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田畑 佑樹さん のコメント

 去年半ばまで、 Al Jazeera と The Guardian の英語web版の新着記事を読み比べる習慣があったのですが、昨年の(直近のではない)イスラエルによるイラン襲撃あたりから明らかに潮目が変わりました。パレスティナでの虐殺をいちおう世界的な問題として報じることができていた良心的左派の新聞こと The Guardian は、こと対イランの件になると、「イランの民にはアヤトラを追放する革命が必要だ」と、「民主制」という植民事業を輸出して恥じないいつもの英国の姿になったのです。あわせて、同時期の The Guardian には性や消費活動の「問題」をウェルビーイング的に論じる雑多なコラムも増えはじめ、割くべき紙面に関する何らかの判断変更が行われたかのようでした。

 既読記事の記録をつけているので遡れるのですが、前段落の転回があったのは去年の6〜9月で、皮肉にも同日の Al Jazeera に掲載された記事では、かつて英米が共同でイランに仕掛けた傀儡政権樹立こと Operation Ajax (←菊地さんもご指摘のとおり、Wikipedia の略述内容を読むだけで笑えるほど愚劣)を回顧し・その奸策でさえ自力で覆したイランの民衆の、真に民主的な力が称賛されていました。その逆として The Guardian はシリアでの変革に関するネガティヴイメージ撒布のほか、イランのハーメネイーについても「自国の“西毒化”を憂う、過激な思考の持ち主だ」などと悪魔化を試みたような論述があるなど、あの懐かしい鬼畜英国が2020年代のwebテキスト上にいきなり舞い戻ってきたかのような有様でした。ハーメーネイーが「西毒化」を嘆いていたのが事実だとして、その「西毒」がどの国の誰らによって・どのようにしてもたらされたかは問われないのですか? と、その記事執筆者の、自国の歴史に対する知識がどれほどのものかテストしたい衝動に駆られたほどです。同時期の Al Jazeera では、そもそも現在のシリアがこのような状況に追い込まれるまでの、フランス委任統治期も含めた非道の数々が批判されていました。ごく公平な史実とそこから学ばれる反省の水準から見て、 The Guardian(を読むような良心的左派の英国人たち)のエートスが反動化したことは明らかでしょう。むしろ英国の近現代史を踏まえると「(分割して統治、という)伝統への回帰」なのかもしれませんが。

 そのようにしてハーメネイーを悪魔化したい「民主主義」陣営の試みも虚しく、50年前にちゃんと革命の時期を経ているイランの民衆は英米のように愚劣な「民主化」に靡くことなく、自力で自国の問題を解決しようとしていた。つまり英米側にとってはイランの民衆を煽ってもハーメネイーは斃れないことが明らかとなった。なので、爆殺した(笑) という(笑笑笑) もう、イングランドの帝国回帰によってイスラエルとUSAさえもが一度も存在しなかった帝政期へ回春しているような有様で、ここまでの経緯があまりに明瞭に理解できるのも含めて、笑うしかありません。

"「前回までのあらすじ」すら確認しないまま、バーンって今回を見て、その感想を言わないと気が済まない、非常に危険な人々が日に日に増殖中"とはまさにこのことで、数年前にフランスでサムく広まった「ぼくは君たちを憎まないことした」ムーブメント(←かつてアフリカや中東の人々からどれだけ憎まれても仕方ないことをした側の人間が、被害者の高みに陣取って自分がかつて暴行した相手を「許す」という、無恥で無邪気なグロテスクさ)とか、マンチェスターでイスラーム武装集団によるとおぼしき爆破が起きたあと現地民が『Don't Look Back in Anger』を自然に合唱しはじめたとか、これら一群の白痴的エピソードは、歴史の教科書よりもマンガばかり読んでいた輩がネット空間に接続されて大いに煽られて政治を語るようになった時代の精神を雄弁に物語っています。ちなみにマンチェスターは1996年にもIRAに爆破されているのですが、まず、なぜそこまで多様性豊かな人々から自国が頻繁に爆破されなくてはならないのかをジョンブルの子孫たちは疑問に思うべきで、その手がかりの多くも歴史の教科書にあるわけです。
 まともに歴史を学んでいる側からすれば「怒りともに振り返りません じゃねえんだよ。どれだけの土地がお前らに荒らされて今もなお寸断状態にあると思ってんだ。さっさとベルファストも返しやがれ」と真っ当なアイルランド人なら言うでしょうし、現にアイルランドは「西欧」陣営の中でも最も熱心なパレスティナサポーターであるわけですが、パレスティナやイランのようなことが起こるたび当の英国が「これは許されないことだ、なんとか解決の糸口は見えないものでしょうか」的な良心ヅラでポジションを取るのが通例になりすぎて(笑) もう、罪責感によるフロイト的健忘(『マクベス』パターン)としても意味が通りすぎています。私も菊地さんと同じように英国なんかくたばれと思いますし、(90年代ブリットポップのファンはノエル・ギャラガーの「エイズで死ね」発言を面白がるような、皮肉な歌詞や毒舌を大いに好む人々だったので、そのマナーに則って書きますが)いっときイスラエル断固支持の姿勢を見せた後に慌ててかつての自分の言行を修正しはじめているトム・ヨークやジョニー・グリーンウッドなどは、梅毒が脳にまわって自分が誰かさえわからなくなったまま糞尿の海と化したベッドに浸かりながら数ヶ月かけてゆっくり死ねばいいと思います。


 話が変わるようですが、菊地さんはイラン出身(非ムスリム)のミュージシャンであり音楽研究家の Farya Faraji 氏をご存知ですか? 彼と菊地さんの間には、「男性ミュージシャンで、かつて自分が巻き込まれた性被害をカムアウトしている」という共通点があります。他にも、ワーカホリックな多作家・西欧中心(平均律以降)の音楽理論を研究しつつその普遍性に疑義を呈している・自身の音楽と映像作品が密接に結びついている・苛烈な知性とユーモアで支持を集めるものの見当違いなヘイターも多い・そしてヘイターを無視するのではなく相手側の過誤を指摘することでむしろ現状の世界に存在する偏向を明らかにする などの共通点もありますが。
 彼が7ヶ月前に YouTube に出した “Orientalism Part 2 : The Dark Side of Orientalism” という動画の後半でその内容が語られているので、ご興味あられましたらご覧ください。正直、性被害をカムアウトしているミュージシャンというだけでまだ世界的に多くなく、なおかつそれ関連の外傷記憶からか自殺してしまう例も決して少なくなかったので、 Farya氏や菊地さんのように性的な傷がそのまま音楽的な活力となっているような人の存在を繋ぐ必要があるかもと、分不相応ながら思っていました。Farya氏が受けたのは、「白人が多数の地域で、その現地の女性によって、イラン人男性が性的に暴行される」という、付け焼き刃のリベラリズムでは到底太刀打ちできないケースを慎重に追い・そこからオリエンタリズムがもたらす醜悪な現実世界での問題の所在を明らかにしたもので、私がここ数年で観た YouTube 上の作品で(この表現をあえて使いますが)一番面白かったです。

 いつか菊地さんにご紹介できればいいなとボンヤリ思っていたところ、イラン関連の話題が出たので以上記述しました。お時間ございましたら是非。
No.3
1日前
このコメントは以下の記事についています
 声を出す仕事ができないのでペン大は休んでいるんだが、今回、発熱はしてないので(また、花粉症は、処方薬でぴたりと止まった。筒井先生の「虚人たち」では、「主人公が、同じ日に、全く関係ない2つの大事件が降りかかる」という、それまでの虚構の不文律を破っているが、現在、僕の咽頭から気管支近くのエリアを牛耳っているのが、花粉なのか、花粉と風邪菌の協力体制なのか、花粉という旧弊を抑え込んだ風邪菌なのか、見当もつかない)何もしないで寝込んでいるわけにもいかず、「晩餐会試食の動画」を作成し、今は「 hair cut 100 XXXX FOOT WARK 」の紹介動画を作っている。    これは楽しいが、黒ひげ危機一髪こと嘉山正太監督が盛り上がって2カメ回したので、やはりゴダール派の僕としては<手持ち1カメにジャンプカットを入れて字幕に凝る>のが得意で、2カメになった途端、たったの2カメなのに、ハリウッド映画の
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