田畑 佑樹さん のコメント
このコメントは以下の記事についています
あまりに疲れていたので、正装のコーディネート以外、何も考えられなかった。しまった。と思ったのは、会場入りしてからだ。
僕を会場でアテンドしてくれたのは、 NHK 出版のノリ・田中という男で、もちろんこれはあだ名というか、つまり彼はペンギン音楽大学の卒業生なのだが、2メートル近い長身で、全体にボワンとした印象なのだが、デキる奴である(彼は「爆笑問題のニッポンの学問」からの付き合いである。つまり、相当なやり手だ)。
なので、移動しながら、彼に小声で
「あのさ、受賞したらスピーチが1分って、ここ、書いてあるんだけど、2分やったら強制退場させられたりする?」と聞くと「いやあ、先生だったら2分ぐらいは、、、、」と言ったので、僕は「そうお?」と確認してから、猛烈なスピードで脳内で草稿を書いて、実際に「受賞作は、、、、、<国宝>」と告げられる一瞬前まで、脳が破裂するのではないかというほど、何度も何度も反復していたのだった。
“僕は21世紀のフォーマルなスーツは、イランの首脳部が着ているスーツになると思う”・ “次には中東式スーツに対する先見性を見せないといけない。それはMusic Award Japanの授賞式が最も相応しいであろう” という文をあらかじめ読んでいたので、アワードでの菊地さんのルックがどのようなものになるか楽しみにしていたのですが、思った以上にイラン寄りで驚かされました。
生前のハーメネイーの画像を検索しましたが、今回の菊地さんとの差分はバニラクリーム色の襟巻スカーフの有無くらいで、とくに広義の「中東」ルックとして一番エキゾに認識されているであろう頭部のアイテム(乱暴に「ターバン」と総称されるもの)が、菊地さんのステージ上装着物として比較的馴染み深いファー付帽に置換されていた、にも拘らず頭部全体のシルエットはハーメネイーを代表として記憶されている「あの感じ」に近くなっていたのが、他のモードからの「中東」擬態というか、東アジア人なりのブリコラージュとして高い効果をあげていたと思います。
「(あれ……)あーっ、菊地さん!(だよな……? 近影は見てたけど、こんな黒かったっけ……?)お久しぶりですねえ(そう、このフワフワした帽子は、DCPRGのライブでも被ってたよな。まあ、菊地さんのスタイリングだ、こっちとしてはよくわからないけど。でも、こんなに首から下が黒一色だったっけ……これ、スーツ、なんだよな……? まあタイもしめてるし……おかしくは、ないよな……)」
↑という効果をもたらす、「文明の中の不気味なもの」を国策未満のアワード会場内に敢えて持ち込むというのは、どんな危険物やラディカルスピーチより効果的な政治性の行使だと思います(笑)
聞いた話ですが、ジャック・ラカンが「“信用できる人間” の証としてスーツを着ていくのは、西欧人にとってもそれ以外の人々にとっても倒錯である」という趣旨のことを言っていたらしく、そこから「国連のような場所でスーツルックを強要されるのはそれ自体が植民地支配主義である」・「あらゆる服装が倒錯=不自然であるように、あらゆる性愛も倒錯=不自然である」という理路を引き出していたらしいのですが、私としては「さすが、いちばん同性愛について偏見の無かった精神分析家」と敬意を新たにするきっかけにもなりました。
それを念頭に、『(最初の)ブラックパンサー』ラストの国連スピーチシーンを見直したのですが、あそこでチャドリック・ボーズマンが着せられていたのはスーツすぎるくらいのスーツで、いちおうアフロフューチャリズムの本領を見せていたはずの映画でも国連内ではこうなっちゃうのかよ? と唖然を強いられるほどのものでした。 なんか豪壮なマントのようなものでアフリカ感を担保しようとしているチャドリックのスタイリングもキツいですが(本編で着ていた平服の出来が素晴らしかったので、国連シーンでも同じくらいのスーツルック準拠ではないアフロ正装で来ていたはず、という偽記憶が私の中に出来上がっていました)、同伴する女性3人が一様に同じ、あのボディコンシャスのワンピースみたいなやつ(名前を知らない)を着せられていたのまで見せられて、いやあ、これはダメでしょ、ライアン・クーグラーってファッションセンスが完全に中学2年生(略)などと思いました。
ラカン→ブラックパンサー的問題系を踏まえると、松尾潔が『マイケル』公開前イベントで着ていたスーツは20世紀の「良い大人」を典型的にレペゼンするもので、集合写真に収まってた人々も同様だったので、MJを祝福するための場所に出てきた人たちがそれでいいのかね? あんなに人種関係なく新しいルックを生み出した人なのに。MJがずっとアステアみたいなスーツルックの真似してたか? と思わざるを得ませんでした。
あと、松尾潔が『マイケル』イベントで撮られた写真のひとつをXアカウントに上げていたのですが、全員で10人写っている被写体のうち、(ルックから判断できる限りでの)女性は1人しかおらず、その中でスーツルックの典型を破っているのは映画主演の男性2人と、やや所在なさげに写っているレザージャケット・レザーハーフパンツ・レザーブーツ(『Bad』期のルックをリスペクトしたものとして順当にチャーミング)の女性、合計3人だけである。という所見が得られるようになっており、これに対して「単にMJのファンでしかないような男性だけが全員スーツ着てるじゃねえか(笑)これが“ボーイズクラブ”でなくて何だよ(笑)」とツッコむ気にならないとしたら、かなり重いヒステリーだと思います。
あと、松尾潔はここ数週間で「話す際に、唇の端だけを引き攣らせる」という典型的な麻生太郎マナーをコピーしつつあるので、「憎悪する対象に似はじめる」という精神分析的定式を裏付けるとともに、もはや「定期的にジム行ってます」的な押し出しすら捨てて首元の脂肪の割合が増えつつあるのは、これも何かの徴候なのだろうか? と思っています。
Post