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  • イラストストーリー最終回シナリオ掲載!

    2020-04-30 18:31


    <イラストストーリー・第11話>

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    (ここに、画像を大きめに入れる)

     

    イツキ「みんな、ありがと~!!

      続いては――」

    ツバサ「……」

    イツキ「――ツバサちゃん?」

    ツバサ「あっ、ごめんなさいっ!

      最後はこの曲、『どっちのスキ?』いくよ~!」

     

    いつも通りのライブ、

    でも、どこかうわの空。

    『そうだよね、あんなのが届いたら…』

    そう、また手紙が届いたのです。しかもそれは――

     

    〈これで最後。今日はこの想いを、直接伝えにいくから〉

     

    「このライブが終わったら、待ち伏せしているってこと!?」

    胸の奥をつかまれるような圧迫感に、漏れる言葉。悲鳴まじりのイツキくんの言葉に、ツバサ“ちゃん”は「大丈夫…大丈夫に…する」と、うつむきがちに短く、そして低く呟きました…。

    『ツバサちゃん…何を…』

    ふと、気がつけば最後の曲も終わり、目の前には紅潮した笑顔。

     

    ツバサ「楽しかった~!

      やっぱりライブの時間はあっという間だね」

    イツキ「そ、そうだねっ」

     

    そこにいるのは、いつも通りのツバサ“ちゃん”

    そう、そのはず…

     

    ツバサ「ここでみんなに大事なお知らせがあります」

     

    でも――

     

    ツバサ「みんなにずっと黙っていたことがあるの」

     

    明るく、力強く、すこしだけ低い声。

     

    ツバサ「ずっと秘密にしておこうと思ってた……

      でも、黙っていられなくなっちゃったんだ」

     

    その声はますます低く、そしてイツキくんの聞きなれた声。

    『ツバサ…ちゃん?』

     

    ツバサ「ワタシ…実は―――いや」

     

    金色に揺れるサイドポニーの付け根を抑えると、留めていたピンを外し――

     

    ツバサ「オレは――オレたちはオトコなんです!

     

    まっすぐにファンたちを見つめる眼、キリリと直線的な眉。

    大きな口を開けてハキハキと話す姿に、ついさっきまでの華やかさは消え、イツキくんのよく知る“彼”が。

    『ツ、ツバサっっ!?』

     

    ツバサ「みんな、黙っててホントごめん!!

      みんなの応援、すっごく嬉しかった。

      ずっとこのまま続けられたら…って思っていたけど、

      けど――オレがオンナのコでいることで

      大切な人が傷つくってわかった。

      だから、もう続けることができないんだ。

      みんな、本当にごめんなさい。

      オレたち、フツーのオトコのコに戻ります!!!」

     

    わっと、あふれ出したツバサくんの言葉。

    大きく1回、ふかぶかと頭を下げると、彼は振り返り大股で真っ直ぐにステージ裏へと去っていきます。

     

    イツキ「ツ、ツバサ!?

      ……み、みんな、ごめんなさい。

      あ、あ、ありがとうございました!」

     

     

    ◆◆◆◆

     

     

    ツバサ「はぁ~、やりきったぁ~!」

     

    楽屋裏の古ぼけたパイプ椅子にドカっと座り込むツバサくん。そのしぐさは、すっかりフツーのオトコのコ。

     

    ツバサ「あれ? また手紙届いてんだ。

      ふふん♪ もう怖くないっての」

     

    封筒を指先で摘まみ、不敵に笑って見せるツバサくん。

    すべてが吹っ切れた彼でしたが、置いてきぼりをくらってしまった人も――

     

    イツキ「ツバサ…、ツバサってば!」

    ツバサ「――ごめん、イツキ。

      いままで騙していて」

    イツキ「ホントに、ツバサ“ちゃん”がツバサだったんだ…」

    ツバサ「イツキと一緒におもしろいことがしたくて…さ。

    も、もちろん、隠すつもりはなかったんだぜ。

      でも、イツキが最初にカン違いするから、

      言い出すタイミングを逃しちゃった…ゴメン!!」

    イツキ「なら、どうして突然…!?」

    ツバサ「だって、こうすればストーカー野郎も目が覚めるだろ?

      …イツキにも、もう迷惑かかんないし!」

     

    すまなそうに、でもイタズラっぽい笑顔を向けるツバサくん。

    普段どおりの彼の態度が、イツキくんの不安も混乱もほぐしていくような気がします。

     

    イツキ「そういうことなら……

      あらかじめ言っておいてよ、もうっ!」

    ツバサ「あのぉ~、イツキ?」

    イツキ「なに?」

    ツバサ「それだけ?

      もっとこう…怒るとかパニくるとか…

      あると思ってたんだけど……」

    イツキ「んー……なんとなく、気づいてた」

    ツバサ「はぁ!?」

    イツキ「むしろ、カン違いしたままで、ホントごめん!」

    ツバサ「おまえがあやまるのかよ!

      オレ、騙してからかったり、デート誘ったりしてたんだぞ!」

    イツキ「うわあああ! それは言わないでっ、恥ずかしいから!」

     

    さてさて、二人とも何かを忘れていませんか?

    そう、例の手紙――確かにもう心配ないとは言え、放っておくわけにもいかないのでは…。

     

    ツバサ「そうだっ! 手紙、どうする?」

    イツキ「いちおう、確認しよう。

      オトコだってバラして、逆上されたら大変だろ」

    ツバサ「そ、そうだな――

      ツバサ“ちゃん”がオレだってわかっても

      守ってくれるんだ、イツキ♪」

    イツキ「そ、そりゃ…当たり前だろ」

     

    イツキくんがペーパーナイフで封を切ると、また紙片が一枚。それを読んだイツキくんは――

     

    イツキ「え?」

    ツバサ「なんて?」

    イツキ「ええぇええ!!!?」

    ツバサ「おい、なんて書いてあるんだよ!」

     

    ギュギュっと顔をよせて紙片をのぞき込むツバサくん。そこにはこう書いてありました。

     

    〈これまでの手紙は読んでくれましたか?

     あれは僕の気持ち、ツバサちゃんへの想いを

     歌詞にしたものです。気にいってもらえましたか?〉

     

    イツキ&ツバサ「「はあああああああ!??」」

     

     

    ◆◆◆◆

     

     

    小さな丸テーブルの上に上半身を預け、ぐったりとうなだれているのはツバサくん。

     

    ツバサ「オレの決死の覚悟の告白は無意味だったってことーー?」

     

    CherryLips』宛ての手紙は、ストーカーの告白ではなく、ファンが一小節ごとに送ってくれた歌詞だったのでした。

     

    イツキ「うーん、そうだったみたい…あははは」

     

    イツキくんもまた、向かいのパイプ椅子に腰かけ、そんなツバサくんの様子を眺めています。すっかり脱力、でも安心。

     

    イツキ「ありがと、ツバサ」

    ツバサ「ん?」

    イツキ「僕のこと心配して、告白してくれたんだろ?」

    ツバサ「ま、まあな」

     

    顔を机につっぷしたまま、くぐもった声で答えるツバサくん。

    イツキくんが、その明るい金色のクセっ毛に手を添えると、小さく首をすくめて、チラリと一瞬だけ彼に目線を向けます。

    『イツキ優しいっ…って、オトコでもいままで通りでいいのか!?』

    『ツバサ…本当にツバサなんだよな……

    ――って、僕、ツバサとデートしたり、き、き、キスしたりしたのか? うぅ~時間差で恥ずかしくなってきた!』

     

    ――と、ステージから何か聞こえませんか?

     

    ツバサ「あれ? イツキ、みんなの声が…」

    イツキ「本当だ……これって…」

     

    『――リーップス! リーップス!!』

    それは2人を呼ぶLipsコール!

     

    ツバサ「…オレたち、オトコなのに?」

     

    『――リーップス! リーップス!!』

    彼らを呼ぶ声はさらに大きく、つよく。

    『やめないでっ!』、『オトコのコでもいい…いや、そのほうが萌える!』なんて声まで聞こえてきます。

     

    ツバサ「へへ…イツキ、準備いいか?」

    イツキ「まだ、続けるんだ…これ」

     

    そういうイツキくんも、いまはステージに向かうことに以前と違う、気持ちがわきあがってくることを感じました。

    『もう少しだけ、やってみよう。

    そうしたら、見えてくると思う。自分のやりたいこと…そして、

    ツバサを見ているとあふれてくる、この気持ちが』

     

    ツバサ「それじゃ、行くぞ!」

    イツキ「うん!」

     

    スポットライトの光と歓声に包まれたステージの上へ、大きく駆け出していくイツキくんとツバサくん。

     

    ツバサ 「みんなー!」

    イツキ 「おまたせ!!」

    イツキ&ツバサ「オトコのコアイドル

    CherryLips』です!!!!」

     

    [おしまい]

     

    ……

    ………

    ツバサ「ところで、無くなった弁当って???」

    イツキ「あれは…母さんが失敗に気づいて

    カバンから取り出したらしくって……」

    ツバサ「ヘンな電話は?」

    イツキ「スマホを買ったばかりのおばあちゃんが……」

    ツバサ「な…な…な…

      イツキ家のおバカ~~~!!!」

     

    ストーリー:恵村まお/ 脚色:Col.Ayabe


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  • 第9話イラストストーリーシナリオ掲載

    2020-04-01 19:08



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    <イラストストーリー・第9話>

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    イツキ「うぅむむぅ……」

     

    今日のライブもまずまずの客入り。派手なパフォーマンスに、肩で大きく息をするツバサ“ちゃん”。雑居ビル2階の事務所に戻るなりペットボトルの水をゴクリゴクリ。それは自然な、ごくごく自然な仕草。そこにイツキくんは――。

    『ツバサ……』

    顎をクイと上げ、満足げに遠くを見つめる表情はどこか凛々しく、汗をぬぐおうと大振りに手のひらで髪をかき上げるさまはオトコらしさすら…。

    『こうして見ているとツバサに…

    オンナのコの格好をしたツバサに…見える???』

     

    ツバサ「今日のライブも楽しかったね♪」

    イツキ「え!? あ、うん。そうだね、ツバサちゃん」

    ツバサ「さいきん、よく考えこんでるね?」

    イツキ「そ、そんなことないよ?」

    ツバサ「そんなことあるよ~!

      なやみ事があるなら、ワタシに相談してほしいなっ」

     

    振り返ったツバサ“ちゃん”は、いつものようなイタズラっぽい笑みを浮かべ、弾けるような明るい声をイツキくんに向けます。

    『いや、気のせいだよな。こんな可愛いコがツバサなわけない!似てるだけ…ちょっと似てるだけ』

     

    ツバサ「イツキちゃん……

      こっちジロジロ見すぎだよ~」

    イツキ「わわっ、ごめんっ!!」

     

    更衣室に入ろうとするツバサ“ちゃん”を見つめていたことに気づき、あわてて目を伏せるイツキくん。と、ガラス机の上の手紙の束が目に入ります。シズカさんから渡されたファンレターたちです。ジワジワと『CherryLips』の人気は広がり、ファンレターを送ってくれる熱心なファンも増えてきました。シンプルな淡いブルーの便せん、小さなネコのキャラクターが描かれた便せん、さまざまな便せんの11つに込められたファンの気持ちを感じて、イツキくんの心もほんわかと温かくなります。

     

    ツバサ「あ、これは忘れないようにしないとね!」

     

    気がつけば、手早く着替えを終えたツバサ“ちゃん”も、ファンレターの束をのぞき込んでいました。

     

    ツバサ「まだ多いわけじゃないけどー―

      ライブごとに多くなっている気がするよね」

    イツキ「うん。やっぱりこういうのは嬉しいね」

    ツバサ「ホントだね!

      ――――あれ??」

     

    自分宛ての手紙をぱらぱらと眺めていたツバサ“ちゃん”。手を留めて首をかしげます。

     

    ツバサ「私宛てに、同じ封筒が何通も来ている。

      同じ人からかな?」

    イツキ「シズカさんが溜めちゃってたとか?」

    ツバサ「ふふふ、ありそー♪」

     

    2人の脳裏に、フワフワと落ち着きのない“敏腕”プロデューサーの顔が浮かびます。

     

    ツバサ「名前が無いケド………あれ?」

    イツキ「名前が書いていないうえに、小さなメモが一枚だけ?」

     

    それは薄っすら桜色をした短冊状の小さな紙片。ただ一言

    〈どうしてふたりで歩いていたの?〉――と。

     

    イツキ「……どういう意味だろう?」

    ツバサ「わかんないね…。

      ほかの手紙もこうなのかな?」

    イツキ「まさか――」

    ツバサ「もう一通……」

     

    〈ずっと見ていたよ〉

    やはり小さな桜色の短冊に、一言だけ記されています。

     

    イツキ「一気に雲行きが怪しく……

      ツバサちゃん、他のも開けてみて!」

    ツバサ「う、うん」

     

    〈あのゲームセンターの限定マスコット

     俺がとってあげたかった〉

     

    『ぜんぶ繋げると、僕とツバサちゃんがデートしたときのことじゃないか!? 誰かに見られていたってこと???』

    断片的な言葉に、思い当たる記憶。イツキくんは心の奥をギュッと握りしめられたような苦しさに、顔をゆがめます。

     

    イツキ「これ、シズカさんに相談したほうがいいよ!」

    ツバサ「え、大丈夫だよ」

    イツキ「でも、ストーカーっぽいよ!」

    ツバサ「それでも、応援してくれてる人に変わりはないから」

    イツキ「じゃあ、しばらくの間、一人で外出するのは控えよう。

      シズカさんに送ってもらうとか――」

    ツバサ「大丈夫だって。心配性だなぁ、イツキちゃんは~」

    イツキ「じゃあ、私が一緒に――――」

     

    と、言いかけてイツキくんは気づくのでした。

    『学ランしか着替え持ってないっっ!!!!!』

    オトコのコ姿を見せるわけにもいかず、まさかアイドル衣装のまま帰るわけにもいかず、ぐぬぬぬぅと唇をかみしめて唸るしかありません。

     

    ツバサ「ちゃんと人通りの多いところ

    通って帰るから大丈夫♪」

    イツキ「で、でも…」

     

    ニコニコを明るく答えるツバサちゃんの笑顔が、今回ばかりはイツキくんの不安をあおります。

    『ううううううぅ……こうなったらっ』

     

    イツキ「わかった! じゃあ、今日は先に帰るね!」

    ツバサ「え!? でも、そのカッコは――」

    イツキ「おつかれさまっ!」

     

    立ち上がるなり、荷物を乱暴につかむとイツキくんは事務所を飛び出していきました。

     

    ツバサ「う、うん…おつかれ……

      どうしたんだ、イツキのヤツ?

      あのカッコのままでいいのか?」

     

    止める間もなく、アイドル衣装のまま飛び出していったイツキくん。誰もいなくなった事務所に、ツバサくんの呆けた声だけが響きます。

     

    ツバサ「イツキ、心配してくれるのは嬉しいけど……、

      オレ、オトコだから平気だけどな」

     

    あらためて荷物をまとめると、ツバサくんも立ち上がり事務所を後にします。暖かくなったとはいえ、まだひんやりとした夜風が首すじを撫で、ツバサくんは身を震わせます。

     

    ツバサ「でも――参ったな。

    イツキとのデート、ファンに見られてたんだ。

      そして嫉妬された。イツキが危ない目にあわないと

      いいんだけど……」

     

    ――と。

     

    イツキ「ツバサちゃん!!」

    ツバサ「え!?」

     

    階段を下りた先、そこにいたのは学ラン姿のイツキくん。

     

    イツキ「偶然だね!」

    ツバサ「え、えっと……

    どうしたの? イツキさん」

    イツキ「偶然あったのも何かの縁だから――

      僕に家まで送らせてよ!!」

     

    『そうきたかーーーーーー!!!』

    目をキラキラと輝かせて“名案”をツバサくんに問うイツキくん。

    あわてて着替えてきたのでしょう。ハァハァと息が上がり、中途半端にメイクが残っています。

    『気持ちは嬉しい……けど、オレの家にまでついてくるのか!?』

    さぁ、どうするの二人とも!?

     

     

    [つづく]

     

    ストーリー:恵村まお/ 脚色:Col.Ayabe

     

     

  • イラストストーリー第7話シナリオ掲載(オーディオドラマはチャンネル会員になってお聴きください)

    2020-02-10 19:00

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

     

    「イツキさん?

    さっきから上の空でどうしたんですか???」

    気がつけば、上目遣いにのぞき込むツバサ“ちゃん”の顔。くるくるとした金色のクセっ毛が、前かがみにうつむくイツキくんの鼻先をくすぐるかと思うほどの距離間。

     

    イツキ「あ! ご、ごめん!

      つい考えごとを…」

    ツバサ「もしかして…

    ワタシとのデート、つまらないですか?」

    イツキ「まままままま、まさか!!

      そんなことないから!

      むしろ、一生の思い出にするつもりだから!」

     

    “デート”という言葉に、イツキくんの身体ははじけたゴムのように跳ね上がり、緊張まじりのはにかみ顔でツバサくんに応えます。

    『ったく、イツキのやつ、デレデレしちゃって▼

    思えばこの天然っぷりのおかげで、こんなことになってるんだよな。イツキと一緒にアイドルになって、オレのこのカッコのこと打ち明けるつもりだったのに――』

     

    ツバサ「――ま、コレはコレで面白いケドw」

    イツキ「え!?」

     

    『やばっ』

    ツバサくん、楽しさのあまり“素”の声が漏れてますよ!

     

    ツバサ「イツキさん、ど…どうかしたんですかぁ?」

    イツキ「いま、友だちの声が聞こえた気がする……」

    ツバサ「気のせいですよ!」

     

    ごまかすようにイツキくんの腕に手をまわし、歩きだすツバサくん。レンガ敷きの歩道に二人のふぞろいな足音が響きます。

    『本当は今日みたいな日が、打ち明けるチャンスなのだろうけど……』

    チラリと横目でイツキくんの表情を伺うと、彼は屈託のない笑顔を返します。

    『こ、この天然ボケ~~~~っっっ』

    握る腕にわずかに力がこもり、ますます二人の歩調は乱れるのでした。

     

    ◆◆◆◆

     

    イツキ「ああぁー!!

    ツバサ「わっ!? どうしたの!?」

     

    イツキくんのとつぜんの大声に、ツバサくんが振り返ると、彼は目を大きく開けてゲームセンター店頭の大型マシンを見つめています。マシンには大小さまざまなネコ?――ややブサイクなピンク色のマスコットが押しあいへしあい山積みに。

     

    イツキ「この景品、やっぱりそうだ!」

     

    『え? これ……オレの好きなゆるキャラじゃん』

    その景品にはツバサくんも見覚えがありました。ネコともタヌキともつかないずん胴なシルエットと、何を考えているかわからない表情が気に入って、最近コレクションしているゆるキャラです。

     

    イツキ「これ探していたんだ~。

      ――プレイしてもいいかな?」

    ツバサ「も、もちろんですよ。ワタシも応援してますね!」

     

    マシンは遠くに置かれたひときわ大きなマスコットの、これまた大きく開いた口にボールを投げ入れるというもの。マスコットは左右に不規則に動くうえ、口を開いたり閉じたり、けっしてカンタンとは言えないつくりになっています。

     

    ぶんっ――……ぼふんっ

    ツバサ「あぁ…惜しい!」

     

    第一投はわずかにそれて、マスコットのほっぺたに。マスコットの顔をわずかに歪ませただけに終わりました。

     

    イツキ「でも、コツはつかめたような気がするし

      次はイケると思う――よし!」

     

    ぶんっ――……ばくんっ!!!!

    ツバサ「わぁっ! 入った!」

     

    狙いどおりのタイミングで、第二投は大きく開いた口のなかへ。

    大型マスコットが手足と尻尾をぶるんぶるんとふるわせて、大当たりを祝福?すると、手前の景品口から小柄なマスコットのぬいぐるみがゴロンと飛び出してきました。

     

    イツキ「えへへ、運が良かったのかな」

    ツバサ「そんな、謙遜しないでください!

      さすがは元野球部ですね!」

    イツキ「いやいや、そんな

      ――って、僕が野球部だったって話したっけ?」

     

    『やばっっっ』

    ツバサくん、またしても“素”が出てしまったみたいですよ!

     

    ツバサ「そ、そんなことより!!!

      そのゆるキャラ、好きなんですか?」

    イツキ「あぁ、僕じゃなくて友だちが、ね。

      グッズをスクールバックに下げているくらい」

    ツバサ「へ、へぇ…」

    イツキ「実はさっきのカフェの景品も、

    このマスコットだったんだ。

      サプライズプレゼントしようと思ってさ」

     

    『それって、モロにオレのことじゃんか』

    ピンクのマスコットを手に嬉しそうに微笑むイツキくん。その笑顔はツバサくんへのプレゼントを手に入れることができた喜びからだったのです。

    『イツキ、わざわざ休日返上してオレのために……?

     

    イツキ「ここともコラボしてて良かった。

      喜んでくれるといいんだけどなー」

    ツバサ「喜ぶにきまってます!

    イツキ「わっ!?」

    ツバサ「あ、ごめんなさいっっ

      でも、ワタシなら宝物にするくらい嬉しい――と思うから」

     

    「嬉しいにきまってんじゃん!」と“素”でさけびたいのを、今回は必死に押しとどめて、ツバサ“ちゃん”として気持ちを伝えるツバサくん。

     

    ツバサ「イツキさんって友だち想いなんですね!

      イツキさんみたいな素敵な友だちがいたら、

    自慢に思っちゃうだろうな」

    イツキ「ふぇ!? い、いや、そんなっ

      僕みたいなヤツなんて――

      むしろ、アイツにはいつも迷惑かけてるし……」

    ツバサ「そのお友だちが羨ましいなぁ。

      ワタシにもこのゆるキャラ、取ってくれませんか?」

    イツキ「そうなの?

      じゃあ、もう1個取ってプレゼントするよ」

    ツバサ「ありがとうございます!

    また、イツキさんのカッコいいところ

      見れちゃいますね▼」

    イツキ「ご、ご期待にそえるようがんばるよっっ」

     

    照れくさそうに向き直り、マシンに100円玉を投入するイツキくん。天然でぽやや~んとしているイツキくんだけど、今日の後ろ姿はどこか頼りがいがありそう…かも。

    『これもオンナのコの姿だから見れたのかな?

    イツキの努力か……なんかくすぐったいぜ

    ありがとな、イツキ』

     

     

    [つづく]

     

    ストーリー:恵村まお・わたび和泉 / 脚色:Col.Ayabe