かれたひときわ大きなマスコットの、これまた大きく開いた口にボールを投げ入れるというもの。マスコットは左右に不規則に動くうえ、口を開いたり閉じたり、けっしてカンタンとは言えないつくりになっています。

 

ぶんっ――……ぼふんっ

ツバサ「あぁ…惜しい!」

 

第一投はわずかにそれて、マスコットのほっぺたに。マスコットの顔をわずかに歪ませただけに終わりました。

 

イツキ「でも、コツはつかめたような気がするし

  次はイケると思う――よし!」

 

ぶんっ――……ばくんっ!!!!

ツバサ「わぁっ! 入った!」

 

狙いどおりのタイミングで、第二投は大きく開いた口のなかへ。

大型マスコットが手足と尻尾をぶるんぶるんとふるわせて、大当たりを祝福?すると、手前の景品口から小柄なマスコットのぬいぐるみがゴロンと飛び出してきました。

 

イツキ「えへへ、運が良かったのかな」

ツバサ「そんな、謙遜しないでください!

  さすがは元野球部ですね!」

イツキ「いやいや、そんな

  ――って、僕が野球部だったって話したっけ?」

 

『やばっっっ』

ツバサくん、またしても“素”が出てしまったみたいですよ!

 

ツバサ「そ、そんなことより!!!

  そのゆるキャラ、好きなんですか?」

イツキ「あぁ、僕じゃなくて友だちが、ね。

  グッズをスクールバックに下げているくらい」

ツバサ「へ、へぇ…」

イツキ「実はさっきのカフェの景品も、

このマスコットだったんだ。

  サプライズプレゼントしようと思ってさ」

 

『それって、モロにオレのことじゃんか』

ピンクのマスコットを手に嬉しそうに微笑むイツキくん。その笑顔はツバサくんへのプレゼントを手に入れることができた喜びからだったのです。

『イツキ、わざわざ休日返上してオレのために……?

 

イツキ「ここともコラボしてて良かった。

  喜んでくれるといいんだけどなー」

ツバサ「喜ぶにきまってます!

イツキ「わっ!?」

ツバサ「あ、ごめんなさいっっ

  でも、ワタシなら宝物にするくらい嬉しい――と思うから」

 

「嬉しいにきまってんじゃん!」と“素”でさけびたいのを、今回は必死に押しとどめて、ツバサ“ちゃん”として気持ちを伝えるツバサくん。

 

ツバサ「イツキさんって友だち想いなんですね!

  イツキさんみたいな素敵な友だちがいたら、

自慢に思っちゃうだろうな」

イツキ「ふぇ!? い、いや、そんなっ

  僕みたいなヤツなんて――

  むしろ、アイツにはいつも迷惑かけてるし……」

ツバサ「そのお友だちが羨ましいなぁ。

  ワタシにもこのゆるキャラ、取ってくれませんか?」

イツキ「そうなの?

  じゃあ、もう1個取ってプレゼントするよ」

ツバサ「ありがとうございます!

また、イツキさんのカッコいいところ

  見れちゃいますね▼」

イツキ「ご、ご期待にそえるようがんばるよっっ」

 

照れくさそうに向き直り、マシンに100円玉を投入するイツキくん。天然でぽやや~んとしているイツキくんだけど、今日の後ろ姿はどこか頼りがいがありそう…かも。

『これもオンナのコの姿だから見れたのかな?

イツキの努力か……なんかくすぐったいぜ

ありがとな、イツキ』

 

 

[つづく]

 

ストーリー:恵村まお・わたび和泉 / 脚色:Col.Ayabe