こんにちは、おじゃぷろです。
MSフレキが主流な改造となり、今ではその中でも様々な流派が生まれるようになりました。最近はVZという新しい片軸シャーシが発売されるという動きがある一方、それに負けじと旧来のシャーシも改造技術が洗練されるなど、ますますミニ四駆界隈の盛り上がりを感じています。
その盛り上がりの中で僕が提唱した“ホエイル”という存在は、作り方や技術が一般に公開されている為か、その全体または一部を自身の改造に採用される方や“ホエイル”の派生を開発される方も多くいらっしゃるようです。一方で、加工が前提であったりハードルが高かったり、僕が以前ブログに書いていた考え方を読んでもよくわからない、という声もお聞きしています。
この記事は、ホエイルとは何か、または何を以ってホエイルなのか、そして“ホエイルの心得"をあらためて解説していきます。ぜひ記事を最後まで読んで、ホエイルの思想的かつ実践的な全体像をつかんでいただければと思います。
■ホエイルとはマシンの名前ではなく”スタイル”
「何を搭載すればホエイルなのか?」「どんな特徴があればホエイルなのか?」という質問をたまに見かけます。
実は僕が提唱した“ホエイル”というのはマシンの名前ではありません。
レーサーがマシンについて考える際、後述する“ある独自の着眼点”を”ホエイルの概念”と呼び、その”ホエイルの概念”に基づいたマシンをホエイルと呼べる、としています。
もう少し具体的に言うと、下記の2つが成立すれば“ホエイル”です。
1)”ホエイルの概念”または“過去のホエイル”に基づく。
2)レーサーが“ホエイル”と呼びたい。
1)について、マシンの新たな改造を作ることが得意な人(開発者)と、新たな改造を実際のレースに落とし込み結果を出すことが得意な人(運用者)がいるとするならば、“ホエイルの概念”を追求する人はホエイルの開発者であり、“過去のホエイル”を踏襲する人はホエイルの運用者と言えます。そこには、開発する人と運用する人が共に手を取り合ってホエイルを進化させていければ、という願いがあります。
また僕が“ホエイルの概念”を追求した結果、具現化した“ギミックの集合体”そのモデルを「ホエイルシステム MS~」と名付けています。
2)について、「ホエイルと呼びたい」と思っていても、”ホエイルの概念”または“過去のホエイル”の一部も踏襲していなければ、「どこらへんがホエイルなの?」という疑問は出てくると思います。逆に1)で掲げた”ホエイルの概念”または“過去のホエイル”に基づいていても、「ホエイルと呼びたくない」という人もいることでしょう。
ですから、他人のマシンを「ホエイルではない」とか「ホエイルだ」と決めつけずに、レーサー自身の内規としてお心置きいたただければ幸いです。
つまり、ホエイルとは具体的な改造を指すマシンの名前ではなく、あくまで概念の名前であり、もっとカジュアルな言い方をすれば“スタイル”と表現するのが適していると思っています。
まとめると……。
“ホエイル”とはマシンの”スタイルの名前”
“ホエイルシステム”はモデルの名前。
“ホエイル”というスタイルを開発・運用する人のマシンを“ホエイル”と呼べる。
■“ホエイルの概念”と“過去のホエイル”について
“ある独自の着眼点”それがホエイルの概念である、と先程ご説明しました。では「“ある独自の着眼点”とはなんぞや?」という疑問にお答えしようと思います。
“ある独自の着眼点”=ホエイルの概念は2種類あります。ひとつはホエイルシステムのバージョンでいうところの「MS3.2まで」に採用された概念と、もうひとつはその進化版である「MS4.0以降」に採用された概念です。
MS3.2までのホエイルの概念
- 矢のようにきれいにまっすぐ飛ぶように
- 強い制振性を意識する
- ズレた際の補正能力を高める
- (※ミニ四駆超速ガイド 2015参照)
MS4.0以降のホエイルの概念
- 多層化ジェルボール…表面材質・柔らかさ・形状の選択性と"層"の解釈
- 極小の一点…パーツがより重心に近いほど危機回避能力が高いとする、パーツ構成の目標
……と言っても、具体的にどのようなイメージかわからないこともあると思いますので、参考に下記の例を挙げてみました。
MS3.2までのホエイルの概念の実装
- 「矢のようにきれいにまっすぐ飛ぶように」調整できるピボットの幅の調整構造
- 「強い制振性を意識する」ためのフロント提灯とフレキ
- 「ズレた際の補正能力を高める」ためのATバンパーのアンダーガード
MS4.0以降のホエイルの概念の実装
- 壁に乗り上げたときにマシンが摩擦で横に回りにくいよう接触部分にパッシングシールを貼る(表面材質)
- 壁や床面に当たりやすいパーツをできるだけ反発をもらわないように「ミニ四駆キャッチャー」などの柔らかい素材を採用する(柔らかさ)
- 壁に乗り上げたときにすぐにコース内に復帰できるようにアンダーガードを曲面にする(形状)
- 壁に乗り上げたときに"マシンを復帰させる"ためのパーツと、"壁を回避する"ためのパーツ2つを状態分けし利用する("層"の解釈)
- イレギュラー挙動を発生しやすいブレーキプレートやアンダーガードの位置を重心に近づけたり取り除くことで、重心に近いパーツを中心にマシンを組み上げる(極小の一点化)
このように”ホエイルの概念”を追求していくことで、実践的にマシンを改善していきます。
また”ホエイルの概念”を追求することで、過去に生まれたパーツには下記のものがあります。これらは”ホエイルの概念”を追求することで生まれた”過去のホエイル”と言えるでしょう。
- おじゃぷろ式フレキ
- リフター付きフロント提灯
- アイアンテール
- ATバンパー
- アンカー
これらのどれか一つで運用していたとしても、それは
”過去のホエイル”に基づいています。そこで、さらにご自身がそれを「ホエイルと呼びたい」と思えば、それはホエイルと言って問題ない、というわけです。
■ホエイルの情報を”自由でオープン”にする理由
ミニ四駆のレースには勝敗という要素が大きく存在するが故に、“技術を秘匿して独占的または寡占的に利用する者が優位に立つ”という宿命があります。さらに、現在のミニ四駆界隈はトップ層のマシンの改造レベルが飛躍的に底上げされた状況です。そんな環境の中で、レーサーがみな等しく技術を持ちレベルを上げられるかと言えばそうではありません。
しかしながら……。ある程度レベルが上がれば、実力者との差は縮まることもまた事実です。その時には、レースを競うことに楽しさを感じる場面が増えることでしょう。
繰り返しになりますが、勝者と敗者・強者と弱者・情報を持つ者と持たない者という対立構造がミニ四駆のレースには存在する以上、突き詰めていけばマシンの改造だけでなく、レーサーを取り巻く文化にも難しいものがあると感じています。
その難しさを、僕が提唱したホエイルによってある程度解消できないかと思っています。そして、ホエイルは皆が楽しめる環境において、話のネタにできたり、共有できる技術でありたいとも思っています。
例えばレースで上位を目指す人にとっては、ホエイルの技術を使うことで「勝負になるため」に費やすであろう数ヶ月~十数ヶ月の「運用時間」を50~100時間ほどの「製作時間」に転化し、一旦自分のマシンのレベルを「勝負ができる」程度に引き上げることができます。
一方で、レースをしているグループの中でもホエイルの技術でバンパーなどを作ってみたり、検討してみたりすれば、知らない人ともコミュニケーションのきっかけになることでしょう。
そのためにホエイルの技術は「自由でオープン」であることが必要だと考えています。
■ホエイルの心得 ver2.0
誰もが話題にでき、楽しめることを目指すホエイルの技術は“自由でオープン”です。
そして自由でオープンな文化とレーサーの"迷い"から守るために、僕は全く強制するつもりはありませんが、こういうスタンスや心得で接することができると好ましいなーと思っていることはあります(※おじゃぷろの"とりま"で
公開している内容から更新しました)。
1)ホエイルで学んだ概念・技術・ノウハウは公開できるようにしましょう。
2)『役に立つこと』に目を向けましょう。
3)人それぞれ『大切にしていること』があります。
4)可能性に挑む姿の邪魔・批判をしてはいけません。
5)考えた先に必ず何かはあります。それが”壁”か”金脈”かはわかりません。
では、それぞれ解説していきます。
1)ホエイルで学んだ概念・技術・ノウハウは公開できるようにしましょう。
すべての人がすべての概念や技術に"自由に"触れられることが望ましくあります。
そのために、公開された情報から考え、考えたものをまた公開する。このような流れが好ましいと考えます。
積極的に公開せよとまでは言いませんが、聞かれたら隠すことなく答えられるとよいですね。
2)『役に立つこと』に目を向けましょう。
アイデアは『役に立つ』ためにあります。発明や具現化できたことは"功績"ですし、その事実を知ることは他者の役に立つでしょう。
しかし"功績"を起源の主張などで奪い合えば、"役に立たない争い"に囚われることになります。発明や具現化できた事実に変わりがないなら、その事実こそが誰もが獲得できない糧であり誇りです。
その糧をもって『未だ発明・具現化されていない役に立つこと』に目を向けるとよいと思います。
3)人それぞれ『大切にしていること』があります。
人それぞれある『大切にしていること』が『正解』よりも重要だと考えます。
同じマシンを見ても『柔らかさ』を見る人もいれば、『モーターの速さ』を見る人もいますし
ボディの『かっこよさ』を見る人も、背景の『物語』に浸る人もいます。同じように店舗・レースの運営やマシンにもそれぞれの『大切にしていること』が現れているはずです。
故に、自分が『正しい』と思ったことが、他者には『重要ではない』または『役に立たない』ことが多々あります。それは大人でも子供でも、男でも女でも関係がありません。自分が『正しい』と思った時こそ、相手がどのような世界観かに目を向けることが必要だと、僕は思います。
4)可能性に挑む姿の邪魔・批判をしてはいけません。
可能性に挑むことこそ最も難しく、最も進化に貢献し、最も尊びたいことです。その結果が明白だったとしても。間違えていたとしても。愚かしいように見えても……。
その人がその人なりに頑張っているのです。見守りましょう。
助けを求められた時こそ、貴方の出番です。
5)考えた先に必ず何かはあります。それが"壁"か"金脈"かはわかりません。
ホエイルには前人未到の可能性がまだまだ残されています。
故に自身で考え、自身で切り開くことに意味があります。それが"壁"か"金脈"かはわかりません。しかし結果はどうであれ、それが糧になりアイデアや判断の軸となります。
■ホエイルから“おじゃぷろ”の名前がなくなる日を夢見て
最近では、”フレキ+フロント提灯+ATバンパー(またはアンカー)”のマシン構成をよく見かけるようになりました。
ホエイルやホエイルシステムという名前がこの先残るかはわかりませんが、マシンに対する考え方や思想、ギミックが「おじゃぷろ」という名前から切り離され、自立して有り続けられるようになったとすれば……それは本当の意味でテンプレの仲間入りを果たせたのだと、少しだけ自負したいところであります。
以上、おじゃぷろのホエイルについてでした。