<イラストストーリー・第11話>

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(ここに、画像を大きめに入れる)

 

イツキ「みんな、ありがと~!!

  続いては――」

ツバサ「……」

イツキ「――ツバサちゃん?」

ツバサ「あっ、ごめんなさいっ!

  最後はこの曲、『どっちのスキ?』いくよ~!」

 

いつも通りのライブ、

でも、どこかうわの空。

『そうだよね、あんなのが届いたら…』

そう、また手紙が届いたのです。しかもそれは――

 

〈これで最後。今日はこの想いを、直接伝えにいくから〉

 

「このライブが終わったら、待ち伏せしているってこと!?」

胸の奥をつかまれるような圧迫感に、漏れる言葉。悲鳴まじりのイツキくんの言葉に、ツバサ“ちゃん”は「大丈夫…大丈夫に…する」と、うつむきがちに短く、そして低く呟きました…。

『ツバサちゃん…何を…』

ふと、気がつけば最後の曲も終わり、目の前には紅潮した笑顔。

 

ツバサ「楽しかった~!

  やっぱりライブの時間はあっという間だね」

イツキ「そ、そうだねっ」

 

そこにいるのは、いつも通りのツバサ“ちゃん”

そう、そのはず…

 

ツバサ「ここでみんなに大事なお知らせがあります」

 

でも――

 

ツバサ「みんなにずっと黙っていたことがあるの」

 

明るく、力強く、すこしだけ低い声。

 

ツバサ「ずっと秘密にしておこうと思ってた……

  でも、黙っていられなくなっちゃったんだ」

 

その声はますます低く、そしてイツキくんの聞きなれた声。

『ツバサ…ちゃん?』

 

ツバサ「ワタシ…実は―――いや」

 

金色に揺れるサイドポニーの付け根を抑えると、留めていたピンを外し――

 

ツバサ「オレは――オレたちはオトコなんです!

 

まっすぐにファンたちを見つめる眼、キリリと直線的な眉。

大きな口を開けてハキハキと話す姿に、ついさっきまでの華やかさは消え、イツキくんのよく知る“彼”が。

『ツ、ツバサっっ!?』

 

ツバサ「みんな、黙っててホントごめん!!

  みんなの応援、すっごく嬉しかった。

  ずっとこのまま続けられたら…って思っていたけど、

  けど――オレがオンナのコでいることで

  大切な人が傷つくってわかった。

  だから、もう続けることができないんだ。

  みんな、本当にごめんなさい。

  オレたち、フツーのオトコのコに戻ります!!!」

 

わっと、あふれ出したツバサくんの言葉。

大きく1回、ふかぶかと頭を下げると、彼は振り返り大股で真っ直ぐにステージ裏へと去っていきます。

 

イツキ「ツ、ツバサ!?

  ……み、みんな、ごめんなさい。

  あ、あ、ありがとうございました!」

 

 

◆◆◆◆

 

 

ツバサ「はぁ~、やりきったぁ~!」

 

楽屋裏の古ぼけたパイプ椅子にドカっと座り込むツバサくん。そのしぐさは、すっかりフツーのオトコのコ。

 

ツバサ「あれ? また手紙届いてんだ。

  ふふん♪ もう怖くないっての」

 

封筒を指先で摘まみ、不敵に笑って見せるツバサくん。

すべてが吹っ切れた彼でしたが、置いてきぼりをくらってしまった人も――

 

イツキ「ツバサ…、ツバサってば!」

ツバサ「――ごめん、イツキ。

  いままで騙していて」

イツキ「ホントに、ツバサ“ちゃん”がツバサだったんだ…」

ツバサ「イツキと一緒におもしろいことがしたくて…さ。

も、もちろん、隠すつもりはなかったんだぜ。

  でも、イツキが最初にカン違いするから、

  言い出すタイミングを逃しちゃった…ゴメン!!」

イツキ「なら、どうして突然…!?」

ツバサ「だって、こうすればストーカー野郎も目が覚めるだろ?

  …イツキにも、もう迷惑かかんないし!」

 

すまなそうに、でもイタズラっぽい笑顔を向けるツバサくん。

普段どおりの彼の態度が、イツキくんの不安も混乱もほぐしていくような気がします。

 

イツキ「そういうことなら……

  あらかじめ言っておいてよ、もうっ!」

ツバサ「あのぉ~、イツキ?」

イツキ「なに?」

ツバサ「それだけ?

  もっとこう…怒るとかパニくるとか…

  あると思ってたんだけど……」

イツキ「んー……なんとなく、気づいてた」

ツバサ「はぁ!?」

イツキ「むしろ、カン違いしたままで、ホントごめん!」

ツバサ「おまえがあやまるのかよ!

  オレ、騙してからかったり、デート誘ったりしてたんだぞ!」

イツキ「うわあああ! それは言わないでっ、恥ずかしいから!」

 

さてさて、二人とも何かを忘れていませんか?

そう、例の手紙――確かにもう心配ないとは言え、放っておくわけにもいかないのでは…。

 

ツバサ「そうだっ! 手紙、どうする?」

イツキ「いちおう、確認しよう。

  オトコだってバラして、逆上されたら大変だろ」

ツバサ「そ、そうだな――

  ツバサ“ちゃん”がオレだってわかっても

  守ってくれるんだ、イツキ♪」

イツキ「そ、そりゃ…当たり前だろ」

 

イツキくんがペーパーナイフで封を切ると、また紙片が一枚。それを読んだイツキくんは――

 

イツキ「え?」

ツバサ「なんて?」

イツキ「ええぇええ!!!?」

ツバサ「おい、なんて書いてあるんだよ!」

 

ギュギュっと顔をよせて紙片をのぞき込むツバサくん。そこにはこう書いてありました。

 

〈これまでの手紙は読んでくれましたか?

 あれは僕の気持ち、ツバサちゃんへの想いを

 歌詞にしたものです。気にいってもらえましたか?〉

 

イツキ&ツバサ「「はあああああああ!??」」

 

 

◆◆◆◆

 

 

小さな丸テーブルの上に上半身を預け、ぐったりとうなだれているのはツバサくん。

 

ツバサ「オレの決死の覚悟の告白は無意味だったってことーー?」

 

CherryLips』宛ての手紙は、ストーカーの告白ではなく、ファンが一小節ごとに送ってくれた歌詞だったのでした。

 

イツキ「うーん、そうだったみたい…あははは」

 

イツキくんもまた、向かいのパイプ椅子に腰かけ、そんなツバサくんの様子を眺めています。すっかり脱力、でも安心。

 

イツキ「ありがと、ツバサ」

ツバサ「ん?」

イツキ「僕のこと心配して、告白してくれたんだろ?」

ツバサ「ま、まあな」

 

顔を机につっぷしたまま、くぐもった声で答えるツバサくん。

イツキくんが、その明るい金色のクセっ毛に手を添えると、小さく首をすくめて、チラリと一瞬だけ彼に目線を向けます。

『イツキ優しいっ…って、オトコでもいままで通りでいいのか!?』

『ツバサ…本当にツバサなんだよな……

――って、僕、ツバサとデートしたり、き、き、キスしたりしたのか? うぅ~時間差で恥ずかしくなってきた!』

 

――と、ステージから何か聞こえませんか?

 

ツバサ「あれ? イツキ、みんなの声が…」

イツキ「本当だ……これって…」

 

『――リーップス! リーップス!!』

それは2人を呼ぶLipsコール!

 

ツバサ「…オレたち、オトコなのに?」

 

『――リーップス! リーップス!!』

彼らを呼ぶ声はさらに大きく、つよく。

『やめないでっ!』、『オトコのコでもいい…いや、そのほうが萌える!』なんて声まで聞こえてきます。

 

ツバサ「へへ…イツキ、準備いいか?」

イツキ「まだ、続けるんだ…これ」

 

そういうイツキくんも、いまはステージに向かうことに以前と違う、気持ちがわきあがってくることを感じました。

『もう少しだけ、やってみよう。

そうしたら、見えてくると思う。自分のやりたいこと…そして、

ツバサを見ているとあふれてくる、この気持ちが』

 

ツバサ「それじゃ、行くぞ!」

イツキ「うん!」

 

スポットライトの光と歓声に包まれたステージの上へ、大きく駆け出していくイツキくんとツバサくん。

 

ツバサ 「みんなー!」

イツキ 「おまたせ!!」

イツキ&ツバサ「オトコのコアイドル

CherryLips』です!!!!」

 

[おしまい]

 

……

………

ツバサ「ところで、無くなった弁当って???」

イツキ「あれは…母さんが失敗に気づいて

カバンから取り出したらしくって……」

ツバサ「ヘンな電話は?」

イツキ「スマホを買ったばかりのおばあちゃんが……」

ツバサ「な…な…な…

  イツキ家のおバカ~~~!!!」

 

ストーリー:恵村まお/ 脚色:Col.Ayabe


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