Artificial IntelligenceAI)と聞くと、二年ほど前に、とあるコンサルティング会社がやたらと打ち上げていた「シンギュラリティ」と言う言葉を思い浮かべてしまう。

2045年には、シンギュラリティが起こると言うのだ。シンギュラリティ (singularity) とは、人工知能(AI)自身の「自己フィードバックで改良、高度化した技術や知能」が、「人類に代わって文明の進歩の主役」になるという想像上の事象だ。簡単に想像してみると、人間と同じ学習能力を備えた人工知能が自らの学習能力を向上できる機能があるとすれば、限りなく学習能力と処理スピードが向上していき、あっという間に人類の能力を越える存在になり、人類の脅威となるという概念でもある。 

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しかし、この概念は、今の技術で呼ばれているArtificial IntelligenceAI)とは次元の異なる議論である。例えば、随分と前にチェスの世界チャンピオンを破り、クイズ大会で雑学世界一を競ってニュースになったコンピューターがあったが、あれは、データをプールして並列分散処理を行えば、実は人工知能は必要ない。敢えて言えば人工無能である。Siriが言葉を分析して、回答してくれるのと何一つ変わりがないものなのだ。Siriを使ってみればわかるだろうが、一定の言葉に関しては反応し、それ以外は、「すみません、よく判りません。」と反応する。一見、言葉を理解し、対応してくれるAIなのかと勘違いする人もいるだろうが、自身が持つデータベースとそれに伴うアクション以外には発展がない、改良を続けるには人手が必要なのである。

シンギュラリティの示す、「自己フィードバックで改良する。」とは、自分自身でコードを書き、自らの規定や枠組みを拡張する事を意味しているが、これは必要に応じて、アプリやライブラリを追加するとか、1万通りの手法を並列分散で処理してみるとか、といった事とは次元の異なる事で、コンピューターが自ら処理能力を拡張するという事を意味している。そんな事ができるようになるかどうかはさておき、そもそも、シンギュラリティの実現には、それだけでは程遠いのだ。

プログラマーの創造の過程をよく考えてみるといい。コーダーではなく、プログラマーである。プログラマーは、解決策はわからないが結果はどうしたい、という課題を与えられる。

 

これを解くプロセスは、

1.現状の分析。

2.結果を満たす条件の決定、テストの作成。

3.現在存在している解決手段の利用(つまり、ライブラリの利用)。

4.#3#2の結果が満たされない時のコードの追加、改変。

5.#2 を満たすまで、#4 に再帰する。

となる。







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つまり、そのコンサルティング会社が指摘している「シンギュラリティ」の実現課題は、#4 だけを意味しているが、現状で言われているAIが可能なのは、せいぜい #3 くらいである。

例えば、言語や文章のような非定型のデータを処理するのであれば、#4 は可能だ。言語処理部分をデータ条件に応じて自動コード生成し、再コンパイルする。これを再起的に繰り返せば、一定の処理結果を出せる。私自身も26、27年前にUNIXで、この程度のコードは書いている。非定型文の解釈においてコード拡張すること自体は私には問題ではない。しかし、非定型文以外の課題はどうすればいいのだろう?

問題はゴール、そのものの決定である。

結果を満たす条件の決定ができなければ、再帰的学習プログラムは無限ループに陥る。例えるなら、コンピューターゲームで何が勝敗条件なのか分からずに、ゲームに参加してしまったようなものである。コインを取る事なのか、モンスターを倒す事なのか、脱出口を見つけ出す事なのか、それとも複数のパーティが総合得点を競うゲームなのか知らずに、とにかくログインしてしまい、ログアウトも出来なければ、ゲームオーバーになる事もない、しかし、ゲームは続けなければならないという、そんな状態だ。これでは、Netflixで見られる「ソードアートオンライン」をさらに地獄にしたような動画は作れるだろうが、そんな動画を見せられている方はもっと辛い。

加えて、結果を満たす条件を決定付けるのに、現状の分析が必要になる。

現状分析を行うには現実世界は広すぎる。一定の仮定や方法論から始まり、現状を理解する上での間違った経験を総当たり的に繰り返す中で、最も現状に近いと思われる最適解を抽出して、それを基に、現状の分析を行わなければならない。

AIは不完全な世界では成立しない。これは、合理性を意味しているのではなくて、どのようにデータを取得したら良いか?どのようなデータを取得すべきか?を把握できない世界では AI は成立しないのである。

これはつまり、データの意味を解釈する存在が必要である、という事を意味している。

某コンサルティング会社が高々と宣伝している「シンギュラリティ」の実現課題は、人々が、まさにコンサルティング会社に求めたい過程と成果であり、与えたい課題なのだ。別の視点からみれば、「シンギュラリティ」をコンサルティング会社が議論すること自体が矛盾していると言えないだろうか?

さて、某大手クラウドサービスベンダーが提供しているAIサービスが一昔前からあるが、そのベンダーに勤めていた人によると、昔はインドにあるデータセンターのオペレーターがデータマイニングした結果を人手でサジェスションしたり、お知らせしたりしていただけ、だったそうだ。似たような話が日本にもあり、グラフや3次元可視化システムでデータを表示するのではなく、100文字ほどの文章をいかにもコンピューターが抽出したかのような形で印刷されたレポートに掲載しておくと、AIが文章で指示してくれた!などと勘違いしているマーケティング担当者が20年ほど前にたくさんいた。いや、10年ほど前にもいた。

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レポート作成処理の中に入って、文章を書いていたのは人間である。(笑)

いまだに、日本にはそうした事を理解できていない人が、 ゴマン といそうだ。

現在、最も先行している AI 技術は、ディープラーニング技術である。

各種のデータマイニング技術を駆使して、データからパターンや傾向を学習するもので、言語構造を問わない自然言語処理(NLP)や画像解析処理などが存在する。これをもっとも早く商業化してサービス提供しているのが、リッチレリバンスであり、業界では少なくとも18ヶ月は AI 技術で先行していると言われている。何ができるのかというと、各個人に最適な商品の推薦、推奨をリアルタイムで行う事ができる。1年前の自分や3ヶ月前の自分が欲しい商品ではなくて、今、欲しい商品をレコメンドする。そしてそれだけでなく、Webサイトをその人が注目している商品を中心に並べ替えて表示したり、検索結果でも各個人への最適な商品の推奨を行ったりできる。言語学的な正確性だけでなく、個人の嗜好と文脈に沿った検索結果を抽出する事ができる。例えて言うなら、レコメンドエンジンのAmazon Prime Nowだ。Prime Nowは2時間以内にお届けしてくれるだろうが、RichRelevanceに2時間と言う時間は必要ない、リアルタイムで商品のレコメンドをやってのける。更に極め付けは、Amazon Prime Before のようなサービス、現実に、Amazonにはそんなサービスは無いのだが、AIが必要な商品を予測して届けてくれるような、電子メールを使ったレコメンデーションサービスができる。つまり、各個人は、今は気が付いていないが、(時間軸としてのリアルタイムを超えて)予測的に、あなたは、この商品にきっと興味を持つ、あるいは必要になるであろう、という予測的なレコメンドまでやってのける。

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